リリカ2

「あのさ」

樹先輩だ。もしよかったら、一緒に帰らない? その台詞に、カナちゃんの言葉を思い出す。

「樹先輩、私の楽器を取り上げるの。私のことを嫌ってるの。」

部活をやめたいという彼女に、やめないでと励ましたのはいつごろだろうか。

樹先輩に

「カナちゃんと帰るので」

と断ると、

「あ、あの子は先に帰ったから。」

うそ。カナちゃんは約束を破ったりしない。

「ほら、ロッカーみてごらん」

「あ、」

リリカのロッカーには、用事あるから先に帰るねというメモが入っていた。

「じゃあ、一緒に帰りましょう」

「うん」

樹先輩は八重歯を光らせて笑った。


 樹先輩はかっこいい。けど、少し怖い。

 リリカのまわりにも、感情を隠して友達づきあいをする人がいる。リリカへの怒りを隠して、リリカのいないところで悪口をいったり、うわさをながしたりする人が。

 リリカは感情を隠しているのはわかるけれど、何を隠しているのかわからないので怖い。

 樹先輩は何を隠しているんだろう。


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