第14話 出発

「これで全部だ」


 リーダーと呼ばれていた男はそう言って俺の前にお金を置いた。

 俺はそんな男を訝しそうな目で見つめている。


「本当だ! これで全部だ!」

「そうか」


 リーダーの男は、それはもう真剣な顔で言っている。

 事実、この男は嘘は言っていない。

 耀の前に置かれたお金はこの組織が溜め込んでいた全てである。


 俺はこの男は嘘を言っていないと判断した。

 だが自身の圧倒的強さを見せた上で、なお嘘をつける度胸があるのならその嘘は見逃してやってもいいと考えてもいた。


(耀君、買い物が終りました)

(了解。ルーチェとマリーも終ったの?)

(はい、ご主人様)

(私も終りました。耀様)

(そっか、わかった。じゃあ町の出口で待っててくれない? 直ぐに行くから)

(((はい)))


 急用ができてしまった。

 とりあえずお金をステータスにしまって……よっし、これでここにいる意味も無くなったな。

 ルーチェ達を待たせる訳にはいかないから急ぐか。

 塞がれた道も術者が気絶したから元に戻ってるしな。


「待ってくれ!」

「何?」


 俺が来た道のほうを向いて戻ろうとしたとき、リーダーの男がいきなり叫んできた。

 俺は無表情で振り返り、心底めんどくさそうな声音でそれに答えてやった。

 すると一瞬怯えた顔になったが直ぐに何かを決めたような顔をして俺のことを見つめてきた。

 俺は男に見つめられても嬉しくないから用件があるなら早く言ってほしい。


「名前を……名前を教えてくれ」

「……耀だ」

「ありがとう。ヨウ」

「用件はそれだけか?」

「ああ、引き止めて悪かった」


 正直名前を教えるかは迷った。

 後でまた報復をしに来るかもしれないと考えたからだ。

 だけど臨時収入が自分から歩いて来てくれるならいいや、という結論に達して教えることにした。

 

 そして用件は名前を聞くだけだったようなので俺達は急いで町に戻る。

 今いた洞窟は町からかなり距離があったから、急がないとルーチェ達を待たせることになってしまうからな。

 急ぐと言ってもセバス達が追いつける速度に落としてになる。


 それでもあっという間に町の出口にたどり着く事ができた。

 本気で走った訳ではないのであまり疲れてもいない。


 周りにルーチェ達の姿が見えないことから、どうやら先にたどり着けたようで一安心だ。

 ルーチェ達が来る前にお金を確認しとくか。


金貨 1枚  銀貨 175枚  銅貨 702枚


 嬉しくて思わず笑みがこれぼれてしまう。

 ヤバイ! あんまり期待してなかったけど予想以上にいい収穫だ!

 これは静香よりお金を持ってるって事になるんだよな!

 よっし!

 この調子で眷属達の主としての威厳を取り戻していこう!


 お、どうやらルーチェ達が来たみたいだ。

 少し急いで来たみたいだけど、やっぱり荷物を持っていない。

 何で?

 服を買ったんじゃないのか?


「お待たせしました、耀君(ご主人様)(耀様)」

「俺達も今来たところだから全然大丈夫だよ。それよりも服を買ったんじゃないの?」

「? 耀君のお勧め通り何着が買いましたよ?」

「えっ? でも何も持って無くない?」

「ルーチェさんのアイテムポーチに全部入れてもらいましたから」

「……ナニソレ?」

「ご主人様、アイテムポーチとは、制限はありますがかなりのものをしまう事のできる魔法道具マジックアイテムです」

「そんな便利な物があったんだ」

「はい、残念ながら2つしか無かったので私とセバスが持っています。ご主人様が欲しいようでしたら渡しますが?」

「いや、いいよ。旅の準備とかいろいろ2人に任せてるから、俺より2人が持ってるほうが役に立つしね」

「わかりました」


 そうか、やっぱりそんなのもあるんだ。

 いろいろな魔法道具マジックアイテムを集めるのも楽しいかもしれないな。

 いや、自分で作れるとしたら作ってみるのも楽しそうだ。

 

「よっし、じゃあ出発する前にマリーもパーティーを組んどこうか。次の町に着くまでにマリーのレベルを上げたいしさ」

「ありがとうございます。これで私も役に立てるようになるかもしれません!」

「頑張るのはいいけど、無理はしないでね?」

「かしこまりました!」


 少し心配になるな。

 有る程度レベルが上がればかなりステータス的には強くなれるから大丈夫だと思うけど。

 俺達よりステータスが高い奴が絶対に居ないとは言えないからな。

 俺の場合ステータスやスキルが強すぎるせいで、技術的な面がどうしても疎かになってる気がする。

 その辺の解決策を考えながら次の町を目指すとしよう。

 次の町で冒険者ギルドがあれば冒険者登録をして、昇格戦を受けなければいけないしな!


「それじゃあ行こうか」

『はい』

「ガウ」


 俺達は町を出て次の町を目指す。

 次の町といってもどこにあるかはわからない。

 兎に角道なりに歩いてどこかを目指すだけだ。

 その方が楽しそうだしな。

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