龍軌伝 異世界で龍に愛されるニート

とみーと

第一章 出会い編

第1話 善行を行ったら 不思議体験

目蓋が重い、立ってるのか横になっているのか。

そんな事すら分からない状態で身体も重くて鈍い。

みね 辰一しんいちは動こうとする事を止めた。


ニートになって早3年、就職活動もした。

金だけ欲しくてバイトもしたけど続かなかった。

二十七歳でこれじゃ駄目だ、どうにかして自分を変えないとって焦燥感に苛まれていた。


心配してくれる友達もいたけど、自分が惨めでそんな姿を見られたくなかったんだろう。くだらないプライドを守るように少しづつ疎遠になっていった。

どこで間違えたんだろうか、そんな事を思いながら家を後にする。

家を出るのはゴミを捨てるかタバコを買いに行く時のどちらかだけの日常。


タバコを買いに行っただけなのに何故こうなったんだと、今に至るまでの過程に思いを馳せる。あの爺さんに会わなければこんな事になってなかったんだよな……。


いつもの古めかしいタバコ屋さんに行こうとマンションを出る。

団地の前にある川を越えた所で爺さんに出会った。


「すいません……あの家に帰りたいのですが」


ヨボヨボしてみずほらしい姿の老人に声を掛けられる。

それを無視するほど辰一は落ちぶれてはいない。

「家? どこなんですか?」

当たり障りなく普通にただただ普通に質問する。

「分からないんです……」

家分からんってなんで? 迷子? こんな老人がか?

「えっと住所はわかりますか?」


住所を聞いたら、スラスラと答える爺さんに少し違和感を覚える。住所分かるなら帰れるだろJK。ただ、地元が故に住所で言われると逆に場所が分からず、スマホで地図検索してみるとめっちゃ近い。5分ぐらいやん……真っ直ぐ五百mぐらいやん!


「あ〜分かります」

「本当ですか!」


嬉々として俺の顔を目を見開いて見ている。

すげーテンション上がってるやん。


「家まで送りますよ」

「本当にありがとうございます」


道を説明して別れていれば、いつも通りの日常に戻れたのに。

それを考えてもどうしようもないけど考えずにはいられなかったのだ。


「本当にすいませんね……」

「いえ、全然かまいませんよ」


道すがら適当に話ながら進むとチラチラとこちらを見る視線に気が付く。

すると爺さんが「本当にこの道なんですか?」と確認するように聞いてくる。

疑うように聞いてきたと言うよりも、自分自身に投げかけるように言ったんだと感じる。だから、何も気にせずこの道で合ってると言うと少し悲しそうな顔をしたのが印象深い。


爺さんが言った住所のマンションに着く。爺さんは本当にここなのか?

といった具合で俺自身も心配になってしまう。取り合えずマンションのロビーまで行って、案内板で確認しようと提案しロビーまで同行することにした。


名前を聞くと、流川るかわ 龍之介りゅうのすけと名乗る。

君が好きだと叫びたくなるような名前だなとか思いつつ案内板で確認したら、403号室にその名前があった。間違いなく目的地はここで合っている。


爺さんもここで合ってたと確信したらしく

「本当にすみませんでした、自分の家なのにねぇ」と痛々しい笑顔でそう言う。

「困った時はお互い様ですよ」と笑顔で言うしか出来ない。


爺さんがエレベーターに乗るのを見送った後、俺はいつもの店よりも近くのコンビニに行くことにした。スマホで音楽を聴きながら、爺さんが住んでる団地をすり抜けて目的地に。タバコを買い、喫煙スペースで煙をくゆらせながら爺さんの事を考える。


住所は分かるのに家が分からないと言っていたのがどうしても疑問で仕方ない。

少し嫌な汗が流れた。俺は余計な事をしたんじゃないのかと。

ストーカーが探偵とかを雇って家を探したり、最悪は殺人事件とかになったり。

そんな記事をネットで見た事があったからだ。

不安になったけど、あんな姿の爺さんにそんな事できる訳ないかと結論を出す。


目的も達成したし家に帰ろうと元来た道を歩いてると、喪服を着た人達がまばらに歩いてるのを見かける。別段珍しい光景でも無いし気にせず歩いていると、団地ごとにある集会場の前に着く。こういった集合住宅地では人が亡くなった時には、集会場で葬式を挙げる事が多い。


子供の頃は霊柩車とかこんな光景みたらすぐ親指を隠したりしてたっけか?

葬儀の列を見ながら通り過ぎようとした瞬間、目を疑った。

そこには流川家と書いてあったのだ。

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