第12話 準備

「はあ……はあ……もう夜か」


 耀は息を荒くしながら地面に大の字で倒れている。

 空は森に入った時の青空ではなく、無数の星が光り輝く夜空になっていた。

 辺りはそこが森であったことが嘘だったかのような有様である。

 

 大小様々なクレーターが、目に見える範囲全てにできているのだ。

 もちろん木なんてものは存在しない。

 荒野であった……そう言われなくては信じられないような景色に変わっているのだ。


 そんな地形改変を行ったのはもちろん耀である。

 獲得できそうなスキルを獲得した後、持っているスキルについていろいろ検証したのだ。

 それによってわかったことがある。


 スキルを発動できるのは目に見える範囲までということだ。

 例えば火魔法でファイアーボールを普通に詠唱して発動すると、自分の手の平を向けた方に一直線に飛んでいく。飛んでいく距離は魔法のレベルに依存していて、レベルが1上がれば100m飛んでいく距離が伸びるといった感じで。

 ただこれは普通に詠唱した場合の話だ。俺には無詠唱があるから詠唱は必要ない。

 そして無詠唱の場合飛んでいく距離以外全て指定できる。

 発動させる場所、飛んでいく方向、形、軌道など全てのことが指定できるのだ。

 その発動させる場所の最大射程が目に見える範囲までということだ。


 ただしそれらのことを指定して発動すれば詠唱した時より多くMPを消費する。逆に言えば指定しなければ同じMP消費で詠唱した時と同じことができる。それも一瞬で。[無詠唱]が有るだけでもかなり有利な戦いができるだろう。


ぐぅぅぅぅぅぅぅ 


「……そういえば朝食しか食べてなかったな、今日。お腹減ったな。とりあえず宿に戻るか」


 耀はかなりいろいろな事を、で試して疲れた体を無理やり起こして宿に戻ることにした。

 ステータスがどれだけ上がろうとスタミナは上がらないようだ。

 これからスタミナをどう強化していくかを考えながら森を抜けるために歩き出した。

 

 森を抜けて丁度町が見え始めた頃、耀は急速にしてくる膨大な魔力をことができた。

 耀はすぐさま腰に差している2本の刀の内1本を抜き、臨戦態勢に入る。

 だが耀は直ぐにフッと笑うと、刀を鞘に収めた。


 それから数秒もしないうちに耀の前に跪いている燕尾服の男が現れた。

 その男はゆっくりと顔を上げて……


「ご無事でしたか、主」


 男……いや、セバスは肩の荷が下りたようにほっとした顔で言った。


「心配かけちゃったか。ごめん」

「いえ。それよりもその服はどうなされたのですか?」

「ああこれ? 近くの森でいろいろ試してたらちょっとね」


 耀の服は何年も使い古させてボロボロの服、という表現が一番合うようなものになっていた。


「そうでしたか、服は何着か宿に置いてありますのでそれにお着替えください」

「まさか買っておいてくれたの?」

「僭越ながら何着か服を選んで買わせていただきました」

「良かった、服これしかなかったんだよね。ありがとう」

「いえ、滅相もございません」


 ぐうううううううう


 その場に響き渡る音。

 その音を聞きながら耀は苦笑いを浮かべた。

 この音はもちろん耀のお腹から聞こえた音だ。


「安心してください、宿の主人に厨房を借りられるように話はつけておきましたし材料もいくつか買ってありますので」

「ホント何から何まで悪いね」

「いえいえ、私個人の為ですので主はお気になさらないでください」


 確か食事は外で食べてくれって宿の主人に言われたな。

 何でも料理を作る人が風邪で寝込んでいるらしく作れないだったけな?

 今まですっかり忘れてたけど。

 俺には勿体無いぐらいできた悪魔だ。

 ……後で魂とか要求されないよな?

