第33話 襲撃

<起きてください>


 俺は、[メーティス]の大きな声で目を覚ました。

 部屋の中を見てみれば、俺の隣のベッドで寝ていたはずのレオさんが、部屋の窓から、月明りを避けるように外の様子を窺っていた。


「起きたか」

「ええ」


 俺は、レオさんにそう答えながら、ベッドから立ち上がる。

 そして、枕元に置いてある2本の刀を腰に差す。


「ミルドレット、起きろ」


 レオさんは、俺が起き上がったのを確認してからアーシャ姉の肩を揺らして起こす。


「……何?」

「襲撃だ」

「奴ら?」

「おそらく」

「そう」


 アーシャ姉は、全く動じることなく確認していく。

 それがいつものことのように。


「それで、人数は?」

「8人だ」

「あら、随分と多いのね」

「ああ、さすがにこの数から逃げ切るのは無理だろう」

「そうね」


 スゲー死亡フラグ立てようとしてない?

 この世界の基準はよくわからないけど、要は忍者みたいなのが8人襲ってきたってことでいいんだろ?


 なら何とかなりそうだけどな。

 て、そんな悠長に考えてる場合じゃなさそうだ。


「きゃぁ!」

「うお!」


 俺は、今立ち上がろうとしていたアーシャ姉とレオさんを、[風魔法]でベッドに倒れさせる。

 そして部屋の四隅を[氷魔法]で作った氷柱で貫き、時計回りに位置を移動させる。


「え?」

「な!?」


 次の瞬間、俺達を襲ったのは一瞬の浮遊感と着地の衝撃。

 いや、正確には着地の衝撃は俺だけだ。

 俺以外の3人は、うまく着地できる体勢じゃなかったからな。


「な、何です!!」

「痛ったぁぁぁ!」

「くっ」


 少しでも衝撃を和らげられるようにとベッドの上にしたものの、この宿のベッド滅茶苦茶硬かったな。

 2階から1階に、普通に落ちるより痛かったんじゃないか?

 ……俺は何もしてない、風が勝手に吹いて急に床が抜けただけだ。


 それよりも今は、やらなくちゃいけないことがある。

 俺は、今も空中に浮いている氷柱を地面に刺さるまで伸ばす。

 さらに、伸ばした氷柱の間と上に、透明度が高く、薄い氷で壁を作ってやる。


 完成したと同時に、俺達が居る宿に対していろいろな属性のボール系の魔法が撃ち込まれてきた。

 それは薄い氷の壁にぶつかるものの、傷一つ付けることなく消える。


「攻撃!?」

「ああ、そのようだな。……だがそれよりも、俺達を攻撃から守ってくれているこれは何だ?」

「多分お兄さんがやったです。ね?」

「さあどうだろうな」


 ついさっき起きたばかりのアーシャが、俺の顔を覗き込むように見ながら聞いてきた。

 俺を除いた3人が、腰を痛そうにさすっているのは見なかったことにしておこう。


 俺は起きてから、[気配感知]と[魔力感知]を発動していた。

 気分が悪くなるのを覚悟して使ったが、人払いしてから襲ってきてくれたようなので平気だった。


 そして[魔力感知]を発動していたおかげで、魔法を詠唱していることに気付けた。

 気づいたからこそ、この氷で出来た簡易シェルターを作った。

 [結界魔法]でもよかったのだが、目に見えて守られているのがわかる方が、この後の戦闘が楽だからな。


「アーシャは誤魔化せないです。それに、お兄さん以外にこんな意味の分からないことができる人知らないです」

「酷いいわれようだな」

「褒め言葉です」

「そうは聞こえなかったが、そういうことにしといてやろう」


 アーシャと話しながら俺は、氷の外を見る。

 砂塵で辺りは覆われ、視界はかなり悪い。

 だけど気配は感じることができる。


 それに、先ほどまで激しかった攻撃も止んでいる。

 殺ったと思ったのか、それとも異変に気付いたのか?

 どっちにしても、やることは変わらないけどな。


「さてと」


 俺は、気配が8個固まっている方向を向いて歩き出す。


「貴方何する気?」

「何って……決まってるだろ?」


 1歩踏み出したところで、アーシャ姉から声をかけられたから、振り返りながら答える。


「戦うんだよ」

「何言ってるの! 貴方バカなの、それとも私達の話聞いてなかった?」

「姉妹揃って酷い言われようだ。敵は8人いるんだろ? わかってるよ」

「いいえわかってないわ。その8人は全員が【覚醒者】なのよ」


 アーシャ姉は必死に俺を説得しよとしている。

 やはりこの世界での【覚醒者】とは、絶対的な存在みたいだ。

 恐らくこれが【覚醒者】ではない8人だった場合、ここにいるじゃじゃ姉は、先陣切って戦っていただろう。

 それを必死にフォローするレオさんの姿が目に浮かぶ。


「それがどうした?」

「それが!? 貴方全然わかってない! これまで貴方は運良く【覚醒者】相手に勝てただけ。それが貴方を自惚れさせている。覚醒もしていない人間が、【覚醒者】に勝てるなんて奇跡、そう何度も起こらないの! そんな運任せの戦いに、私達を巻き込まないで!」

「誰が一緒に戦えなんて言った? 俺が1人で戦うんだから、運任せでも問題ないだろ?」


 俺としては運任せで戦うわけじゃないけど、今はそういうことにしといた方が話が早く終わりそうだからな。


「貴方ホントのバカなのね! もう勝手にすればいいわ。けれど貴方は私達の護衛なんだから、私達のことはしっかりと守りなさいよ。特にアーシャのことは!!」


 アーシャ姉はそういうと、ぷいとそっぽを向いて俺から離れていった。

 かなり面倒くさい正確してるよな、ホント。


「あれでもお姉ちゃんは、お兄さんのことを心配してるんです」

「そうなのか? 俺には全くそうは聞こえなかったけどな?」

「アーシャが言ってるんです。間違ってるはずないです」


 アーシャは得意げに右手の人差し指を立てている。


「ヨウ」

「何ですか、レオさん?」

「俺にも手伝わせてくれ」

「……お気持ちは嬉しいですが、ここで俺の戦いを見ていてください。この壁は、外が透けて見えますから」

「いや、手伝いたいんだ。頼む」

「ダメですよ、レオさん。アーシャ達はここで見てるです。ここから出てしまったら、お兄さんの足を引っ張るだけです。ここにいることが、お兄さんの一番の力になれることなんです」


 的確な助け舟をアーシャが出してくれた。

 というより、ありのままの事実を伝えてくれた。

 俺としてはかなりオブラートに包んで伝えたつもりだったんだけど、伝わらなかったみたいだ。


「すまなかった」

「いえ、大丈夫ですよ」


 レオさんはアーシャの言葉を聞いて、我に返ってくれたようだ。

 いつものレオさんなら、今のような言葉は言わない。

 あまりにも強い敵が現れたことで気が動転していたのだろうか?


「それじゃあ、すまないが頼んでいいか?」

「ええ、一応これでも護衛ですから。……でも、依頼の報酬に色を付けてもらえたら嬉しいな、なんて思ったり」

「フフ、いいだろう。成功したら考えておこう」


 やった。

 言ってみるもんだな。

 でもなんか、俺の死亡フラグが凄い勢いで立ってるような気がするぞ?

 大丈夫か?

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