第27話 情報

 コンコンコン


「開いてるぞ」


 俺達はその声を聞いてから、両開きのドアを開けて中に入る。


「何だ? 冒険者カードを渡すのは明日のはずだが?」

「はい、知ってます。今日は別の用件で来ました」

「別の用件? 何だそれは」

「いろいろありまして、ゆっくり話をしたいんですが大丈夫ですか?」


 俺は真剣な眼差しでヘルゲンを見る。

 ヘルゲンは、俺とアーシャを交互に見る。


「わかった。座って少し待ってろ」

「ありがとうございます」

「ありがとうです」


 ヘルゲンはそう言うと部屋から出て行った。

 俺とアーシャは言われた通り、ソファーに座る。

 俺が真ん中で、アーシャが俺の右、俺の左に忍者を座らせる。

 それから5分程して、ヘルゲンが戻ってきた。


「待たせて悪かったな」


 ヘルゲンはそう言いながら、俺達の正面のソファーに座る。

 一応他の人間に聞かれるとまずいかもしれないので部屋の中に、外に音が漏れないようにする結界を張っておく。


「いえ、大丈夫ですよ。それに急に来たのはこちらですから」

「それもそうだな。話をする前に、俺はそっちの嬢ちゃんのことを知らないんだが、紹介してくれるか?」


 ヘルゲンは、アーシャの方を見ながらそう言ってきた。

 確かに自己紹介は、後にするより先にした方がいいな。


「アーシャの名前はアーシャです。よろしくです、おじさん」


 俺がそう考えていると、隣に居たアーシャが急に右手を上げて自己紹介をした。

 アーシャの名前を聞いたヘルゲンは、何故か顎に手を当てて首をかしげている。


「アーシャ。どっかで聞いたことある名前だな。すまんが、フルネームで教えてもらってもいいか?」

「? アーシャ・バーネットです」

「バーネット! ってことは、クロードの娘か!」


 ヘルゲンは興奮気味にそう言ってきた。

 クロード?

 誰だそれ?


「うん? おじさん、お父さんを知ってるんですか?」

「知ってるも何も、クロードとは一緒にパーティーを組んだことのある仲だ! そうか、お前がアーシャか。全然クロードに似てないな」

「よく言われるです」

「だろうな。クロードに似てたら、そんな綺麗な顔立ちにはなってなかっただろうな」

「それもよく言われるです」

「そうかそうか」


 うん。

 クロードって人がアーシャのお父さんで、その人とヘルゲンは知り合いと。

 そこまではわかる。

 けどクロードって人を知らないから、似てるとか似てないが全くわからん。

 てか俺、完全に置いてきぼりだよな。


「おじさん。お父さんの話は後ですればいいです。今はお兄さんの話を聞いてあげてほしいです」


 アーシャ、君はなんていい子なんだ。

 俺、涙がでそうだよ。


「そういえばそうだな。完全に忘れてた」


 ヘルゲン、お前はなんて酷いやつなんだ。

 アーシャとは大違いだ。


「いや、冗談だ冗談。そんな顔で俺を見るな」

「ホントですか?」

「本当だ、本当。それよりも話してのは何だ? その話にはアーシャも関係してるんだろ?」


 ヘルゲンへの疑いは拭えないが、とりあえず今は本題に入ることにする。


「はい。確かにアーシャも関係しています。ですが、話をする前にコイツを見てください」


 俺は今まで忍者にかけていた[完璧偽装]を解除する。


「なっ! 何時の間に。それにその格好、何でそんな奴がここに居る!」


 ヘルゲンは立ち上がりながらそう言った。

 ヘルゲンからすれば、突然目の前に人が現れたようなものだから、驚くのは仕方ないだろう。

 こんな格好の奴を肩に乗せて歩いていたら、嫌でも注目が集まってしまう。

 だから俺は忍者に[完璧偽装]を使って、あたりの景色に同化させ、周りの人達から見えなくしたんだが。

 ヘルゲンの反応を見る限り、正解だったみたいだ。


「コイツが誰なのか知ってるんですね?」

「……知ってはいる。だがコイツ個人ではなく、コイツ等が属している組織を知っているだけだ」


 ヘルゲンは混乱しながらも、俺の質問に応えてくれた。

 だがそれに関しては、ある程度予想ができている。


「トゥーエル王国の秘密部隊といったところですか?」

「! そこまでわかってるのなら、俺に聞くことなんてないだろ?」

「いえ、わかってませんでしたよ。あくまで予想でしかありませんでした」


 けれど忍者との会話で、ほぼ確信を持っていた。

 

 まず俺が勇者であることを知っていたこと。

 俺が勇者であることを知っているのは、セバス達とヘルゲン、そしてトゥーエル王国国王の城にいた人達。

 この時点でセバス達は絶対にないから、選択肢から消える。

 残り2つ。


 俺が特殊なスキルを持っているだろうことは、ヘルゲンなら大体予想出来ただろう。

 そして王国側は、何故だか知らんが俺達の会話が筒抜けだった。

 城に居た時、俺が特殊なスキルを持っていることを、セバスとルーチェに話したことがあった。

 おそらくその時の会話が聞かれていたのだろう。

 

