第40話 真の入口

「魔物の気配がある、ね?」


 魔物の気配どころか、生物の気配すら感じないんだがな。

 それすらもデマだったってことか。

 気になることがあるとすれば、このビーチだ。


 一体どこからこんなところに海水と砂が入ってきたのか?

 そして何故、この場所で海水の魔力濃度が一番濃いのか?


「何かわかったか?」

「いぇ、何も」


 海水から上がってきたレオさんが、俺の隣に座りながら言ってきた。

 一応俺も水着だ。

 レオさんが買っておいてくれたものを着ている。


「そうか……ヨウなら何かわかるわかるかもしれないと思ったんだが」

「それ本気で言ってます? 遊ぶための口実じゃなくて?」

「あぁ、もちろん口実なんかじゃなく本気だ」

「そうですか」

「信じてないだろ!」

「はい」


 今俺の中でこの3人の株は、絶賛大暴落中だからな。


「はぁぁ、まぁ仕方ないな。ここに来たのは息抜きという意味も……いや違うな、軽い現実逃避といった方が正しいか」

「現実逃避ですか?」

「あぁ。……アーシャはお前の戦い方を凄いと言っていた、理解できないともな」

「でしょうね。それに関しては、面と向かって言われてますし」

「確かにな。それで、真面にお前の戦い方を見たことのなかった俺とミルドレットが、刺客との戦いを見てどう思ったと思う?」

「……アーシャと同じことを思ったんじゃないんですか?」

「そうだな、凄いとも理解できないとも思った。……だがな、一番最初に、一番強く、無理だと思ったんだよ」

「無理?」

「直感でわかってしまったんだよ。例え【覚醒者】になることができたとしても、お前のように強くなることはできない、お前を超えることができないと。これが才能の差なのかとな。その現実から、少し目を背けたくなってしまったんだ」

「……」


 才能の差……

 違うな。

 俺はズルをした。


 [スキルの種]というチートがあったからこそ、俺は強くなれた。

 元の世界にいたときはこんな力なんてなかったし、強くもなかった。

 才能のない人間の気持ちはわかる……

 元の世界では、ほとんど才能なんてなかったからな。


 あいつにできるのに、何で俺にはできない?

 努力が足りない? 違う! 努力はした! あいつより何倍も努力した!だができない。たどり着けない。


 アニメや漫画じゃないんだ、努力すれば必ず報われるとは限らない。

 努力したって出来ないことは存在する。

 だが他人はそれを、努力が足りないと言ってくる。


 ホントはそうだったのかもしれない。

 あと少し努力すれば、できたのかもしれない。

 あと少し、ほんの少しでよかったのかもしれない。


 だが俺は逃げてしまった。

 現実から、努力するということから。

 レオとアーシャ姉は、一体どうするのだろうな。


「なにしてるですお兄さん? お兄さんは入らないですか?」

「俺は忙しいんだ」

「今お兄さん何もしてないじゃないですか?」

「これでも俺は、デマだろうなと思いながらも、この場所を調べてるんだ」

「そうだったんですか! ならなおのこと入って、隅々まで調べた方がいいと思うです」

「入らなくても調べる方法はあるんだよ」

「なんですそれ!!」

「ここに遊びに来た人には教えません」


 俺はアーシャにそう言ってから、[魔力操作]で小さい魔力の玉を作る。

 そしてその玉を、徐々に膨張させていく。

 魔力を圧縮させたものではないから、攻撃力などはなく無害なものだ。


 後は、[魔力感知]と[メーティス]を連動させれば終わりだ。

 これで待っていれば、この部屋の見取り図が頭の中で完成する。

 かなり便利なスキルばかりだ。


「いいじゃないですか! 教えてくださいよ!!」

「ダメ。もう始めてるから、少し静かにしててな」

「もう始めたですか!? なにやったです?」


 アーシャはいつものことながら、興味津々に聞いてくる。

 どれだけ聞かれても教えないんですけどね。


 少しずつ見取り図ができてきてるな。

 うん、うん……うん?

 おいおい、ちょっと待て!


 嘘だろマジか!

 誰だ? ここで行き止まりとか言ったやつ?

 まだ続いてるじゃないか。

 俺は勢いよく海水の中に入っていく。


「何かわかったですか!」


 俺はアーシャの声を無視して、海水が溜まっている場所の中央まで泳いでいく。

 中央にたどり着くと、俺は海水の中に潜り、底を見る。

 他の場所と何ら変わりなく、ただ砂がある場所。


 だが俺の見取り図には、この先に

 なのに見た感じ普通の水底。

 俺はその場所を見ながら、[完全鑑定]を発動する。


 やっぱり、あった!


 そうすれば、先ほどまで見えなかった通路が見えるようになった。

 恐らく偽装が施されていたのだろう。

 突っ込んでいたらすり抜けて通路に出ることはできるだろうが、どこに水底に向かって突っ込むバカが居る?


 いや、居たのかもしれない、そんなバカが。

 だが通路を見つけたとしても、水で満たされた通路だ。

 そんな場所を、誰が進むことができる?

 

 もちろん酸素ボンベなんてない。

 常人には不可能だ。

 だが【覚醒者】は別だ。


 もしそのバカが【覚醒者】で、覚醒能力を駆使してこのダンジョンを攻略とまではいかないものの、進むことができていたとしたら?

 そこで攻略すればオエステア大陸に渡ることができると分かったのかもしれない。


 そしてそれを知ったトゥーエル王国が、この場所を管理し始めた。

 さらに、もし何者かが侵入したとしても、「この先に魔物の気配がある」という噂を流すことで、下ではなく正面に意識を向けさせるものだったとしたら?


 あの国なら十分にあり得るな。

 

「この場所の水底がどうかしたのか?」


 俺が水面に顔を出すと、レオさんとアーシャが近くまで来ていた。


「えぇ、ここからが本当のダンジョン攻略のようです」

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