第32話 心配

 俺達は遂に、オエステア大陸へ渡るための船が出ている町までやってきた。

 ここに来るまで数々の町や村があり、刺客からの襲撃があるだろうと警戒していたのだが、全くなかった。

 正直かなりの頻度で襲ってきてくれた方が、いろいろ手に入るから俺的には嬉しかったんだけどな。


「これを1つもらえるかしら?」

「1つでいいのかい?」

「ええ」

「銅貨30枚だよ」


 アーシャ姉……正確にはミルドレット・バーネットなんだが、長いからアーシャ姉と呼ぶことにしている。

 そのアーシャ姉は、この港町コルボスに来てから、露店をあちこち回っている。

 今も銀色の指輪に、サファイアのような宝石が埋め込まれた物を1つ買っている。


「なあアーシャ、あれは何に使うんだ?」

「あれは、船酔いを予防する道具です」


 何だその道具?

 どういう原理?

 滅茶苦茶気になる。

 こんな時に、持っててよかった[完全鑑定]!


 どれどれ………………加工された鉄と石…………

 うん……

 見なかったことにしよう。


「予防する道具ってことは、アーシャ姉は船酔いするのか?」

「お姉ちゃんは船というよりも、乗り物が全部ダメなんです」

「全部!」

「はいです。だからここまでの移動でも、馬車を使わなかったです。アーシャも馬車は嫌いだから、何も言わなかったです」


 馬車を使わないのには、理由があるんだろうなとは思ってたけど……まさか酔うからだったとは。

 それにしてもアーシャ姉の意外な弱点を知ってしまった。

 てか絶対船で酔うよな?

 今買った指輪には、何の効果もないんだし。

 こういうのはテンプレとして、俺に向かって吐かれる可能性が高い。


「はぁぁ、後で指輪に少し細工をしてやるか」

「何か言ったですか、お兄さん?」

「いや、何でもない」

「そうですか?」

「ああ、それよりも早くアーシャ姉について行かないと怒られる」

「遅くても怒られないと思うです。けど、はぐれたら危ないですから急ぐです」


 アーシャはそういうと、早歩きでアーシャ姉を追いかけた。


「まあ、アーシャは怒られないだろうな。怒られるとしたら俺だろうから」


 俺はため息をまた一つついてから、アーシャを追いかけた。




ーーー


「一体どういうことなのよ!!」


 アーシャ姉はかなりご立腹だ。

 俺達は今、コルボスの宿の1室にいる。

 部屋の中は、左右に2つずつベッドがあるだけの部屋だ。

 

 その部屋の中央を、アーシャ姉は行ったり来たりしている。

 俺とアーシャとレオさんは、それをベッドに座りながら見ている。


「ほんと、何なのよあいつら。何でオエステア大陸に行く船が出せないのよ!!」


 アーシャ姉が怒っているのは、俺に対してではなく、船着き場の人達に対してだ。

 俺達が船着き場に行き、オエステア大陸に行くための船はどれかと聞くと、皆口をそろえて「オエステア大陸に行くための船は出せない。……すまない」そう言ってきた。


 出せない理由を聞いても、答えは「本当にすまない」の一言だけだった。

 どれだけ聞いても理由を説明してくれないことで、アーシャ姉は激怒した。

 その場で暴れそうになったところを、レオさんがどうにかなだめてここまで来たのだが、怒りは収まらないらしい。


 だけど、言えない理由で船が出せないとなると…………考えすぎかもしれないが、一応手を打っておくか。

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