第2話 何これ怖い、どうしてこうなった……
流川家と書いてるある。
こんな苗字の人はそんなに多く無いだろうと思う。
もしかしたら、あの爺さんの家族でも亡くなったのだろうか?
興味本位だったのか、それともただ確認して安心したかったのか?
曖昧な気持ちのまま外から確認してみようと身体を動かす。
まだ十六時半ばだった事もあって人は散漫としていたから怪しまれず確認できる。
しなければ良かった、見なければ自分はまだ日常の中で惨めでも生活が出来たんだ。
自分自身がおかしくなったかと思う光景があった。
さっきまで一緒にいたはずの爺さん。
流川 龍之介と名乗った爺さんの顔が遺影に収まっていた。
「えっ? はっ? なんで……」
外から聞いたら声にもなってなかったと思う、自分でもそんな素っ頓狂な声が出るとは思わなかった。そんな俺の変な声に気がついた人が集会場の中から出て来る。
「こんにちは、もしかしてお線香上げに来てくれたのかしら?」
見た目が三十代ぐらいの女性が声を掛けて、俺に少し怪しむ程度の目線をくれているのだ。当たり前だ、俺の格好と言えばTシャツに半ズボンにサンダルと帽子という圧倒的場違いなのだから。ただ言葉をくれた相手に対して俺は簡単な言葉しかひねり出せない。
「あ、あのっ。なっ亡くなったんですよね?」
俺の狼狽振りを見て爺さんの知り合いかと、その女性は勘違いしてくれる。
「もしかしてお爺ちゃんの知り合いですか?」
「おっお爺ちゃん?」
「はい、私は孫の流川 響子と申します。」
「俺は嶺 辰一と言います。あのっ本当に?」
流川響子と名乗った爺さんの孫は、少し微笑んで
「お爺ちゃんは一昨日亡くなりましたよ。お爺ちゃんと仲良かった人達は皆まだ信じられないようですけどね」
「龍ちゃんが死ぬなんてありえないとか、ドッキリなんじゃないかって疑う人もいる様子でしたよ」
あの爺さんは一昨日の時点でもういないとそうストレートに言われた。
疑う訳じゃないけど。さっきのアレは一体なんだったんだよ。
「お爺さんはもしかして双子だったんでしょうか?」
流川響子の顔見た、彼女は笑って言う。
「双子じゃないですよ。お爺ちゃんが二人いたら家の中大変になっちゃいます」
「そうですか、すいません。不謹慎でした。」
「お爺ちゃんはいつも呆気らかんとした人だったので。葬儀もいらんって言う人でしたから」
「はっはぁ~」
「良ければお線香挙げてくれませんか?」
「いえっ。こんな格好ですので……」
歯切れ悪く言うとまたしても彼女は笑う。
「構いませんよ、様式に従うなら駄目かもしれませんがおじいちゃんですから大丈夫です」
「でっでは。失礼します」
近くで遺影を見るともう紛れも無くあの爺さんだ。
でも、彼女の言う流川 龍之介氏と俺が会ったあの爺さんと中身が丸で一致しない。
彼女に頭を下げて外に出て身体の空気を入れ直す。
一抹の不安を抱えたまま葬儀が行われる集会場を後にした。
その足で最後に爺さんといたマンションのロビーに向かい、ロビーで案内板を見ると403号流川と間違いなく書かれている。ふと身体に風が当たる感覚がして、振り返るとエレベーターの扉が口を開けていた。嫌な予感がして今日あった事が事なだけに都合よく関連付けて考えてしまうのだ。自分でもなんでそんな事をしたか分からないけど、吸い込まれるようにエレベーターに乗ってしまう。
エレベーターに乗ったと同時に扉は閉じる。
押すべき階は四階しかないとボタンに手をやろうとして手が止まった。
既に四階のボタンが点灯しているのだ、背に嫌な汗が流れる。
「あ~これはガチのやつか? ヤバい気しかせんぞ」
取り合えず少しの抵抗を見せようと二階と三階のボタンを押してみるが、それが点灯する事は無く鳥肌がたつ 気味が悪い。そして四階で扉が開く。
「ええーいままよっ!」
相当の覚悟で降りてはみたけど何にもない。
少し恥ずかしい気持ちで辺りを見るが本当になんてこともない。
帰ろう。もう帰ろう。帰って艦隊の指揮を取りにけぇるんだ! 皆が待ってる!
現実逃避しつつエレベーターは怖いから階段で降りる事にする。
エレベーター横の階段の方へ足を進める。
「帰れないのか……」
目の前にあるはずの階段に違和感があるのだ。
まるで水の中で眼を開けた時みたいにぼやけているて、触らぬ神に祟りなしとばかりに反転別の階段を探す。長い廊下の先に階段が見えた。
「あそこから降りるしかないか」
部屋の前を通ることになるが仕方ない。
401……
402……
件の部屋の手前で一騎に走り抜ける算段!俺も策士よのぉ完璧だわ穴なんてない。
そうして一騎に加速する肉弾、ニート故に体力なんて微塵も無いから一瞬に全てをかける。腹に実った肉が揺れるのも気にせず額から流れる肉汁を払い403号の部屋の前を走り抜けれなかった。
ぐにぃ。ぶりぃいん。
「ぐべぇえっ」
柔らかい壁に当たったみたいに勢いは吸収され弾かれ地面に倒れた。
「痛ってえ」
何が起こったか理解が出来なかった。走り抜けようとした方向に目をやるとエレベーター横の階段と同じようにぼやけている。痛みから立ち直りそのぼやけた部分を押してみる。
ぐにぃ。ぐにぃ。
何これやわらかいんだからぁ~くせになるわ~☆
ぐにぃ。ぐにぃ。
どうしようこれはまる
ぐにぃ。ぐにぃ。
やめられない止まらない
ぐにぃ。ぐにぃ。
これは、辛抱たまらんで! びゅへへ!
よおおおおしいいだろおお顔面から飛びこんでやるううう!
ぐにぃぐにぃにはまっているとガチャっと音がなる。音がした方向に目をやると403号のドアが半分程開いていて、ドアの隙間からこちらを見てる人がいた。
流川 龍之介
死んでいるはずの爺さんがこちらを見ていた。
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