 ヘルゲンではなく王国側であることを決定付けたのは、スキルだ。

 忍者は俺が[結界魔法]を使った時、「報告では無かったスキルですね。それも貴方だけが持っていたという、特殊なスキルが関係してるんですね」と言った。

 [結界魔法]自体は静香も持っていた。

 なのに俺が使えば、特殊なスキルが関係してくる。

 これは明らかに変だ。


 だけど変じゃない場合が存在する。

 それは、俺のステータスを見ていた場合だ。

 ヘルゲンにはステータスを見せていない。

 けれど王国では、一度だけステータスを見せたことがある。


 つまり情報は、王国から受け取っていたということになる。

 さらに忍者は任務であると言った。

 それらのことからこの忍者は、トゥーエル王国の命令で動いていると予想したってわけだ。


「ヘルゲンさん、ここまでは答え合わせなんです。これからが本当の本題です。長くなるかもしれないので、一度座られたらどうですか?」

「あ、ああ。悪い、少し驚きすぎた」


 ヘルゲンはそう言って、ソファーにもう一度座った。

 俺はヘルゲンが座ったのを確認してから話し出す。


「実は今回、コイツに命を狙われまして」


 俺は左手の親指を立てて、忍者の方に向ける。


「お前の命を狙うなんて命知らずなことをするな」

「いやあ、それが俺じゃないんですよ」

「お前じゃなかったら誰の命を……まさか!!」


 ヘルゲンは言いかけた言葉の途中で、アーシャを見て理解したらしい。

 目を大きく見開いて驚いている。

 何か悪いな。

 さっきから驚かしてばかりになってる。


「はい。実はそのまさかなんです。それで俺から少し、お願いがあるんですがいいですか?」

「何だ? 言ってみろ」

「では、二つほど。まず、何故アーシャが狙われたのかについて調べてほしいんです。次にできるだけ正確な、トゥーエル王国の戦力を教えてください」

「その二つを聞いて、どうするつもりだ?」


 ヘルゲンは真剣な表情で問いかけてきた。

 ついさっきまで驚いていたとは、到底思えない豹変ぶりだ。

 さすがは、ギルマスを務めるだけはある。


「アーシャのことは気になったからです。2つ目は、もし俺の命が狙われたら、徹底的に戦わなければならなくなるからです」


 俺は特に表情を変えることなく、正直に応えた。

 ヘルゲンは俺の顔を真剣に見続ける。

 俺は目を逸らすことなく、ヘルゲンの目を見返す。

 おそらく俺の真意を探ろうとしているのだろう。

 別に嘘をついているわけでもないから。問題ない。


 ヘルゲンは少ししてからニカッと笑った。


「いいぜ、教えてやる。ただアーシャのことは、明日冒険者カードを渡す時になるが構わないか?」

「ええ、もちろん大丈夫です」


 俺は笑顔で頷く。


「それじゃあ、トゥーエル王国の戦力についてだったな」

「はい」

「注意すべきは、3つ。正確には、2人と1つの集団だ」


 ヘルゲンは左手の指を2本、右手の指を1本立ててそう説明してくれる。


「1つの集団ってのは?」


 俺はそう言いながら、チラッと隣で気を失っている忍者を見る。


「ああ、お前の隣で寝てる、そいつの所属しているであろう集団だ。名前は、ディスペルタル。この集団は、【覚醒者】のみで構成されている」


 構成員は全員【覚醒者】の組織。

 それはまた、おいしそ……違う違う。

 やばそうな組織だ。


「そして残り2人は、騎士団の団長のダニエルと、魔術師団の団長のセリオだ」

「待ってください! 俺が国王に紹介された人と、名前が違います!」

「何時どこで紹介された?」

「俺がこの世界に召喚された次の日に、王城で紹介されました」

「確か国王が勇者を召喚したと発表したのが、35日前だったはずだ。それから1日経過した34日前だったとしても、騎士団長と魔術師団長は王城には居ない」

「何故です?」

「トゥーエル王国は今、何時隣国と戦争になってもおかしくない状態なんだ。その為隣国との国境にある町に、騎士団長と魔術師団長は、60日ほど前から駐屯しているからだ。おそらくお前が紹介されたのは、偽者だろう」


 なるほど。

 確かにそういわれれば、団長にしてはあまり強くなかった。


「注意すべきはそれぐらいだな。それで、お前の横で寝ているそいつはどうするんだ?」

「特に何も考えていません」

「そうか、なら丁度いいな。そいつ俺が引き取っていいか? 少し聞きたいことがあるんだ」

「いいですよ」

「助かる」

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