第36話 連携
何が起きた!!
いやそれよりも、攻撃がくる!!
俺は咄嗟に[氷魔法]を使って、自身の足元から氷柱を作り、自分自身を持ち上げる。
「詠唱無しの魔法だと!!」
「まさか[無詠唱]を手に入れているというのか!? んなバカな!! あり得ない!!」
登ろうと思えば登れる高さだろうに、驚きで襲ってこないのはこっちとしては嬉しいことだ。
さて、状況を整理しよう。
今俺はしっかりと意識がある。
なのに目の前が真っ暗だ。
今俺は目を開けている。
なのに目の前が真っ暗だ。
変なものは食べていない。
目の病気を患ったこともない。
なら何故なにも見えない?
ここで一番可能性が高いのは、忍者の攻撃。
俺は何をされた?
…………
……
[感覚共有]。
もし、この能力が自身の感覚を相手に共有させることができるとしたら?
そして、発動と同時に目を瞑っているとしたら?
これは厄介だな。
魔法で遠距離から攻撃しても、[挑発]を使われて軌道が変わる。
[感覚共有]の能力を持っている奴を守るために、忍者3人は間合いを詰めてこなかったってことか。
俺はそこまで考えて後ろの簡易シェルターの上に飛び移る。
「目が見えていないはずなのに、よくかわしましたね? 飛び上がるとき音は立てなかったはずなんですが?」
俺が立っていた氷柱の上に、[毒]の能力を持つ忍者が立ちながら言ってきた。
目が見えないのは戦いにくいが、戦えないわけじゃない。
俺には、[魔力感知]と[気配感知]があるのだから。
この2つをうまく使えば、ある程度は敵の攻撃もわかる。
「先に言っておくと、この氷は俺を倒さない限り壊すことも解けることもありません」
俺は、簡易シェルターの上に飛び移ってきた4人に対して言う。
「なるほど。わかりやすくていいな、それ」
「要はお前を殺せば全て解決ってことだな」
「ここまでの逸材だったとは。殺すのが惜しくなりますね」
「なら見逃してくれます?」
聞くまでもないことだろうけど、一応礼儀として聞いておかないとな。
俺の問いかけに対する答えは、短剣が飛んでくるというもので答えられた。
俺は飛んでくる短剣の軌道に、氷の板を作る。
そして後ろを振り返り、右手の刀で攻撃を受け止める。
「よくわかったな、俺が後ろからくるって」
「まあね」
俺に向かって飛んできていた短剣は、氷の板に刺さり足元に落ちている。
俺が刀で攻撃を受け止めたのは、[縮地]の能力を持つ忍者だ。
短剣が投げられたと同時に、急に魔力と気配が背後に現れたからな。
そしてさらに背後に向かってくる気配を感じ取った。
これは受けてはいけない攻撃だ。
俺は攻撃してくる、魔力と気配から、どの忍者かわかりそう考える。
右足の右側を少し上げ、右足の裏に[風魔法]で風を起こして左に回避する。
場所は氷の上だ、よく滑る。
「ッチ」
「危な!! 俺が[縮地]を使ってなかったら、俺に当たってたぞ!」
「当たってねぇんだから問題ねぇだろ」
今俺を後ろから攻撃してきたのは、[三撃一封]の能力を持ち、俺をエリート勇者と呼ぶ忍者だ。
こいつの攻撃も、[毒]と同じで受けることはできない。
俺が攻撃を直接受けることができるのは、[パペット]と[縮地]だけだ。
それ以外の2人は、何としてでも回避しなければならない。
目が見えなく、攻撃を防ぐのすら危険な奴が居る。
なんてハードモードなんだ。
だけど、滅茶苦茶楽しい。
ホント、ぶっ壊れてるな俺。
「本当に目が見えてないんですか?」
「えぇ、それはもう真っ暗ですよ」
「そうは思えない動きなんですけどね」
「褒めていただき、ありがとうございます」
「褒めるなんてとんでもない、恐怖してますよ。目が見えない状態で、【覚醒者】4人を相手しているなんて」
「そんな褒めないでください。それよりも、まだ始まったばかりなんです、楽しみましょう」
俺はそう言って、4人の顔に向かって拳大の氷の玉を飛ばす。
そして隙ができてから、間合いを詰めようと思っていた。
人間って生き物は、顔面への不意な攻撃に対して、無意識に防いでしまうものだ。
その動作は、一瞬の隙ができる。
そう思ったのだが、意味が無かった。
俺が飛ばした氷の玉は、遠距離攻撃に判定されるらしい。
飛んでいく方向が直角に曲がって、[挑発]の方に飛んでいく。
そして恐らく[挑発]の効果を切ったのだろう。
攻撃は全て[鉄壁の守り]が大盾で受け止めている。
想像していたよりかなり厄介だ、小技が意味をなさないのは。
わかっていたことではあるのだけど、実際目の当たりにすると、意地でも当てたくなってくる。
目ではなく感覚で見てるんだけどな。
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