第38話 獲得

「フフフフフ……アハハハハハハ……アハッハッハッハ」


 辺りはさながら、囚われの姫を助けに来た勇者8人が、無残にも魔王に完敗したかのようなありさまだ。

 そのうち称号に、【魔王】があったりしてな。


 さて、8個の能力も手に入れ、8人全員が気を失って戦闘不能。

 ……これからどうしよう。

 このままこの町にいるのは楽しそうではあるが、護衛としてダメだよな。


 目的のオエステア大陸に行こうにも、船が出ない。

 大陸の位置だけでもわかれば、打つ手はあるんだが……


 あ、そういえば特殊な人形って言ってたけど、何が特殊だったんだろ?

 ええっと、人形、人形……あった。

 きれいに片腕がなくなってる人形が。


 さてさて、[完全鑑定]で見てみますか。


偽装人形 [魔法道具マジックアイテム

 動作全てに偽装を施すことができる。


 忍者達は、知っていて使っていたのだろうか?

 それにしても偽装か。

 あの時感知系スキルに、[完全鑑定]を連動していれば看破できていたってことになるのかな。


 いや、注目すべきはそっちじゃないな。

 攻撃や気配さえも、偽装で隠すことができるということだ。

 これはつまり、俺は最強の暗殺者にもなれるということだな!


 ホント善ってより、悪って方がしっくりきそうな感じだ。

 俺は取りあえず[火魔法]で人形を完全に焼却する。


 俺はこの人形を使うつもりがないから、他の奴に使われるぐらいなら燃やしてしまった方がいいからな。

 恐らく忍者達は、後遺症は残るだろうが命に別状はないだろからな。

 ただしっかりと[回復魔法]を使ったらの話だが。 


 それよりこの後どうするかだよな、やっぱり。

 泊まってた宿は全壊。

 辺りは真っ暗ときてる。


 他の港町に移動したとしても、新たな忍者が居ないとは断言できない。

 一番いいのはオエステア大陸に行くことなんだろうけど……無理だろうな。

 

 ……一人で考えてもわからんな。

 3人にも聞いてみるか。

 忍者8人は全員気絶してるから、簡易シェルターを解除しても大丈夫だろう。

 俺はそう考えて、[氷魔法]で作った簡易シェルターを消す。


「お兄さんはやっぱり凄いです!! 何が起きてたかほとんどわからなかったですけど」

「あぁ、まさかここまで強いとは……ここに来るまであまり戦っているところを見なかったから、正直心配していたんだが、その必要はなかったみたいだな」

「……運よ。そう、運がよかっただけよ!!」

「そうだな、確かにかなり運がよかった」


 こんなにもいいスキルを手に入れることができたんだからな。

 これを運がよかったと言わずして、なんという。

 

「ほらやっぱりそうなのよ!!」

「お姉ちゃんは頑固です……」

「流石にあれを見ておいて、それは無理があるだろ……」


 アーシャとレオさんの言葉は聞こえなかったようだ。

 俺としては別にどっちでもいいから、何も言わない。


「それよりもこれからどうします? このままここにいるのは危険だと思うんです。でも他の港町に行ったとしても、刺客が先回りしてないとは断言できません。俺としては早くオエステア大陸に渡った方がいいと思うんですけど、船が……何かいい方法はありませんか?」


 俺はレオさんに向かって聞いてみる。

 この3人の中では、一番その辺のことに詳しそうだからな。


「なら、グラムパスの洞穴に行けばいいです!!」

「あそこは! いや……ヨウが居れば何とかなるか?」


 俺の質問に答えてくれたのはレオさんではなく、アーシャだった。

 それも嬉しそうに。

 レオさんの反応からするに、絶対に安全で安心の場所ではないだろうな。


「その、グラムパスの洞穴ですか? それはどういう場所なんですか?」

「グラムパスの洞穴は、簡単に言うと自然発生したダンジョンだ」

「自然発生? どういうことですか?」

「うん? ヨウは知らないのか。ダンジョンには自然に生成されるダンジョンと、人工的に生成するダンジョンの2種類が存在するんだ」


 ナニ?

 ダンジョンって、自分で作り出すこともできるの?

 初耳なんだけど。


 俺が最初に入った城の下にあったダンジョン。

 あれは召喚されたばかりの勇者専用と、新兵の訓練の為に作られたダンジョンてところかな?


 でもそうか、作れるんだ。

 一度作ってみたいな。


「その自然発生したダンジョンとオエステア大陸に、何の関係があるんですか?」

「実はそのグラムパスの洞穴を攻略すると、オエステア大陸に渡ることができる……と言われている」

「言われている?」

「あぁ、確証はない。なんたって、今だ攻略した者が居ないそうだからな」


 なにそのダンジョン!!

 無茶苦茶気になるんだけど!

 誰も攻略したことのない、未開のダンジョン。

 これは俺が攻略するしかないよな!

 

「そこに行ってみましょう。ダメだったら、また別の方法を考えるということで。ちなみにグラムパスの洞穴までは、どれぐらいかかります?」

「ここからだと……2日もあればたどり着けるだろう」

「わかりました。それじゃぁ早速向かいましょうか。ここに長居するのもあれですし」

「そうだな。途中に町もあるから、そこでしっかりと準備もできるだろうし」

「やったです!」


 アーシャはなぜこんなにも嬉しそうなのだろうか?

 グラムパスの洞穴に何があるというのだ?

 

「ちょっと、勝手に話をまとめないでよ」

「じゃぁ他にいい案がありますか?」

「……」

「それじゃぁ行きましょうか」

「ちょっと!」


 俺達は港町コルボスを後にし、自然発生したダンジョン、グラムパスの洞穴に向かうため動き出した。

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