第13話 報復

 女性の買い物は時間が掛かるとよく言われているが、まさにその通りだった。

 服一つ選ぶのに1時間も掛かるなんて思わないだろ?

 しかもルーチェとマリーも服を選び出したし、今以上に時間が掛かるのは瞬時に理解することができた。

 だから俺、セバス、ホワイトの2人と1匹は別行動をすることにした。

 この世界に携帯電話なんて便利なものは無いが、便利な念話というものはある。

 服を選び終わったら念話で連絡を取って合流する予定だ。


 そんな訳で俺達は女性陣と別れて冒険者ギルドに来ている。

 冒険者ギルドに来た理由は、冒険者について聞く為だ。

 前回来たときはテンプレ的な悪3人に会ったせいで聞く機会を逃してしまったからな。

 決して忘れていた訳ではない、断じて違う。

 後切実にお金を稼ぎたくなったのもある。

 さすがに眷属達よりお金を持って無いのわね。


「あの、すみません」

「はい?」

「冒険者について少し聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」

「大丈夫ですよ」

「ありがとうございます」

「いえ、でどのようなことが知りたいのですか?」

「はい、まず冒険者になるメリットとデメリットを教えてください」

「そうですね~。一番のメリットは身分を証明することができること、デメリットに関しましては、魔物討伐など危険なものが多いことですかね」


 大体予想通りだな。

 確かに身分を証明できるのはかなりのメリットだ。

 何かあったときに絶対に役に立つ。

 うん、今すぐ登録しといた方がいいような気がしてきた。


 ……いや、早まるべきじゃないな。

 一番大事なことを聞いてからにしよう。


「すみません、もう一つ。冒険者にランクって存在するんですか?」

「はい、ありますよ。上からS+・S・A・B・C・D・E・Fまであり、ランクによって受けることのできる依頼が変わってきます」

「そのランクはどうすれば上げることができるんですか?」

「Eランクは一定の数の依頼を成功させると、なることができます。それ以上のランクに関しましてはギルドで昇格戦を行ってもらいます」

「なるほど。昇格戦はどこのギルドでもすることができるんですか?」

「もちろんできます。ですが準備に少し時間が掛かるので、時間に余裕があるときに行うことをおすすめします」

「わかりました。いろいろ答えてもらってありがとうございます」

「大丈夫ですよ。また何かありましたら気軽に聞いてください」

「はい」


 よっし! やっぱりランクは存在したんだ!

 何故Sだけ+があるのか知らないけど、兎に角テンプレで良かった。

 しかもどこのギルドでもランクを上げることができる。

 これは次の町に冒険者ギルドがあったら一気に上げるしかないな。

 次の町が楽しみになってきた。


「主」

「……うん、わかってる」


 俺は先程までの笑顔ではなく能面のような顔になっている。

 その訳は、耀達のほうに歩いてくる人物。

 身長は150cmほどで鼻のとがった男。


「探しましたぜ旦那。昨日はお世話になりました」


 その男は俺達の前まで歩いてくると、不気味な笑みを浮かべながらそういってきた。


「何のことかわからないんだが」

「とぼけないでくださいよ旦那。昨日このギルドでじゃないですか」

「そんなことがあったのか?」


 そう、この男は昨日ギルドで戦った3人組の短剣を持っていた奴である。

 俺もそのことは見た瞬間にわかっていたが、あくまでも白を切る。

 それで無くてもお金が少ないのに、昨日のお金を返せって言われたら面倒だからだ。

 それにこのお金はいきなり剣が飛んできたことに対しての慰謝料の意味もあるのだから、返すわけが無いが。


「まあ、あくまでも白を切るならそれでもいいですけど、リーダーが旦那にお礼を言いたいって言ってるんでついて来て貰ってもいいですか?」

「お礼?」

「へい、昨日のことに関してはしっかりと落とし前をつけとかないといけないって」


 ……怪しすぎだろ。

 もしかしてバカなのか?

 もっと他にもいろいろな誘い方があったと思うんだが。

 でもまあいい。

 それに乗ってやるよ。

 これは……臨時収入の予感がする!


「そうか、わかった。案内してくれるか?」

「もちろんですぜ、旦那!」


 俺の前に立っている男はしてやったりといったような顔をしている。

 俺は新しいおもちゃを買ってもらった子供のような笑顔で男のことを見る。


 楽しみだ。

 いくらお金が増えるかな!


