第31話 信頼

 日が徐々に沈み、空の色が変わり始めている中、俺は山道を歩いている。

 いや、獣道といった方がしっくりくるかもしれない。

 そんな道を歩いている。


 もちろん1人じゃない。

 俺の隣を、満面の笑みを浮かべながら歩くアーシャ。

 そして前には青髪の男と、後姿から不機嫌なのがわかるほど機嫌が悪いアーシャ姉が歩いている。


 一応護衛としては認めてもらえたようだが、全く口を聞いてくれない。

 唯一、町を出るときに「アーシャに何かあったら、ただじゃおかないから」と言われただけだ。


 その一言で、なぜ嫌われているか大体予想できたからよかったけど。

 まさか自己紹介すらされずに町を出るとは思ってなかったよ。

 後模擬戦のせいで、アーシャがなぜ狙われたのか聞くの忘れてたしな。


 だけど町を出てから、俺の隣で楽しそうにアーシャが一人で喋ってくれたお陰で、青髪の男のことが少しわかった。


 名前はレオだということと、アーシャ姉の師匠であること。

 これだけしかわからなかったのは、「レオさんはすごいんです」から始まり、何がどうすごいのかひたすらに説明されたからだ。

 正直ほとんど、右から左に聞き流していたから内容はあまり覚えていない。


 そんなことを考えていたら、前の2人が歩く速度を落としながら、辺りを見渡し始めた。

 辺りに人の気配はないから、刺客の襲撃ではないはずなんだけど?


「どうして急に速度を落としたんだ?」


 俺は前にいる2人に対してではなく、隣にいるアーシャに対して聞いてみる。

 どうせ2人に聞いたところで答えてくれないんだ、なら答えてくれるアーシャに聞くほうがいいに決まってる。


「それはですね、多分今日はこの辺りで野営するからです」


 アーシャは右手の人差し指を立てながら、得意げに答えてくれた。

 

「なるほど、野営するのに適してる場所を探してるのね」

「そういうことです!」


 それから数分程歩いたところで、ある程度開けた場所を見つけた。

 川のせせらぎも聞こえることから、近くに川があるのがわかる。


「さて、野営の準備をしましょ。……まさか何もしないで食事を食べれるなんて思ってないでしょうね?」


 町を出てから初めて喋りかけられる言葉が、タダ飯は許さないになるとは思ってもなかったよ。


「もちろん手伝うつもりさ。それで、俺は何をすればいい?」

「そうね? ……私達3人で食材を集めてくるから、水と火の準備をしておいて」

「わかった」


 うん。

 どうやら必要な時は普通に話してくれるようだ。

 必要なときすら無視されていたらどうしようと思ってたけど、案外何とかなりそうだな。


「それじゃあ行ってくるです、お兄さん」

「おう、うまそうなのを頼んだぞ」

「任せるです!」


 アーシャはサムズアップしながら答えた後、アーシャ姉に続く形で森の方に歩いて行った。

 頼まれたから引き受けたものの、護衛対象達と別行動って、護衛として絶対にやったってはいけないことだろ、普通。


 何かあってからじゃ遅いから、一応手のひらサイズの、ミニメーティスゴーレムを付けておきたいんだけど、頼める?


<了解しました>


 ありがとう。

 ミニメーティスは、アーシャ達が向かった森の方に飛んでいく。

 ミニとは言っても、しっかりと魔法は使えるから大丈夫だ。

 護衛としての懸念がなくなったところで、頼まれたことをやりますか。


 確か、火と水の準備だったっけ?

 面倒だから、俺が野営の時にやってた方法で終わらせるか。



ーーー


「何ですかこれ!! すごいです!!」


 お、戻ってきたか。

 俺はアーシャの声が聞こえたに向かう。

 そこには、目をキラキラさせながら目の前のものを見るアーシャと、口を開けて驚いているアーシャ姉とレオさんがいた。


「遅かったな」

「これ、お兄さんが作ったんですか!」

「ああ」

「すごいです! どうやって作ったんですか、こんな!?」


 そう、俺は家を作った。

 正確には、魔法で作り出したになるが。

 まあでも、家といっても元の世界のような家はさすがに今はまだ無理だ。

 見た感じ茶色い豆腐ハウスだ。

 

 だけどしっかりとドアもあれば、窓だってある。

 それに自然に返す形ではあるが、トイレだってある。

 家の定義を詳しく知ってるわけじゃないから、多分としか言えないが、俺の中ではれっきとした家だ。


「作り方は秘密だ」

「えぇぇ、いいじゃないですか、教えてほしいです!」

「ダメ、それよりも中見てみないか?」

「見てみたいです!」

「いいぞ、入って」

「やったです!!」


 アーシャはそういうと、家の中に走って入っていった。

 ここまで興味を示してくれるとは思ってなかったから、一瞬どうやって作ったか教えてしまいそうになった。

 教えたところで[無詠唱]がなければ真似は出来ないけどな。


「あんたほんとにどうやってこんなの作ったのよ?」

「頑張って作ったとしか答えられないな」

「……」


 アーシャ姉は、訝しむように俺の顔を見てきた。

 俺はどれだけ聞かれても答える気はない。

 相手にどんな能力を使って作ったのか考えさせる方が、より俺の力を大きく見せることができるかもしれないからな。


「皆何してるですか? 早く中に入ってみるです!」

「……そうね、今行くわ」


 家の中から聞こえたアーシャの声で、ひとまずは諦めて家の中に入ってくれたアーシャ姉。


「貴様の力は、脅威だ」


 俺もアーシャ姉に続く形で家の中に入ろうとしていたら、後ろから声をかけられた。

 振り返って見てみると、レオさんしかいない。

 今まで一度も喋ったことがなかったけど、どうやら今の声がレオさんの声のようっだ。


「だが今は、その力を護衛のために使ってもらえると信じていいんだな?」


 レオさんは俺の目を見たまま、力強くそう言ってきた。

 何かあれば、護衛としてできることはするつもりだ。


「絶対に無傷で守り切れると断言することはできません。俺にもできないことはありますので。ですが、俺にできる範囲のことならやろうとは思っています。今のところ」


 レオさんは俺から目を離さず、真剣な眼差しで俺を見つめている。

 俺も、そんなレオさんから目を離さない。

 だけどレオさんが突然「フッ」と鼻で笑った後、家の入口に向かって歩き出した。


「これ以上待たせたら怒られる。早く行くぞ」

「……そうですね」


 俺もレオさんに続く形で家の入口に向かって歩いていく。

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