 心配になってきた。


「フフ、大丈夫ですよ。私は主と契約した悪魔。主の為に生きることが本望のようなものですので」

「……声に出てた?」

「いえ、顔が『どうしよう』といった顔だったものですので不安を取り除ければと思いまして」


 顔に出てたのか。

 にしてもそれだけで的確にそんな事言えるか普通? 俺は無理だ。

 それを平然とやってのけるセバス……やはり俺には勿体無いぐらいに優秀だな。


「では私は先に戻って料理の準備をしておきますので、ゆっくり戻ってきてください」

「わかった」

「それでは」


 セバスは最後にそう言うとその場から消えていた。

 俺は夜空を見上げながら一息ついてからゆっくりと町に向かって歩き出した。


 ーーー


「お待たせしました。耀君」

「うん。それよりも模擬戦はどうだった?」


 俺達は今城の前まで静香とホワイトを迎えにきた。

 セバスの話によると、昨日はかなりルーチェとマリーに心配をかけたらしいので朝起きたときに謝っておいた。

 二人とも「いえ、大丈夫です」と言っていたが、顔が物凄く嬉しそうだったから謝って正解だと思っている。


「それが……」

「何かあったの?」

「……私何もしてないんです」

「ん? どういうこと?」

「ガウ!」


 いかにも撫でてって感じで俺のほうに近づいてくるホワイト。

 俺はとりあえずホワイトを撫でることにした。

 ホワイトの毛はとても柔らかくてモフモフしてる。何時までも撫でていられるぐらい気持ちいいのだ。

 ホワイトも気持ちよさそうにしてるから誰も文句は言わないよね。


「実はホワイトが一撃で終らせてしまって」


 なるほど。ホワイトがやったから静香は何もできなかったと。

 でも静香がやったとしても一撃で終ってただろうし問題ないと思うんだよな。

 なのに何故、残念そうに俺とホワイトを見ているんだろう?

 やっぱり自分でやりたかったとかかな? いや、静香に限ってそれは無いか。俺じゃあるまいし。


「そっか。でも良かったよ、これで一緒に旅に出ることができるし」

「はい!」


 なんだ? えらく嬉しそうだな。

 さっきまであんなに残念そうにしてたのに。

 早く旅に出たかったとかだったのかな。

 なら早く出発しようかな。

 準備は昨日のうちにセバス達がしてくれた。

 荷物を何も持って無いけど準備はできてるらしい。


「それじゃあ行こうか」

「あの、旅に出る前に食料とか服とか買わなくていいんですか?」

「それならセバス達が用意してくれてるから大丈夫だよ。それよりも俺達の準備は終ってるけど、静香の準備はまだだったね。食料は大丈夫だけど服は何着か買っといたほうがいいと思うよ」

「わかりました。すいません、私の為に時間を取らせてしまって」

「いいよ全然。お金も無いだろうから俺が出すよ」

「? お金ならありますよ?」

「え?」

「王様から貰いましたよね、金貨1枚」

「そ、そうなんだ」


 王様から貰った?

 俺貰ってないんだけど?

 しかも俺の所持金より多い金貨1枚。

 何なの、嫌がらせ? 嫌がらせなの? それともただ忘れてただけ?

 いや、この世界に来て何も持ってない人間にお金を渡すの忘れるか? 

 忘れないだろ! 

 なら嫌がらせって事になるのか?


 はあ~、過ぎたことは忘れよう。

 この世界に来てから忘れることの大切さを学んでる気がするな。

 過去の問題より今の問題だ。


 で今の問題は、静香までもが俺よりお金持ちだということだな。

 さすがにホワイトはお金を持ってないだろうし。


 ……嘘だろ。


ホワイト


金貨 10枚  銀貨 120枚  銅貨 8枚


 [完全鑑定]で見れるかなと思って見てみたら見れたよ。

 いやそっちじゃない。

 何でホワイトがこんなにお金を持ってるの?

 これで仲間の中で俺が一番お金を持っていないことになる。

 眷属全員よりお金を持っていない主……悲しすぎる。

 こうなったら絶対金額をカンストさせてやる!

 覚えてろよ! 俺! 

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