 そんな男と耀のやり取りを、耀の後ろに居るセバスとホワイトはただ見ているだけだった。

 セバスは耀の意向なら、意見を求められない限りそのことに反対することは無い。

 しかし耀の身に危険が及べば全力で、どんなことをしても耀を守る。耀のやろうとしたことが失敗しそうであれば、自分の持てる全てを使って成功させる。そういった考えの持ち主だからこそ黙っていた。

 ホワイトは昨日の戦闘のことを知らないので、現状を理解できていないだけだったが。



ーーー


 俺達は町を出て、森を進み、洞窟の中を歩いている。

 町からはかなりの距離があり、ここなら大きな音を立てても町には聞こえないだろう。

 おそらくそれが狙いでこんなところまで連れてきたのだろうが、それはこちらとしてもありがたい。


 そんなことを考えて歩いていたら楕円形のひらけた場所に出た。

 その空間には俺達を囲むような形でかなりの人が立っている。

 丁度真ん中ぐらいまで歩いたところで俺達が通ってきた道が塞がれた。

 おそらく土魔法で塞いだのだろう。

 うん、そういう使い方もありだな。

 

「お前か、俺の部下をかわいがってくれたっていうのは?」


 俺達の正面で国王が座っていたような椅子に、偉そうに足を組んで、頭を左手で支えながら言ってきた男。

 椅子の横に大剣が置いてある事から、おそらく大剣を使って戦うのだろうことは予想できる。


「かわいがった? 何のことかわからないんですけど」

「フン、とぼけやがって。そいつで間違いないんだな、アンガス」

「へいリーダー。コイツが昨日俺達から金を奪った奴で間違いないです」


 へえーー、昨日短剣で戦ってた奴、アンガスって名前なんだ。

 興味なかったからステータスも見てないし知らなかった。

 知ったからって何の特にもならないけど。


 それよりも案の定報復って感じだな。

 とりあえず相手が手を出してきたら正当防衛って事になるな。

 後大勢の人達に襲われそうになった恐怖ってことで慰謝料も貰おう!


「そうか。なら遠慮はいらねえ、お前等やっちまえ」

『うおおおおぉぉぉぉ』


 俺は思わず耳を塞いだ。

 バカなの! 洞窟内で大声出すなよな! しかも人数が多いんだよ、50人は居るだろ。 五月蝿くてしょうがない。


 声が止んだと同時に俺達の周りを囲っていた奴等が襲い掛かってきた。


「やあああああああ」


 俺目掛けて振り下ろされた剣を最小限の動きで避けて、振り下ろしてきた奴の腹にパンチを決める。


「うっ……」


 パンチされた奴は持っていた剣を地面に落として、そいつ自身も地面に倒れこむ。

 もちろん手加減されたパンチである。


 さらに右から突いてきた槍を右足で軽く力を入れて上に蹴り上げる。

 すると槍は蹴られたところで二つに折れ、先端は洞窟の天井に突き刺さり、もう片方は持ち手と一緒に後方に飛んで行く。

 近くに居た何人かも一緒に巻き込まれて飛び、壁にぶつかって5人が気を失った。


「な、何だ今の」

「し、知るか俺に聞くな」

「何やってんだお前等! 相手はたったの2人と1匹だろうが!」


 その声で俺は一人で無かった事を思い出す。


 どうも戦闘に集中すると周りが見えなくなるときがあることに気づき始めた。

 セバスとホワイトは……やっぱり大丈夫だな。


 俺がセバスとホワイトの方を見た時、二人は10人ずつぐらい戦闘不能にしていた。

 二人とも武器を使わずに戦うのは得意な方なので俺自身もあまり心配はしていなかった。


 さてじゃあ残りも片付けちゃいますか。

 どれだけ持つか楽しみだ!



ーーー


 それから1分もしない内に部下と呼ばれる奴等は全員気を失った。

 それを見ていたリーダーと呼ばれていた男は、先程までの偉そうな体勢ではなく、椅子の上で足を抱えて震えている。


 俺はその男の近くまで歩いていき男の肩を右手で掴む。


「ひぃぃぃ」


 先程までの威勢が嘘の様に怯えきっている。

 といってもそれがおそらく普通の反応である。

 50人はいた部下が1分もしない内に全員戦えなくなったのだから。

 しかもたったの3人相手に。

 怯えない方が可笑しいぐらいの状況だ。


 そして俺はそのリーダーに対してある提案をする。


「なあ、お前達を見逃してやってもいい」

「ほ、本当か!」

「ああ、その代わり俺の要求に応じてもらう」

「わ、わかった」

「フッ、賢明な判断だ」


 俺はそう言うと男の肩から手を離した。

 リーダーと呼ばれていた男は一瞬安堵の表情をするが、状況は末だ深刻であることを理解し真剣な表情に変わる。


「……で、その要求とは何だ?」

「まず第一にお前達が貯め込んだ金を俺に渡すこと。どうせ誰かを騙したりして集めたんだろう?」

「……わかった」

「否定しないって事は事実ってことか。あ、後誤魔化すのも無しな。そんな事したら今度は手加減しないから」

「い、今ので手加減をしてただと!」

「ああ、当たり前だろ。本気出してたらこんな洞窟無くなってるよ」

「嘘だろ。何て化物に手を出してしまったんだ」

「だから、俺の要求を素直に聞いてくれたら見逃してやるって言ってるだろ。後もう一つ、俺達に今後危害を加えないって事を含めた二つをしっかり守ってくれたらだけどな」

「……わかった。約束しよう」


 よっし! 臨時収入獲得!

 さてどれぐらい溜め込んでるか楽しみだ!

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