第30話 確認

「もう一回言ってもらってもいいですか?」

「うん? だから、お前が……」

「アーシャ達の護衛をするです!」


 お前さっきまでしょげてたろ!

 何で急に元気になってる?

 後アーシャ姉、何故俺を睨む?


「簡単にいうとそういうことだな。わかったか、ヨウ?」

「……一応は」

「で、どうする? もちろんこの依頼受けるだろ?」

「……お願いしたのは俺ですから、もちろん受けますよ」


 俺は祈るような眼でこちらを見ているアーシャを一度見てから、ヘルゲンの質問に答えた。

 滅茶苦茶嫌な予感がするけど、道案内は必要だしな。

 それに俺が立てた目標の為にも、お金がもらえることは積極的にやっていかないとな。


「やったです!」

「よかったわね、アーシャ」

「はいです!」


 満面の笑みを浮かべ喜んでいるアーシャに対して、アーシャ姉が撫でながら答える。

 微笑みながら、優しく、優しく撫でるアーシャ姉。

 仲がいい姉妹なんだろう、多分。


「でもね、アーシャ。お姉ちゃんはこの男が強いなんて信じられないのよ」


 アーシャ姉はそう言うと、先程までの微笑みが嘘のような、ものすごい形相で俺を睨みつけてきた。

 俺この人に対して何か気に障るようなことしたか?

 全く心当たりがないんだけど。


「お兄さんは、とっても強いですよ?」

「そうかもしれないけど、お姉ちゃんはそれを見てないから信じられないの。だからどれほど強いのか、確認してもいい?」

「もちろんです! お兄さんは滅茶苦茶強いから、きっと驚くです!」

「フフ、それは楽しみね。……そう言うことだから、模擬戦をやってもらっても良いかしら?」


 アーシャと楽しそうに話していた人物はどこへやら、俺に対して投げかけられた言葉には全く感情が乗っていない。

 とことん嫌われてるみたいだな。

 ほんとに何したんだ俺?


「確かに、護衛がどの程度の強さなのか気になるのはわかりますから、俺は構いませんよ」

「そう。それはよかったわ。ヘルゲンさん、会場をお借りしてもよろしいですか?」

「ああ、構わないぞ」

「ありがとうございます。それじゃあ行きましょうか」



ーーー


 俺が連れてこられた場所は、闘技場だ。

 模擬戦となればこの場所と決まっているのだろうか?

 

「お前達のタイミングで始めてくれて構わないぞ」


 ヘルゲンが闘技場の観客席から大声でそう言ってきた。

 今回はヘルゲンとアーシャしか観客席には座っていない。


「だそうですよ?」

「……随分と余裕なのね?」

「そう見えますか?」

「ええ」


 アーシャ姉は無表情で、尚且つ感情の乗っていない言葉を投げかけてくる。

 俺の目の前には、アーシャ姉と青髪の男が立っている。

 1対1の模擬戦だと思っていたら、1対2だったらしい。

 俺としてはどっちでも大丈夫なので、特に文句はない。


「まぁ良いわ。貴方の強さは人伝に一応聞いてるし」

「なるほど。他人の言葉では信じられないから、自分の目で確かめると」

「ええ、変かしら?」

「いいえ。それが普通だと俺は思いますよ」


 話というのは人から人に伝わる時、事実が伝わるとは限らない。

 伝える側が話を少し盛っているかもしれない。

 伝えられた側が少し違う意味で理解してしまったかもしれない。

 それらが積み重なって、事実とは全く違うものとして伝わることもあるだろう。

 というより、ありのままの事実が伝えられる方が少ないだろう。

 

「貴方に賛同されても嬉しくないけど、一応ありがとうと言っておくわ」

「どういたしまして」


 ホントどうしてこんなに嫌われてるんだ?

 アーシャ姉とはほとんど喋ってないはずなんだけどな?


「貴方と話したいことも無いので、早く始めましょう?」

「そうですね」


 俺が答えるのとほぼ同時に、アーシャ姉は腰に差してあった得物を抜く。

 それに呼応するように、青髪の男も得物を抜く。

 2人の得物は、見た感じレイピアのようなものだ。

 アーシャ姉が右手、青髪の男が左手に、それぞれ得物を構えて臨戦体勢だ。


 俺もそれを確認してから、2本の刀を抜く。

 俺は特に刀を構えず、力を加えず、ごくごく自然に持つ。

 そして俺はゆっくりと、2人が立っている場所に向かって歩き出す。


 2人は近づく俺を、訝しそうな目で見ている。

 おそらく何をしたいのかわからないのだろう。

 俺はただ、2人が戦いやすいように間合いをつめてるだけだからな。


 俺は忍者と戦って感じたことがある。

 自分自身の考えた戦い方、新たに作り出した魔法、それらを駆使して戦った時、俺は最高に楽しかった。

 圧倒的な力でねじ伏せるのではなく、考えて戦った時の方が断然楽しかった。


 だから俺は決めたのだ、で勝つのではなくで勝つと。

 相手が武術の使い手なのなら武術で、魔法の使い手なのなら魔法で、できるだけ相手の得意な土俵の上で戦うと。

 といっても俺の力は圧倒的過ぎるから、本気ではあまり戦えないんだけどな。


「やあ」

「ふん」


 そんなことを考えているうちに、2人の間合いに入った。

 その瞬間、2人は迷いながらも、俺に対してレイピアで突きの攻撃を仕掛けてきた。

 アーシャ姉が右肩、青髪の方が左肩を的確に突こうとしている。


 俺は右肩に迫り来る突きを左手の刀に、左肩に迫り来る突きを右手の刀に当てて攻撃を防ぐ。

 この時刀の面を、少しだけ体の外に向けておく。

 そうすることで力を受け流すのが目的だ。

 

 正直正面から受けたところで余裕で受け止められるんだけど、こういうのは日頃からやっておかないと、肝心な時にできなかったりするからな。


「ッチ」


 アーシャ姉は、俺が攻撃を受け流した瞬間舌打ちをしてきた。

 けれど、当たらないのはある程度予想できていたようで、突き出したレイピアをすぐに戻して、再度突きを仕掛けてくる。

 それも先程より早い速度で。


 俺はその攻撃も、刀に当てて受け流す。

 そしてまたレイピアは戻されて、さらに早い速度で突きが放たれる。

 それをまた、刀に当てて受け流す。

 その一連の動きが、止まることなく繰り返される。


 ………………

 …………

 ……

 どれだけ同じことが繰りかえさだろうか?

 数えるのもバカらしくなるほど繰り返された、それだけはわかる。

 そして今2人は、肩で息をしながら攻撃をやめて、俺を睨みつけている。


「ハア……ハア……どうして反撃してこないのよ?」

「うん? そりゃあ確認の為ですよ」

「……どういうことよ?」

「え? 攻撃を全て凌ぎきれば合格って事じゃないんですか?」


 俺はてっきり、「私達の攻撃を凌げるなんてたいしたものね。いいわ、認めてあげる」的な感じだと思ってたんだけど?

 まさか違った!?

 

「違うわよ! ……でもいいわ、認めてあげる」

「それはよかったです」

「話半分だと思ってたのに、まさかここまで強いなんて」

「何か言いました?」

「何でもないわよ!」


 そう言うとアーシャ姉は、闘技場から出て行ってしまった。

 青髪の男もそれに続く形で出て行く。


 確かに何か言ってた気がするんだけどな。

 まあいいや、これで道案内してもらえて、さらにお金がもらえるんだからな。

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