第7話 ダンジョン

「これからよろしくお願いします。ええっと……」

「ああ、俺は朝野 耀だ。耀でいい。後ろの二人はセバスとルーチェ」

「すみません。私の名前は覚えていてくれたのに……私は……」

「気にしなくて良いって。それよりもそろそろ行こうか? ここに居ても何も変わらないし」

「わかりました」


 俺達は部屋の中央にある階段を下りてダンジョンに入った。

 ダンジョンの内部は洞窟のような感じだ。

 両方の壁側には等間隔に松明が置いてある。

 新兵の訓練で使うから置いたのか元々置いてあったのかはわからない。

 そんな道を少し歩くと扉があった。

 その前には先に入っていてくれた兵士の人が立っている。


「お待ちしておりました。もう大丈夫ですか?」

「はい。それより待っていたってのはどう言うことですか?」

「ダンジョンに入る前にいくつかお話しなければならないことがございますので」

「なるほど」


 ……どうやらまだここはダンジョンでは無いらしい。

 恥ずかしい顔に出てないよね? なるべく普通に答えたけど顔に出てたら台無しだし。


「では少しだけお時間をいただきます」


 よかった多分出てない。


「まずダンジョンでの訓練では城内での訓練と違い命の危険がありますので念のため我々国の騎士が必ず一人ついて行きます。危ないときは指示や手を出したりしますがご了承ください」


 まあ当然だろうな。

 こんなところで大事な国の勇者を死なせるわけにはいかないだろうし。

 それとおそらく俺達がどれだけ役に立つかの確認もあるんだろうな。


「次にパーティーを組んでいただきます。パーティーを組むことによって経験値の共有ができるようになりますので」

「そのパーティーってのはどうやって組むことができるんですか?」

「はい。ステータスを開きながら組みたい相手を見てパーティー申請と念じてください。申請された人はパーティー承認と念じてみてください」


 ステータスを開いてセバスを見ながらパーティー申請と念じてみた。

 するとステータスウィンドウの他にもう一つ半透明のウィンドウが出てきた。

 左上にタブのようなものが三つある。

 パーティー・パーティー申請中・パーティー承認待ちの三つだ。

 今はパーティー申請中のタブを開いている。

 セバスの名前だけが書いてあったが少ししてセバスの名前は消えた。

 試しにタブのパーティーのところをタッチしてみると、パーティのタブに移動できたようでセバスの名前があった。

 大体わかった。申請して承認する、するとパーティーが組めていて経験値の共有が可能になる。何かかなりゲームみたいだな。楽しいから良いけど。

 とりあえずルーチェと橘、後ホワイトとパーティーを組んでおく……こんなもんだな。


「できましたか?」

「はい。話はそれだけですか?」

「そうですね。以上で終わりです。ダンジョンはこの扉の先からとなります」

「もう行ってもいいんですか?」

「はい、大丈夫ですよ」


 その言葉を聞いて俺は扉を開けて中に入った。

 中の景色を見た時無意識に笑っていた。

 作りは扉までの道と全く同じだった。

 けれど松明は置かれていない。

 なのに暗くないのだ。

 理由は壁や床で緑色に光っている物のお陰だろう。

 おそらく地球で言うところのヒカリゴケのようなものだろう。

 ヒカリゴケと同じような原理で光っている訳ではないだろうが。

 そんな景色を見たら興奮して笑顔もこぼれてしまうというものだ。

 

 もう少しじっくりと見ていたいがそうも行かないので歩き出す。

 ここにダンジョンの景色を見に来た訳じゃないからな。

 本来の目的のためにも歩かなければならない。


(ご主人様(主))

(ああ、わかっている)


 目的の者を発見したのは入り口から2~3分歩いたところだった。

 そいつは道の真ん中にいた。

 見た目は水色の楕円形だ。

 ぷるぷると動くそいつは……


「あれはスライムという魔物です」


 俺がその生き物らしき者を見ていると後ろの兵士から声が聞こえた。

  

 スライム


 そう兵士は言った。

 やっぱりあれはスライムなのか!

 まさにファンタジー!

 魔物の中でも最弱で有名なスライムさん。

 強くなれば魔物の中で最強とよく言われるスライムさん。

 初めての戦闘がスライムとか何というテンプレなんだろうか!


 そう思いながらも俺は腰に差している刀を一本だけ抜く。

 さて有名なスライムさんのステータスはどんなもんなのかな?



