第37話 圧倒

「……そうですね、楽しみましょうか。……ですが、楽しむのは私達だけです」


 まだ何かあるのかな?

 あるならどんどん出しちゃっていいよ、その方が楽しいし。

 それに力を隠したままの奴に勝ったとしたら、後がめんどくさい。


 あの時は、30%の力しか出していない。

 俺にはまだ、○○があるだの言ってくるに決まってる。

 なら全力を出した奴に、圧倒的力の差を見せつけて勝つ方が、後が楽だ。


「えっ」


 俺がそんなことを考えていると、不意に右頬を殴られた。

 殴られたと言っても、痛くはない。

 そんな柔なステータスじゃないからな。


 それよりも、殴られたという事実に驚いてしまった。

 この世界に来てから、[メーティス]を除けば初めてじゃないだろうか?

 さらに驚きなのは、魔力も気配も感じられなかったことだ。


 魔法なら魔力が、魔法でなくても何らかの気配は必ず感じられるはずなのに、その両方が感じられない。

 忍者4人の位置も、先ほどから変わっていない。


「いいですね、その顔! 驚きを隠せていませんよ。その顔に免じて教えてあげますよ。今君を殴ったのは、人形です。それもかなり特殊なね。ステータスを見ているのなら、後はわかりますよね?」


 人形……[パペット]が操ってるってことか。

 人形を操るのは魔法ではないから、魔力が発生しないってか?

 そして人形自体が特殊だから、気配を感じることができないってか?


「居たんですよ、君以外にも目が見えない状態で応戦してくる者が。と言っても、4対1ではなく、1対1でしたけどね。そんなことがあれば、一応対応策は講じておくものですよ」


 今度は左頬を殴られる。

 この8人の中では、[パペット]は浮いていると思ってたよ。

 それぞれが戦闘においてしっかりと役目がある。[ステータス鑑定]は最初だけだけど。


 だが[パペット]は別の覚醒能力者の方が役に立つんじゃないか? そう思ってたよ。

 けどしっかりと役目があった。

 考え抜かれたチームだった。


「でも所詮はその程度」

「何か言いましたか?」

「あぁ、俺をもっと楽しませてくれって言った」

「言葉遣いが少し変わってますが、怒ったのですか?」

「あの程度で怒るわけがない。あまりにも楽しくなってきて、猫を被るのを忘れてるだけだ」


 俺はそう言ってから、素早く両手に持っている刀を鞘に収めた。


「なんです? 威勢のいいこと言っておいて、諦めたんですか?」

「いいや。人形が素手なのに俺が武器を持ってたら不公平だろ?」

「……そんなにも早く死にたいんですね。ならお望み通り、とはいきませんが、殺してあげますよ」


 [毒]がそう言い終ると、俺の頬に向かって左右から、何かが向かってくるのを

 俺はそれに向かって、両の手の平を向ける。

 

 直後、何かが砕け散る音とともに、辺りに無数の何かが飛び散る。

 音から推測するに、恐らく木片だろう。


「……な、なにをしたんです!!」

「さぁな」


 事実を教えるより、相手に考えさせる方が、より恐怖を植え付けることができるからな。

 まぁでももし説明するとしたら、まず攻撃の場所がわかったことについてからか。


 気配が感じられなくても、実在しているのなら策は十分にあった。

 俺はまず、自分の周りに[魔力操作]で魔力の薄い膜を作った。

 そしてその膜の上から人形が殴りかかってきた。

 この時膜は、殴られた場所が人形の腕で遮られて、一部穴が空く。


 後は、[魔力感知]で穴の空いている場所を感じ取れば、攻撃されている場所がわかるということだ。

 これは目の代わりで、目が見えなくても目が見えている時と同じように戦うためのものだ。


 そして恐らく人形の腕だろうものを壊したのも、[魔力操作]だ。

 まず手の平に魔力を集め、圧縮する。

 そして圧縮した魔力を、前面に向かって解放しただけのことだ。


 これは遠距離攻撃ではない。

 近距離攻撃だ。

 至近距離だったからこそ攻撃と呼べる威力が出たものの、1メートル以上離れれば、嫌がらせにもならないものだ。

 魔力の圧縮量を上げれば、話は別だが。


「それもよりももう終わりか? 隠し玉はもうないのか?」

「……君は一体何者なんですか……」

「お前達が召喚した勇者だろ?」

「ふざけたこと言わないでください! 召喚されてそれほど経っていないのに、この強さ。そして理解できない戦い方。勇者なんて言葉で片づけることができるレベルを、遥かに超えています」

「……確かにそうだな、俺もそう思う。けどな、それがどうした? 自分が何故生まれてきたか、わかる奴がいるか? いないだろ。それと同じだ。俺にだってわからないんだよ。そんなことより、隠し玉はもうないってことでいいんだな?」

「……」

「それじゃぁ今度は俺の番だよな」


 俺はそう言ってから、拳大の氷の玉を飛ばす。


「フッ、何かと思えば先ほどと同じ攻撃ですか? それは効きませんよ」


 氷の玉は先ほどと同じように直角に曲がり、[挑発]の方に飛んでいく。

 そして、[鉄壁の守り]が大盾を構えて攻撃を受け止めようとした時、俺は新たに氷の玉を4つ生成して、大盾が攻撃を受け止める前に4人の忍者の鳩尾に当てた。

 当てるのが目的だったから、威力はあまりない。


「なっ!!」


 忍者4人は、驚きながらも俺を睨みつけてきた。

 [挑発]を切る一瞬のタイミングに魔法を使うなんて、[無詠唱]が無ければできないから、考えていなかったのだろう。

 魔法を当てることには成功したから、後は勝つだけだな。


 俺は一瞬で4人との間合いを詰めて、[毒]の両腕を掴む。

 そして[魔力操作]で圧縮した魔力を、[毒]の腕の中で解放する。

 無理やり小さくしたものが、一気に元に戻ろうとすれば……


「あああぁぁぁぁああああぁ!!」


 [毒]はあまりの痛さに、そのまま意識を失った。

 [毒]の腕の骨は、俺が掴んだ場所が粉々に砕けていることだろう。

 即興で考えたにしては、えげつない威力を発揮してくれた。


 残りの忍者達は、何が起きたのか理解できておらず、唖然としている。

 俺はその隙に[縮地]の前に移動して、両足を掴む。

 後は[毒]にしたのと同じことをしてやれば……


「うぁぁぁぁぁぁぁあああ!!」


 戦闘不能がまた1人増えた。

 流石にここまでやれば、状況を理解できてくる。


「き、キサマァァァァ!!」

「お前の攻撃は、2度までなら受けても問題ないんだよ」


 [三撃一封]が声を荒げながら、右手で俺に殴りかかってきた。

 俺は、左手の刀で切りかかってくればいいのにと思いながら、その攻撃を左手で受け止める。

 そして右手で相手の左腕を掴む。


 右手は先ほどと同じ方法で、左手は相手の腕の中に1本の線を通すように魔力を圧縮し、解放する。

 そうすれば左腕は俺が掴んだ場所の骨が、右腕は全ての骨が粉々に砕けた。


 前者の2人に比べて威力が強すぎたせいか、声を上げることなく意識を失ったようだ。


「残り5人か」

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