第48話 お話

「もういいですか?」


 話が終わって部屋から出ると、部屋の外で待っていたらしいアーシャに声をかけられた。


「気を遣ってくれてありがとう。聞きたいことは聞けたからいいよ」

「それは良かったです。少しアーシャとも話をしてほしいですけど、いいですか? できれば場所を変えて」

「いいよ」


 俺はてっきり、親子で話をしたいから待っていたと思ったんだが、どうやら俺と話をしたかったらしい。


「助かるです。それじゃぁついてきてくださいです」


 俺は手招きしてから歩き出したアーシャのあとを追う。


ーーー


「ここらへんで大丈夫です」


 そう言ってアーシャが立ち止まったのは、町を出て3分ぐらい歩いた草原だった。


「それで? 話ってのは何なんだ?」

「……お兄さんはどう思うですか?」


 アーシャは深刻な表情でそう言ってきた。

 だが、全くもって意味が分からない。

 何故なら、主語が抜けているからだ。


「どう思うとは、何についてだ?」

「……トゥーエル王国との戦争についてです。多分パパとの話の中でも出てきたと思うです」

「確かに少しだけ出てきたな。けど戦争の話より、恐怖についての話のほうが覚えてる」

「そうですか。けれど今は、戦争についてどう思うか聞かせてほしいです。もしトゥーエル王国と戦争になったら、どうなると思うですか?」


 アーシャはまっすぐ俺の顔を見ながらそう言ってきた。

 俺は詳しい戦力を知ってるわけじゃないんだぞ?

 でもまぁ、考えるまでもないだろうけどな。


「そりゃ負けるだろ」

「どうしてそう思うですか?」

「どうしても何も、国と町だろ? 規模が違いすぎる。それにトゥーエル王国には、【覚醒者】のみで構成されたディスペルタルがいるんだ。逆にどこに勝算があるのか教えてほしい」


 俺がそう言うと、アーシャは肩を落とし、ため息をついた。


「やっぱりそうですよね。アーシャもわかってたです、勝ち目がないのは。でも、お兄さんならもしかして、と思ったです」

「流石に無理だろ。俺が手を貸せば話は変わってくるだろうけど」


 俺の一言で、アーシャの表情が一変した。

 それはまさに、歓喜の表情。

 

「それ、詳しく聞かせてほしいです!!」

「無理」

「どうしてですか!?」


 俺の即答の返しを、同じく即答でアーシャが返してきた。

 当たり前だ。

 詳しく説明するということは、俺のスキルについても言及しなくてはならなくなる。


「いろいろあるんだ。とりあえず、俺ならトゥーエル王国と戦っても勝算はある。それだけだ」

「気になるです。……でも、お兄さんは絶対に教えてくれないです」

「わかってるじゃないか」


 俺は笑いながらそう言った。

 何を言われても、絶対に教えることはないだろな。

 これは信用できるできないの問題じゃない。


 一度誰かに話してしまえば、秘密は秘密ではなくなるからだ。

 眷属にすら詳しくは教えていないしな。


(主、少し話をする時間はございますか?)


 そんなことを考えていると、不意にセバスから念話がとんできた。

 今日はやたらと話したがるな、皆。

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