種族 スライム


Lv 1

HP 10

MP 8

攻撃力 13

防御力 11

敏捷性 12

魔力 6

運 5


▼スキル

 [物理攻撃耐性 Lv1]


▼固有スキル

 [分解]



 これで最弱なんだ。

 イメージしてたより強くない?

 攻撃力なんて俺より上なんだけど?

 

 でもこれで怖気づいていたらこの先やっていけないよな。

 俺はこの世界で生きていくんだ。

 なら魔物との戦うこともかなりあるだろう。

 そんな中で相手が強いからと戦うことをしなければ俺は一生戦うことはできないだろう。

 今やって俺が強くなるしかないんだ!

 俺は強くなることができるがあるのだから。


「スライムには物理攻撃はあまり効果がありません。魔法で攻撃してください」


 俺がスライムに走り出したときにそんな声が聞こえた。

 それはスキルを見たときに大体わかっている。


 俺は走る速度を上げてスライムまで近づきそのままでスライムをした。

 両断されたスライムは光の粒子となって消え、消えた痕にはビー玉大の水色の石が落ちていた。

 正直想像より簡単に倒せた。もう少し苦戦すると思っていたからな。


 それを見ていた兵士は目を大きく見開き顎が外れたのかと思うほど口を開けていた。

 橘とホワイトもまさか魔物を一撃で倒すとは思っていなかったのか少し驚いていた。

 セバスとルーチェはさも当然と言う顔をしている。

 俺はまさか一撃で終るとは思っていなかったので少し残念に思っていた。

 俺としてはもっと戦って実戦経験を積みたかったのだが一撃では何も学べない。

 俺みたいなスキルがチートな奴は大抵その力に驕って自身を鍛えなくなり努力していた人に負ける……これはテンプレだ。

 でも俺は一度たりとも負けたくない。

 なら戦闘経験の差がつかないように一戦一戦を大事により濃厚に行いたい。

 努力の差もつかないように毎日努力し続ければいい。

 なのにこのスライムとの戦い……とても勿体無い事をしてしまった。

 これは反省しないとな。

 

「何をしたんですか! 物理攻撃が効きにくいスライムを物理攻撃で、しかも一撃で倒すなんて!?」

「何って、見てたろ? それに効きにくいだけであって効かない訳じゃないんだからさ」

「それはそうですが。勇者様はまだレベル1のはず……なのに……」


 兵士の人は小声で言っていたので何を言っているのかうまく聞き取れなかった。

 なんなんだあの人、急に大声を出したと思ったら今度は小声になるし情緒不安定だな。

 まあでも、さっきの攻撃は普通の攻撃じゃなかったってのは間違ってないけどな。

 まさか一撃とは思っていなかったが……ああ、ホント勿体無い。


 さっきの攻撃は刀の周りに風を這わせて攻撃したからな。

 イメージは見えない竜巻が刀を覆っている感じをイメージした。

 風の刀といったところだろうか?


<レベルが上がりました。それと今倒したスライムに対して[ステータス略奪]を発動しますか?>


 [メーティス]はレベルアップまで教えてくれるのか。

 それにしてもレベルが上がったせいか知らないけど急にかなりダルくなってきた。


 後[ステータス略奪]が発動できるって?。

 効果は確かステータスを奪うだったはよな?

 倒すたびに一々確認されるのも面倒だから、倒した敵に対しては自動的に発動するようにしといてくれる?


<かしこまりました。では[ステータス略奪]を発動します>


 何か更にダルくなってきた。

 これは確実にステータスに関係してるだろ。

 俺のステータスだけでも確認してみよう。



名前 朝野 耀 

性別 男 


Lv 3

HP 15/755

MP 12/692

攻撃力 886

防御力 1011

敏捷性 887

魔力 626

運 113


称号

 【異世界人】【勇者】【神(仮)】【神級精霊の契約者】【神級悪魔の契約者】


眷属

 『セバス』『ルーチェ』『橘 静香たちばなしずか』『ホワイト』


▼スキル

 [剣術 Lv3][火魔法 Lv3][水魔法 Lv3][氷魔法 Lv3]

[風魔法 Lv5][土魔法 Lv3][雷魔法 Lv3][闇魔法 Lv3]

[光魔法 Lv6][回復魔法 Lv1][結界魔法 Lv1]

[物理攻撃耐性 Lv1] 



▼固有スキル

 [勇者][眷属化][咆哮][氷装][分解]


▼エクストラスキル

 [精霊魔法 神級][悪魔魔法 神級][無詠唱][二刀流]


▼オリジナルスキル

 [完全鑑定][完璧偽装][スキル・魔法コピー][ステータス自乗]

[経験値自乗][メーティス][ステータス略奪][スキル成長促進]



 ……どうなってるんだ?

