第35話 組織の真実

 俺は自身に飛んでくるナイフを、

 受け止めるでも、弾くでもなく、上半身をひねって回避した。

 理由は投げた人物にある。


 左から2人目の人物。

 覚醒能力[毒]を持つ人物。

 受けたという基準が、体に直接当たるのを意味するのか、はたまた武器や魔法を介したものもダメなのか。

 それがわからなかったからだ。


 だが、後ろの簡易シェルターに当たってもステータスに異常がないのを見るに、魔法は大丈夫のようだな。


「避けるのはいい判断です。さて、4人が勇者だと気付かれたのは、鑑定系能力、または魔法道具マジックアイテムなのでしょう。これは参りました。鑑定と偽装、両方を持っているとは」


 ナイフを投げてきた毒忍者は、両手に1本ずつ短剣を構えながら言ってきた。

 さらに他の忍者達も、それぞれの武器を構える。

 槍、短剣、盾、大盾、刀、剣、剣、剣。


 やっぱり勇者は剣なんだ。

 刀を選んでるのは、最初に俺に喋りかけてきたやつか。

 刀を選んでるあたり、気が合いそうなんだけどな。


「ディスペルタルの存在、【覚醒者】の集団、これらを知っているのはいいです。なんせ私達自身で広めた情報ですから。詳細な情報が広まる前に、曖昧な情報を広める。そして、どれが正確な情報であるかわからないが、ディスペルタルは実在する。そう思わせる為のものです」

「そううまくいきますかね?」

「えぇ、何もしなければうまくはいかなかったでしょう。何もしなければ」

「なるほど、そうなるよう行動したと?」

「そういうことです。そしてここで一番大事なのが、曖昧であることです」

「? 組織の名前や、【覚醒者】の集団であることのどこが曖昧なんです?」

「組織の名前が知られたからと言って特に問題はありません。【覚醒者】のみの集団、これも問題ありません。抑止力になりますから。それに既に曖昧にしてありますから」


 既に曖昧。

 これは俺の予想が的中してそうだな。

 【覚醒者】のみの集団が、既に曖昧な情報である。

 そして目の前の4人の勇者忍者。

 

 「……ディスペルタルは、大半がで構成されている」


 俺の言葉に、8人の忍者全員がピクリと反応した。

 その反応を見るに当たりのようだな。

 勇者が国の秘密組織ね。

 召喚すれば、ほぼ無限に増える兵隊ってところか。


 奴隷化できないのに、どうやったんだか?

 自主的にって可能性もあるが、どうだかな。

 それにしても喋りすぎだろ。


 俺を確実に殺すから問題ないみたいな感じか?

 俺としては、情報とスキルがもらえるイベントになったからいいけどさ。


「私としたことが、気が動転して喋り過ぎてしまったみたいですね。……ですがここまで知られたのなら、流石に国王も貴方を殺してもお咎めはないでしょう」


 やっぱりそうなんですね。

 成功するとしか考えないバカは、これだからダメなんだよ。

 失敗したとき、取り返しのつかないことになるのに。


 それにどうやら俺を殺す命令は出てなかったみたいだ。

 監視、あるいは生け捕りみたいな命令が出てたのだろうか?

 その割には勇者忍者は、冥土の土産って言ってたし……意見がわかれてるのか?


「貴方も聞きたいことが無いようなので、そろそろっていただきましょう」

「まぁ少し待ってくださいよ。今の会話で後2つほど、聞きたいことができたんです。最後にそれを聞いてからでもいいでしょ?」

「……いいでしょう。どちらにしても結果は変わらないのですから」


 敵さんがほんとにバカでよかったよ。


「ありがとうございます。それじゃぁ、どうして4人の勇者は、近くに精霊と悪魔が居ないんですか? 契約は成功しているのに。それと勇者なのに、覚醒能力が1つしかないことについて聞きたいです」


 先ほどまで喋っていた毒忍者は、スキルを封じることのできる勇者を見ている。

 その勇者は、俺に一番最初に喋りかけてきた奴だ。


「だからエリート勇者なんだよ。お前の最初の質問で言ったろ? 優秀な奴とそうでない奴が居るってな。そのそうでない奴ってのが俺達ってことだよ。勇者が覚醒能力を2つ手に入れることができるのは、可能性の話だ。絶対じゃねぇ。精霊と悪魔に関しちゃぁ、お前も近くに居ねぇから、てっきり同じなんだと思ってたぜ」

「なにがです?」

「精霊や悪魔との契約ってのは、思ってるより拘束力がないってことだ。主が気に入らなかったり、より自分に相応しいと思う主を見つければ離れていく。ただそれだけのことだ。聞きたいことはこれだけだろ? なら楽に死ねや」


 うんうん。

 俺の場合はどうなるんだろうか?

 セバスは必ず強くなって戻ってくる的なことを言ってた気がするから、大丈夫だよな。


「いい話を聞かせてもらいました。ありがとうございます」


 俺がそう言うと、忍者8人は目配せをした。

 どうやら本当に最後だったみたいだ。

 もう少し情報を引き出してもよかったかもしれないな。


「それじゃぁな、エリート勇者。さよならだ」


 勇者のその一言と同時に、[パペット]、[毒]、[三撃一封]、[縮地]の覚醒能力を持つ忍者4人が、俺との間合いを一気に詰めてきた。

 俺も即座に2本の刀を抜いて、戦闘態勢に入る。


 そしてどうやって攻撃をいなすか考えたとき、俺の視界は暗転した。

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