閑話 第二王女マリーヌ

 私マリーヌ・ド・トゥーエルは、トゥーエル王国の第二王女です。

 そして私はこの世界の人間では在りません。

 それどころか人間では在りません。


 少し語弊がありましたね。

 正確には、私はこの世界とは違う別の世界でとして生きていました。

 もちろん雌です。


 俗に言う転生というやつです。

 なぜ私がこんなことになっているのか?

 それを思い出す為にも昔の事を少し思い出しましょう。

 この世界に転生して十七年間、一度たりとも忘れたことのない大切な記憶。


 


 あの日はとてもきつく、冷たい雨が降っていました。

 私はダンボールの中で丸くなって必死に体温を保ちました。

 私は捨てられたのです。

 理由は簡単でした。

 飼い主の引越し先では犬は飼えない。

 私はそんな理由で捨てられたのです。


 私は、飼い主を恨みました。

 なぜ捨てるの? 捨てるなら、買わないで欲しかった。

 そうすればペットショップで今も楽しく動き回っていたはずなのに。

 

 なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ?


 私は考え続けました。

 かなりの間このダンボールの中に居たのに、雨が降ったのもあって体が動かなく、吠えることすら出来なくなっていたのも考えるのに拍車をかけました。


 何も出来なく孤独な私はとても苦しかったのでしょう。

 この苦しみから解放してくれるならと私は他者に縋りました。

 

 誰でも、何でもいいから助けて!

 助けてくれたらなんでもするから!

 お願い! おねがい ほんとうに……おねがい……


 吠えることすら出来なく、誰かに聞こえるはずもないのに、私は願いました。

 誰かが助けてくれることを。

 必死で願い続けました。 


「大丈夫か?」


 私が諦めかけていたときです。

 その声が聞こえたのは。

 

「て、どう見ても大丈夫じゃなさそうだよな。待ってろ今病院に連れてってやるからな」


 今なんて言ったんでしょうか?

 病院に連れて行く? そう言ったように聞こえました。


 気づいたら私はダンボールの中ではなく、声の主の腕の中でした。

 傘を捨てて、私を両手で包み込んで走ってくれました。

 とても温かく心地のよい感覚。


 私はこの時に決めていたのだと思います。

 この人を守るために生きたい。

 この人と共に同じ道を歩んで行きたいと。

 私の孤独と苦しみを暖かく包み込んでくれたこの人と。

 絶対に助かって私は生きる。

 この人の為に!


 ですが私は、病院に着く前に意識を失ってしまいました。

 次に目が覚めた所は何もないところでした。

 物もなければ建物もない。

 地面も空も色すらもない。

 私は直感しました。


 私は死んだのだと。


「あなたは死んでいませんよ」


 急に声が聞こえたのです。

 声がする方を見ても誰も居ない。

 あれ? 体が動く。


「あなたには私の姿が見えませんか……私の力も大分なってきましたね」


 姿が見えないって?

 そこに居るの?

 というか誰?


「そういえば自己紹介がまだでしたね。私は。そして今あなたの目の前に居るんですけどね?」


 女神ってことはやっぱり死んだんだ。

 それに目の前に居るんだ、全然見えないけど。


「先ほども言いましたがあなたは死んでいません。時間も無いので本題に入ります。今あなたには二つの選択肢があります。一つは、あなたが少年に連れられて病院に辿り着き助かる選択」


 私助かるんですか!

 その選択でお願いします!


「落ち着きなさい。もう一つの選択を聞いてから決めても遅くはありません」


 わかりました。

 ですが、助かるよりもいい選択があるとは思えないんですが?


「フフ、もう一つの選択は、この先のとしての生涯を代価とすることで、として生まれ変わり少年を助けるという選択です」


 えっ?

 それってどういうことですか?


「簡単に言うと犬として少年の傍にいるか? 人間として少年の傍にいるか? どちらがいいかということよ」


 そんなことが出来るんですか?


「力は弱りましたが、私は女神です、それもかなり上位の女神なんです。その女神が言っているんです。出来ないと思いますか?」


 できるんですね。

 なら、答えは決まっています。

 ……人間になる事を選びます。


「フフ、理由を聞いてもいいですか?」


 絶対わかってていってますよね?

 まあ、いいですけど。

 元々助かったら私は、助けてくれた者の為に生きると決めていました。

 犬として生きていても私は少年の為に尽くします。

 ですが犬の体では出来ることは限られてきます。

 でも人間の体になれるならできることはかなり増えます。

 しかも人間になる条件がその助けてくれた少年を助けることなら願ったり叶ったりです。


「よかったです、あなたを選んで。では今から転生させますね」


 最後に少年の名前を教えてもらってもいいですか?

 助けられたとき顔は見えたので覚えているのですが、名前がわからないと探せませんから。


「……そうですね。いいでしょう、彼の名前はーーーーです」


 わかりました。


「では、彼の少年のことを助けてあげてくださいね」


 大丈夫です。

 言われなくても助けます。

 任せてください。


「ま……した……」


 


 徐々に意識が遠のいていって、気づいたときにはこの世界で赤ん坊として生まれていました。

 そんな訳で私はこの世界に人間として転生したのです。

 この生まれた世界が元居た世界と違うと気づくのに時間はかかりませんでした。


 あの女神が彼と何らかの関係があるのは話していて大体わかりました。

 でもそんなのは関係ないです。

 あの女神は私を彼の居ない世界に転生させたのです。

 私の目的は彼の助けになる、ただそれだけなのに。

 彼が居ない世界で私は、何を目的に生きればいいのか?


 私は何度も死のうとしました。

 ですが出来ませんでした。

 毎回彼の顔が脳裏をよぎり踏みとどまってきました。

 折角彼が助けてくれた命を、自分の手で亡くすのはどうしても出来ませんでした。


 私は十七年間無気力に生きてきました。

 そんな私は今、この国の国王であり私の父でもある、ビルデル・ド・トゥーエルの前に居ます。

 隣には私の姉で十歳上の、アミーリアが居ます。

 正直親子とか姉妹とかどうでもいいです。

 ここで生活できているのは感謝しています。

 ですがそれだけです。


 もし彼が現れて彼を助けるためにはこの家族や生活を捨てなくてはいけないとなれば迷わず捨てます。

 その程度の存在なのです。


 国王は、「これから勇者召喚を行うから召喚された勇者の方達に迷惑をかけるなよ」といってきました。

 全くどうでもいい話でした。

 隣に居るアミーリアは「勇者を篭絡すれば私の発言力は上がる」などといっていますが。


 可能性は無いに等しいと思いますが。

 仮に勇者の中に彼が居たら、私は彼のメイドになろうと思います。

 彼の為にいろいろなことをしてあげるのです。

 それはとても幸せなことだと思います。

 彼の少年、 耀と言うらしい彼はいないと思いますが。

 何故かそんなことを考えてしまいました。

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