第11話 3人の眷属

「ご主人様はどこに行かれたのでしょうか?」

「主の事です、心配しなくても大丈夫でしょう」


 部屋の中で話しているのはセバスとルーチェである。

 ルーチェは話しながらもソワソワしている。

 二人は円形の机の周りにある椅子に対称になるように座っている。

 残り2つの椅子は空席だ。


「それはそうなんですけど……」

「主のことを信じて待つのも大切です。……にしても貴方と仲良く話す日が来るとは思ってもいませんでしたよ」

「私も今でも信じられませんよ、ですけどご主人様は私達が仲良くするのを望んでいらっしゃる。ならそれに応えなくてはいけませんから」

「そうですね。それに我々で主を支えなくてはいけませんからね」


 精霊と悪魔が同時に同じ者と契約することが無いのは仲が悪いからという理由も存在している。

 精霊は光を司る者であり、悪魔は闇を司る。

 対極の存在である両者は本来あまり仲が良くないのだが、今は特別な存在によって仲が良くなりつつある現状である。


「支えるといえばご主人様が新しく仲間にしたマリーという女、どう思いますか?」

「女ですか。心配しなくても主はそういう関係になるために仲間にしたのではないと思いますよ? どうにも主は女心に鈍いところがあるようですから」

「ッ! 別に私はそういう意味で聞いたのではありません! ただご主人様と話しているところすらあまり見ていないのに、どうして一緒に旅について行きたいと言い出したかについてです」


 ルーチェは顔を赤くしながらあらぬ方向を見ている。

 セバスはそれを見ながら苦笑いを浮かべるしかない。


 今の反応を見れば一目瞭然であるのに違うと言うのだから困ったものである。

 セバスから見ておそらく、橘 静香とマリーの両者も同じような感情を少なからず持っているように見えている。

 しかしながらそのことに耀は気づいていない。

 いや、気づいてはいるかも知れないが別の感情……おそらく崇拝か何かと勘違いしているのだろう。

 セバスは何となくそんな気がしているようだ。


「確かにそのことに関しては気になりますね。マリーが帰って来たら聞いてみることにしましょう」

「直接聞くのですか!?」

「はい。それが一番手っ取り早いですからね。誑かされた時はどんな手を使ってでも理由を探ります、主に危害が加わえられてからでは遅いですから」

「ですが嘘をつく可能性もあるでしょう?」

「それは否定できません。ですから話を聞いた後、その話が正しいかどうかも調べるつもりです」

「その時に嘘だとわかった場合はどうするのですか?」

「主に報告します。判断も主に任せるつもりです。もし嘘をついていてもなお仲間として扱われるのであれば、最大限の警戒をします。できるだけ主の意向にはそいたいですし」

「そうですね、わかりました。その時は私もご主人様の為に協力いたしましょう」


 (ご主人様の為にですか。今の貴方の顔を見ているとそう言ってどんなことでもやってしまいそうですね。私も気持ちは同じですから人のことは言えませんが)

 とセバスが考えていると


 ガチャ


 突然部屋の扉が開き中にマリーが入ってきた。

 マリーは先程一緒に居た時は持っていなかった短剣を左の腰に差している。

 マリーは耀たちが城を出て旅に出ると聞いてからすぐ城を出たため、旅の用意が全くできていなかったのだ。

 その為宿を取ってから、少しでも足手まといにならないように武器だけでも買ってくることにした。

 その武器が今左の腰に差している短剣である。


 部屋に入ったマリーは、部屋の中を見渡してから空いている椅子に座った。


「耀様はまだ帰ってきておられないのですね」


 そして残念そうに俯きながらそう言った。

 それをルーチェは訝しむような目で見ていた。


 そんな二人の様子を見ていたセバスは意を決した。

 今のままの状態で主が帰って来たら迷惑をかけてしまう。

 ならば主が帰ってくるまでにこの件は終らせるべきだと判断したのだ。


「マリーさん少しいいですか?」

「はい、何でしょうかセバスさん?」

「呼び方はセバスでいいですよ」

「では私もマリーでお願いします」

「わかりました。ではマリー、貴方はどうして主と供に旅をすることにしたのですか? 私達から見た貴方はそれほどまでに主と接点があったようには思えないのです」

「……」

「マリー、正直に話してください。でないと今後主を守る為の支障が出てきてしまいます」

「……わかりました。……今から話す内容は全て真実です。信じてくれとは言いません、ですが耀様には話さないでいただけないでしょうか。お願いします」


 マリーはそう言うと机の上に両手を置いて頭を下げた。

 ルーチェは先程よりも鋭い視線でマリーを睨んでいる。


 しかしその行動を見てセバスは迷っていた。

 話す内容が真実であり、またその内容を主に伝えないで欲しい。

 明らかに怪しい。

 怪しいのだけれど、何故そのようなことを言う必要がある?

 怪しまれるのは相手もわかっていたはずだ。なのに言った。

 何故だ?


 兎も角内容を聞いてみないと判断できないので聞いてみることにした。


 そしてマリーの口から語られた真実。

 前世はこの世界ではなく耀が生きていた世界で生きていたこと。しかも人ではなく犬として。死の間際に耀に助けられたこと、女神と名乗る者によって再びこの別の世界に生を受けたこと、助けてくれた耀のことを一生をかけて支えて生きたいということ。


 あまりの内容にセバスとルーチェは驚きのあまり言葉が出ない……ということは無かった。


「なるほど、そういうことでしたか」

「ご主人様らしいですね」


 セバスはしきりに頷きながら、ルーチェは満面の笑みを浮かべて誇らしそうに言った。

 それを見たマリーが逆に驚きで言葉が出なくなっていた。


「……信じてくれるんですか?」

「今の話の内容なら貴方が主と共に旅をしたいということは説明できますからね。それとも今の話は全て嘘なのですか?」

「いえ、そんなことはありません! 全て真実です!」

「でしょう。なら貴方が一緒に居るのは問題ないということです。それにこの世界では珍しいことではないですからね、別の世界の生き物が人間として転生するのは」

「そうなのですか?」

「はい」


 セバスがそう言うとマリーは胸のつかえが取れたように安心しきった表情をしていた。

 だが急に何かを思い出したようにハッと表情を変え、申し訳なさそうにセバスとルーチェの顔色を窺った。


「すみません、一つ聞きたいことがあるんですけどいいですか?」

「なんですか?」

「先程ステータスを確認したら称号に【眷属】というのがあったのですがどういう意味だかわかりますか」

「……」

「……」


 マリーを眷属にしことを耀は、セバスとルーチェに話していなかった。


 (なるほど、だから仲間にしたのですね。眷属になれば主に対して敵対行動は取れなくなりますから安心できます。そう言うことだったのなら話してくれても良かったのですが、おそらく忘れていたのでしょうね。私達は疑わなくて良い者を疑っていたのですね)

 セバスはそう考えると苦笑いしかできなかった。


 とりあえずマリーに【眷属】についてと、耀が特殊なスキルを持っているがそれは他言してはいけない事などをセバスが説明することになった。

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