 ステータスの表示が壊れでもしたか?


<いえ、壊れていません。正常です>


 はい、そうですか。

 とりあえず今俺がダルイのはおそらくHPの最大値がかなり増えて元々のHPのままだからってとこかな。

 レベルアップしたら全回復とかにしとけよな、めんどくさい。


 いやいや、それどころじゃないな。

 何なんですかねこのステータスの上がり方は? 何が何でも可笑しいですよね?

 だってさ……いや……うん。3レベでこの国の騎士団長と魔術師団長を全てにおいて超えちゃってるんだよ。

 何が何でもこれはヤバイでしょ。

 嬉しいんだよ確かに。こんなにダルイのに笑いが止まらないほどに嬉しいんだよ。

 兵士やパーティーメンバーにばれないように下向いてだけどさ。

 兎に角何でこうなったかだ?

 ……そうだ[メーティス]ならわかるはず。

 [メーティス]どうしてこんな凄いステータスになったのか教えてくれない、できれば分かりやすく?


<はい。まずレベルアップでHPが8増えるとします。その8を【勇者】が倍加して16に変わります。さらに[ステータス自乗]が自乗して256が実際に増えるHPになります。このようなことが1レベルアップしてステータスが増えたときと対象からステータスを奪ったときに起きたためこのようなステータスになりました>

 

 ナニソレ?

 チートにチートが重なってえげつない事になってるじゃん!

 ダメだ深く考えるのはやめよう。

 深く考えれば考えるほど笑いが止まらなくなる。


「ご主人様(主)、大丈夫ですか」

「ああ、大丈夫だ。少し考え事をしていただけだから」


 あまりに俺が動かずに下を向いていたから心配させてしまったようだ。

 気をつけなければ、俺を何故かかなり慕ってくれている二人にあまり心配はかけたくないからな。


「それよりもこれ何か分かる?」


 俺はスライムが消えたところに落ちているビー玉大の水色の石を手に取りながら聞いた。


「それは魔石です。魔物を倒すことでドロップする一般的なものです。中にはかなりレアなものをドロップする魔物も存在します」


 俺の質問にセバスが答えてくれた。

 セバスの隣のルーチェが少し膨れているような気がするが気のせいだろう。

 にしてもやっぱり魔石だったか。

 魔物を倒して魔石ってのはテンプレだよな。


「主、少しお願いがあるのですがいいですか?」

「うん? お願いって何?」

「はい。実は私も実戦経験を積んでおきたいので戦ってもよろしいですか」

「ご主人様、それは私もお願いしたいです」

「私もお願いします耀君」

「グルウ」


 いつの間にか橘とホワイトまで俺の傍まで来ていた。

 にしても……


「橘。大丈夫なのか?」

「はい。さっきまでいろいろ悩んでいたんですけど、今の戦いを見て決心ができました。こんな私の心と身体を助けてくれた上に強くなれる為の力までくれたんです。私は一生耀君についていくと決めました。それと私のことは静香と呼んでください」


 何か急すぎない?

 ううん?……これはよかったと思うべきなのかな?

 これで信頼できる仲間がまた増えたって事になるしな。

 そうだなそう言うことにとりあえずはしておこう。


 後実戦経験を積みたいから戦わせてくれってことだったか?

 別にそれは俺の許可はいらないと思うんだよ。

 ここに来た目的が実戦経験の為なんだからさ。

 ああ、魔物の取り合いとかになら無いようにってことなのかな?


「分かった。さっきも言ったけどこれからよろしく、静香。それと皆実戦経験が積みたいってことだったな。それは全然構わない。もし魔物の取り合いになるようなら戦う順番を決めておくってのもいいかもな」


 そんな感じで話が纏まっていった。

 静香は名前が呼ばれたときかなり嬉しそうにしていた。

 何故かルーチェがそれを見て静香を睨んでいたが何でだろう?

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