閑話 トゥーエル王国

「報告を聞こう」


 王座に座ったまま、トゥーエル王国国王、ビルデル・ド・トゥーエルは言う。

 その声音からは僅かに、焦りや苛立ちを感じ取ることができるものだった。


「ハッ。我ら8名は、港町コルボスにて標的の2名を確認、その日の夜に襲撃いたしました……」

「もちろんったのだろうな?」

「それが……」


 国王の威圧するような言葉に、報告に来たディスペルタルの男は言葉をつまらせる。


「なんだ? ……まさか【覚醒者】が8人も居たのに、れなかったなんて言わないだろうな?」

「申し訳ございません!!」


 男はそう言って深々と頭を下げ、土下座する。


「……説明しろ」


 国王は男に対して一言、感情の全くこもっていない声音で言った。


「ハッ。もちろんでございます。……我ら8名は、誰1人として手加減などせず、全力で戦いました。ですが我らはあの男……たった1人の人間に、手も足も出ずに敗れました」

「……貴様……儂の前で嘘をつくとはいい度胸をしておるのう」


 国王は怒りをあらわにしながら、報告に来た男を睨みつける。


「陛下……私奴も、戦いながら嘘であってくれと何度祈ったか覚えておりません」

「ふざけるでない! 英雄譚ですら3人を相手に戦うのが精一杯なのだぞ! それを同時に8人を相手にするなど、まして勝つなんてこと、ありえるものか!」

「……」


 声を荒げながら国王は言う。

 そんな国王を、何を言うでもなく男はただ見つめる。


 ただただ時間だけが過ぎていく。 

 そんな男の態度に国王も、徐々に冷静さを取り戻していく。


「……貴様の発言を嘘だと笑い、貴様に罰を与えるのは簡単だ。だが……だがもし事実だとするならば、の計画の邪魔になるやもしれん、危険人物の1人であることは間違いないだろう」

「私もそう思い、急ぎ報告に戻った次第です」

「正しい判断だ。……しかしな、それ程の人間が実在したとして、噂にもなっていないのは不自然だ」

「噂になっていないのは当然です。なぜならあの男は、つい最近この世界に来たのですから」

「最近この世界に来た……それはつまり異世界から来た勇者ということか。確かにそれならあまり噂になってなくても説明がつく。……異常なほど強い勇者……一体どこの国が召喚に成功したのだ?」


 国王は苦虫を噛み潰したような顔でそう言う。


「国王、実は……」

「なんだ? どこの国の勇者かわかっているのか?」

「……はい」

「わかっているのなら勿体ぶらずに早く教えろ!」


 国王の剣幕に、男は渋々言葉を発する。


「……この国です」

「なんだと? もう少し大きく、はっきりと言え!」

「我らがトゥーエル王国です!」


 男のその言葉に、国王は驚愕する。


「……最近国を離れた7人の誰かか? いや、奴らにはしっかりと監視をつけている。となると……」


 国王は小声でそう言いながら考える。

 そして、ある人物を思い出す。


「まさか、一番最初に国を出た、神級の精霊と悪魔を召喚したあやつか!」

「はい。その通りでございます」

「なんてことだ……神級の精霊と悪魔という、不確定要素の強い存在。そして明らかに異常な力。この二つを抱えていれば、の計画は必ずや失敗すると考えたのだが……まさか【覚醒者】8人を相手にして勝つほど異常だったとは」

「それに奴は、ディスペルタルの秘密を知ってしまいました。今後どう対処するか、至急検討されるよう進言いたします」

「なんてことだ、ディスペルタルの秘密まで知られてしまったのか! 貴様は至急奴の戦い方、能力をまとめて、ディスペルタルの皆に報告しろ!」

「ハッ!」


 男はそう言って謁見の間を出て行く。


「クソ、クソ、クソォ! なぜこうもうまく事が進まんのだ!」


 国王は謁見の間でそう叫ぶのであった。

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