第28話 お礼
「はああ~~」
俺は大きな欠伸をしながら目を覚ます。
もちろんあたりは薄暗い、いつもと同じ時間帯だろう。
昨日俺はヘルゲンに忍者を引き渡した後宿に戻って、忍者から貰ったもので、どんなことができるかいろいろ試してから寝た。
昨日のことはさておき、今日のことだ。
今日俺は、S+の冒険者カードを受け取ってこの町を発つ。
「その前に、この町に来てからの日課をやりに行かないとな」
俺はそう言いながら、勢い良くベッドから立ち上がる。
そして、ベッドの横に立てかけていた2本の刀を手に取り、腰に差す。
「さて行くか」
俺は、左の腰に差した刀の柄の先に左手を置きながら部屋を出る。
ーーー
「うん?」
俺は平原に向かう途中、ある気配を感じ取った。
その気配は、俺が今から向かう平原から動く気配がない。
「何してるんだろ?」
別に俺は、その気配の人物を知らない訳じゃない。
いや、それどころか昨日会っている。
何でまたここに居るんだろ?
兎に角俺は、その人物のところまで行くことにした。
気にせず訓練することは出来ない。
近くに人が居たらかなり危険だからな。
歩くこと2分ほど。
ようやく相手からも、俺のことが目視できたようで、こちらに向かって大きく手を振っている。
俺はその少女の元まで歩いていく。
「やっぱり来たです!」
少女……アーシャは、とても嬉しそうにそう言う。
今の言い方からして、おそらく俺を待っていたんだろう。
でも何のために?
今日はカゴバックを持っていないことから、花を摘みに来たわけじゃないことは推測できる。
というか昨日ギルドで別れるとき、「必要な分は集まったです」って言ってたからそれはわかっているんだけど。
となると、尚のこと俺を待っていた理由がわからない?
「どうかしたですか?」
俺が首をかしげながら考えていると、アーシャが俺の顔を覗き込むように見てきた。
「いや、何でこんな所で俺を待ってるのかなって思ってさ」
「ああ、そうでした!」
アーシャはそう言うと、俺から少し離れる。
何する気だ?
「昨日はいろいろしてもらったのに、お礼が言えてなかったです。だからいろいろありがとうです!」
アーシャはそういって頭を下げた。
「お礼を言われるほどの事はしてないよ。花を摘むのを手伝ったのも、あの刺客と戦ったのも、全部自分のためだから」
全て事実だ。
花を摘むのを手伝ったのは、そっちの方が早く訓練を再開できるから。
あの場所で喋っていては、何時までたっても訓練ができなかった。
忍者と戦ったのだって、俺についてあまりにも知っていたことが気になったからだ。
それがなければ、俺は戦っていなかっただろう。
運良く俺が一緒に居て、運良く俺が戦うだけの条件が揃っていた。
そう考えると、かなりアーシャは運が良いな。
「それでも、ありがとうです! お兄さんが居なかったら、かなり危なかったです。……後、お願いがあるです」
アーシャは頭を上げると、真剣な表情で俺に言ってきた。
「うん? 何?」
「……アーシャを…………アーシャを強くしてほしいです!」
「それは無理かな」
「どうしてですか!」
理由はしっかりとある。
俺が強いのは能力おかげであり、俺自身が人に教えられるほど強くないこととか。
けれど一番の理由は……
「俺にメリットがない」
「花を摘むのだって、特にメリットはなかったはずです」
「俺の中ではしっかりとメリットがあったんだよ」
「……そうですか。なら、メリットがあればいいんですか?」
「そりゃあ、メリットがあれば受けるし、頑張るさ」
「そうですか」
アーシャはそう言うと、顎に手を当てて何かを考え始めた。
タダ働きでさえなければ、しっかりと頑張るに決まってる。
俺自身が強くないといっても、知識は一応ある。
武術を習ってはいなかったけど、部屋で一人で調べたりはしてたからな。
もしもの時のために!
「わかったです。そういうことなら、また後で会った時にお願いするです」
「後で?」
「それじゃあ、アーシャはもう行くです」
アーシャはそう言うと、町の方向に走っていった。
後でって何? 何かあるの?
俺知らないんだけど。
まー良いか。
とりあえず、アーシャがある程度離れたら訓練を始めるとして、今できる準備だけしておこう。
まずいつもと同じ[メーティス]人形を作る。
人形以外にも方法はできたんだけど……やっぱり自分に攻撃するのは抵抗がある。
そして前回の反省を活かして、半径500mほどに風で半球形の膜を作る。
この風の膜によって、空気振動が外に出ないようにする。
これで、防音対策は完璧だろう……多分。
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