閑話 悪魔の訓練
とある森の中を、2人の青年と1の少年、そして杖を突いた老人が歩いていた。
「お前さんは、ホントに複合魔法じゃなくてよかったのかのう?」
「はい、もちろんです。これも、我らが主のためになりますから」
青年は丁寧に言葉を返す。
老人は、その言葉が不思議でならなかった。
彼の青年は、噂に名高い【神級悪魔】である。
最高位の悪魔である彼が、どうしてここまで契約した主を慕っているのか?
それが不思議でならない。
老人はそんなことを思いながらも、口には出さずに考えていた。
「ホントにヨウは慕われてるな」
「全くだぜ、だが次戦うときは俺が勝!!」
「はいはい」
金髪の青年の言葉に対して、青髪の少年は適当に答えていた。
「お言葉ですが、次やったとしても主が勝と思いますよ」
「ホォホォホォ、セバス君の言うとおりじゃ。聞いた話から推測するに、ケネスではまだまだ相手にもならんと思うぞぃ」
「爺さんまでそう思うのかよ?」
「当たり前じゃわい。3対1で相手にならなかったのに、逆になぜ次やれば勝てると思ったんじゃ?」
「そんなの決まってんじゃねぇか。なんとなくだよ!」
「バカが……」
「……ケネスさんはバカだったのですね」
「前向きでいいことじゃわい。だが命は大切にするのじゃぞ」
「わかってるよ、爺さん」
4人はそんな話をしながら、森の開けた場所までやってきた。
「さてと、今日は誰から始めるかのう」
「もちろん俺に決まってるだろ、爺さん」
金髪の青年は、右手の親指で自分を指しながら力ずよく宣言する。
「儂は別に構わんが、2人はそれでいいかのう?」
「はい」
「えぇ、私もそれで構いません」
「それじゃ始めるかのう。ルールはいつもと同じで、スキルの使用禁止と、武器の使用禁止でいくぞぃ」
「わかってらぁ」
「ホォホォホォ、なら儂はいつでも構わんぞ?」
「今日こそ勝つ!」
金髪の青年はそう言って、勢いよく老人に向かって殴りかかった。
老人はそれを危なげなくかわす。
「ほれどうした? 今日こそ勝つんじゃなかったのかのう?」
「まだまだこれからだろ」
「ホォホォホォ」
金髪の青年が繰り出す攻撃を、全てかわす老人。
そんな2人の戦いを、青年と少年は少し離れて見ていた。
「エルノさん、少し聞きたいことがあるのですがよろしいですか?」
「僕に答えられることならいいよ」
「ここに来てからケネスさんがよく喋るようになられたのですが、何か理由があるのですか?」
「あぁ、それね。理由はあるよ」
「伺ってもよろしいですか?」
「そんな大した理由じゃないよ。ケネスって……バカじゃん」
「……はい」
「だからなるべくバカがバレないように、喋らないようにしてるんだってさ。でも時々我慢の限界がきて、あんな感じで普通に喋るようになるんだよ。僕は普通に喋ってるケネスの方が好きなんだけどね」
「そうですね。今のケネスさんの方が、生き生きとしておられる」
黒髪の青年はふと、自身の主を思い出す。
主も生き生きとした、この世界に来て生まれ変わったかのような目をされていたな、と。
「主、私はもっと強くなります。それまで待っていてください」
「うん? 何か言ったかい?」
「いえ、何でもございません」
黒髪の青年は、揺るがぬ決意を抱き続けるのであった。
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