第34話 ディスペルタル

「それじゃあ、少し暴れてきます」

「あぁ、頼んだ」

「ボコボコにしてくるです」

「任せとけ」


 俺は右手でサムズアップをしてから、再び気配が8個固まっている方向に歩き出す。


 氷の簡易シェルターの外に出る前に、視界をしっかりと確保しておく必要があるな。 

 俺はそう考えて、シェルターの周りに舞っている砂塵を、[風魔法]で全て取り除く。


 それと同時に俺の正面にある氷の壁に、俺が通れるだけの穴を開け、シェルターから出る。

 もちろん出たらすぐに、壁の穴は閉じる。


 そんなことをすれば、流石に敵もこちらの状況を確認することができるわけで……

 俺はすぐにシェルターを背にする形で、忍者の恰好をした8人に半包囲されてしまう。


「どうしてお前がここにいる? エリート勇者」

「いやいや、それよりもあれ何だよ? [氷魔法]を使ったことは予想できるけど、こんな全方位を守るような魔法なかったはずだぞ? それに俺達全員の攻撃を受けて傷一つついてないとか、異常だろ!」

「そもそも本当に[氷魔法]なのかしら? 覚醒した能力かもしれないわよ」

「それじゃあ僕がステータスを見てみようか? そうすれば覚醒能力はわかるはずだよ」


 ……

 こいつらはバカなのか?

 敵の前で相談とか、情報が筒抜けだぞ。


 今の会話だけでも、いろいろなことがわかるぞ。

 例えば、俺がここにいる理由を知らないってことは、情報収集、あるいは情報伝達があまり優秀ではないことがわかる。

 さらに俺の魔法に対する反応で、魔法に関する知識が高いこともわかる。


 そして最後の、「僕がステータスを見てみようか?」。

 これはダメだ、絶対にダメだ。

 なんたって、相手のステータスを見ることができる能力、または魔法道具マジックアイテムを持っていることを教えてしまっている。


 圧倒的な力を持っていない限り、手札は、できるだけ多く敵に知られていない方が有利に戦うことができるのだから。

 といっても、俺以外の場合の話になる。

 俺には[完全鑑定]があるから、能力は筒抜けになってしまうからな。


「……そ、そんな」

「どうしたんだ?」

「ありえないよ、だって……そんなこと」

「何? そんな凄い覚醒能力だったの?」

「違います。ステータスが……ステータスが報告されたものと全く同じなんです……」

「? それがどうした? 同じ人間なんだから当たり前だろ?」

「報告されたのは、レベル1の時のものなんですよ。それと全く同じなんて事、絶対にあり得ない。だって城のダンジョンで、モンスターを倒している事も確認されてるんだよ。なのに同じ……ステータスが変動していないなんて……」


 どうやら、そこまで言われてようやく気付いたみたいだ。

 顔が見えないからどんな表情をしているのかわからないけど。

 かく言う俺も、[完璧偽装]の設定を変更してなかったのを、今言われて気付いたんだけどな。


 にしてもさっきから同じ奴しか喋ってなくない?

 声の感じからして、男・男・女・男、て感じだけど。

 最初に話かけてきた奴は、最初以降喋ってないけど、ずっと俺を睨んでるんだよな。


「偽装能力か、魔法道具マジックアイテムってところだろ? なぁ、エリート勇者?」


 うん、いい線ついてくるな。

 というか当たってるし。

 睨んでるだけかと思ったけど、意外に俺を見極めてたとか?

 目元しか見えないから、ホントわかりにくい。


「なぁ、少しは質問に答えてくれよ。エリート勇者」

「……そのエリート勇者ってのは、何ですか?」

「俺の質問には答えないのに、お前の質問には答えろってか?」

「別に強制してるわけじゃありません。答えたくなければ、俺のように答えなくていいですよ」


 男は、腕を組んで少し考え始めた。

 俺はその間に、忍者8人に対して[完全鑑定]を使う。

 

 8人とも能力値は、最初に戦った忍者とそんなに変わらないな。

 覚醒能力は左から、

[パペット]

 人形を思いのままに操ることができる。ただし自身が見えない場所では効果を発揮しない。


[毒]

 自身の攻撃を受けた対象に、ランダムな毒を付加する。ON/OFF可能。


[挑発]

 遠距離攻撃は、全て自身に飛んでくる。ON/OFF可能。


[鉄壁の守り]

 自身が受けるダメージを、かなり軽減する。


[三撃一封]

 3回攻撃を当てた相手の能力を、ランダムに1つ使用不可にする。相手の体に当たらなかった攻撃は、カウントされない。同一対象に、何度でも発動することができる。効果範囲は、自身の視認できるところまで。視認できない場所まで行けば、使用不可が解除される。


[縮地]

 相手との間合いを一気に詰めたり、とったりできる。


[感覚共有]

 指定した対象と、指定した感覚を共有することができる。対象は任意に変更可能。


[ステータス鑑定]

  相手のステータスを見ることができる。


 …………

 ……フフフフ


 なんておいしそうなスキルなんだ!!

 後、俺に喋りかけてきた右の4人。

 面白い称号持ってるな。

 あの国のやり方が、少しわかった気がする。


「冥土の土産ってやつだ。お前の質問に答えてやるよ、エリート勇者。勇者の中にも、優秀な奴とそうでない奴がいる。その中でお前は尋常じゃなく優秀だった。だからエリート勇者って呼んでる、それだけだ。他にも聞きたいことがあれば言ってみろ」

「あぁ、また始まった、この人の悪い癖」

「いいじゃない、よく考えたらステータスがわからなくても、流石に8人の【覚醒者】を同時に相手できるわけないんだから。お土産ぐらいあげましょう」


 どうやら相手の考えでは、俺は絶対に勝てないらしい。

 まぁいろいろ教えてくるなら、その間違いを正すのは後でもいいだろう。


「……じゃあ、何で後ろの3人を狙ってるのか教えてもらえますか?」

「なんだお前、一緒に居るのに何も聞かされてねぇのか?」

「聞かされてないというより、聞かなかったって方が正解ですね」

「どっちでもいい。それにその質問には答えられねぇ、なんたって俺も知らねぇんだからな」


 命令だからそれに従ってる感じか。

 詳しく知りたければ、やっぱり直接聞くしかないのか。

 聞こうとしたら、明らかに聞かないでくださいオーラが出てくるんだよな。


「もう一つ、オエステア大陸行きの船が出せないのは、貴方達の仕業ですか?」

「よくわかったな。俺達が少しお願いしたら、すんなり引き受けてくれたんだよ。何で分かったか聞いてもいいか?」

「タイミングですよ」

「タイミング?」

「はい。俺達が船着き場に行った、その日の夜に襲撃。この町に来るまで一度もなかった襲撃が、ここに来て襲ってきた。これを関連付けるなという方が無理な話です」

「確かにそうだな」


 さて、最後に一つだけ聞いてみるか。

 これを聞いたら、多分もう質問には答えてくれないだろう。

 まぁ、もう聞きたいこともないからいいけど。

 それに、ほとんど答え合わせみたいな感じになるしな。


「最後に一ついいですか?」

「あぁ、何だ?」

「……右の4人は、いつ召喚されたなんですか?」


 俺が言い終わると同時に、俺に向かって短剣が飛んできた。

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