第26話 決着

 俺は正面と左の忍者と鍔迫り合いの形のまま、後ろを少し確認する。

 すると先程飛ばした忍者2人が、起き上がろうとしているところだった。

 俺は即座に鍔迫り合いをやめて、忍者達から距離をとる。


「まさか、ここまで強いとは……正直なめてましたよ」

「褒め言葉として受け取っていいのか?」

「ええ、もちろん。覚醒しないでその強さ、本当にどんな特殊なスキルを持っているのか気になりますよ」


 そんな会話をしていると、先程飛ばした忍者2人が、俺と鍔迫り合いをしていた2人と合流した。

 

「そうか? 俺は覚醒した時の能力の方が気になるけどな」

「それは既にスキルを知っているからいえるんですよ。それに、【覚醒者】はごく一部の人間しか辿りつくことは出来ないんです。勇者だからといって必ず覚醒に辿りつけるとも限りませんからね」

「ふううん、そうなんだ」

「そして貴方の場合、覚醒することは絶対にありません。何故なら……ここで死んでもらうからです」


 忍者はそう言うと、分身の数をさらに増やした。

 結果忍者の数は、15人になった。


 かなりブーメランな気がするけど言わせてほしい。

 何だあのチートスキル!

 

「さすがに、この数を同時に相手するのは無理でしょう?」

「それはどうだろうな? やってみないとわからない」

「何時までその強がりが続くか、楽しみです」


 忍者集団はそう言うと、10人が同時に俺に向かってきた。

 残りの5人は俺を中心に、五芒星の頂点のような位置取りである。


 今日できなかった分の訓練代わりには丁度よかった。

 さらに訓練になりそうな展開、さっきできなかったことを今やらせてもらおう。

 俺に向かって走ってくる10人を見ながら、俺は2本の刀を鞘に収める。


「さっそく諦めたんですか? ですがもう遅いですよ」


 10人ほどがほぼ全方位から同時に攻撃をしかけてきた。

 俺は左手を前に突き出して、を発動させる。

 すると今にも俺に対して斬りつけようとしていた、忍者10人の小刀を、10本の氷の剣が受け止めた。


「何ですかこの剣は! 魔法? ですがこんな魔法見たことがない!」


 忍者10人は何度も俺を斬ろうと攻撃してくるが、その全てを氷の剣が受け止める。

 この魔法はもちろん、俺が[無詠唱]で作った魔法だ。

 効果はいたってシンプルで、俺に対する攻撃を防ぐ。

 攻撃してくる数が増えれば、氷の剣の数も自然と増える。

 この魔法は、別の属性魔法でも使用することが可能という優れものだ。

 何故形状を盾ではなく、剣にしたかというと、防御から攻撃にも使用できるためだ。

 けど一番の理由は……なんかカッコイイから。


 10人の忍者達は、いくら攻撃しても当たらないとわかると、俺から距離をとった。

 攻撃の手が止まったことによって、今まで攻撃を防いでいた氷の剣は、柄が俺の方に向く形で、俺の周りで円を描くように回り始める。


「その魔法が何なのかはわかりませんが、属性が氷であることはわかりました。なら、その氷を溶かしてしまえばいいだけのこと。正直この魔法はあまり使いたくなかったのですが、致し方ありません」


 忍者はそう言うと、攻撃に参加していなかった5人の前に2人ずつ、護衛のような形で移動する。

 そして攻撃に参加していなかった5人は、同時に魔法の詠唱に入る。

 俺はその魔法の発動を邪魔せずに、正面から迎え撃つことにした。

 おそらく[火魔法]だから、周りが燃えないように、俺達が結界の中に入るように、大きな結界を張る。

 これで結界の外に被害が出ることは無くなった。

 この場所は綺麗だったから、できるだけ残しておきたい。

 まあでも今更感は凄いけど、無いよりはマシだろう。


『我 炎を操るものなり  我が魔力を糧に顕現せよ 

 全てを飲み込み 黒き灰に変えるモノよ

 汝を消し去った者への 復讐の為に

 汝の野望を 再び叶える為に

 汝に 再び姿を与えよう

 我は求める 汝の復活を

 我は求める 黒き灰の世界を

 我は求める 絶対の力を

 今再び 姿を現せ  セルピエンテフレイム』


 忍者が魔法の詠唱を終えると同時に、魔法を詠唱していた忍者達の前に、小型車なら丸々飲み込むことができるであろう炎の大蛇が現れた。

 詠唱もかなり長かったから、強力な魔法であることは予想できたけど、これは予想以上に凄い魔法だな。

 ほとんど詠唱魔法は使ってなかったから、こんな魔法があったなんて知らなかったよ。

 俺は大蛇の顔があるだいぶ上を見ながら、感心する。


「この魔法はあたり一面を、灰に変えない限り消えることは無い。これで終わりですよ、勇者様」


 何だその魔法?

 使い勝手悪すぎだろ。

 まあ俺の場合は[無詠唱]で改良して、使い勝手をより良くしてから使うけど。

 どう改良するかを考えようとしたところで、大蛇の1匹が俺を飲み込もうと大口を開けて襲い掛かってきた。


 俺はそれに対して、自分の周りを回っている剣を[氷魔法]で少し大きくする。

 そして剣の柄と柄をくっつけて、柄の上にも下にも刃がある特殊な剣にする。

 その剣を回転させながら、今にも俺を食べようとしている大蛇の口目掛けて飛ばす。


 すると剣は大蛇の大きく開けた口を、つっかえ棒のような形で挟まり、口を閉じることができなくなった。

 それと同じ特殊な剣を、後4本作り、残りの大蛇達の口に向かって飛ばしてやる。

 これによって全ての大蛇の口が、閉まらなくなった。


「いい考えですが、それではダメですよ勇者様。勇者様の剣は氷属性です。そして私の魔法は火属性。氷は熱に弱いんですよ?」

「そんなの知ってるよ。でも良く見てみろよ」

「……剣が溶けていない!」


 正確には溶けてるけどな。

 勘違いしてくれるなら、それに越したことはない。

 剣が溶けるなら、溶けるのと同じ速度で修復してやればいい。

 だけどこれだけじゃ、大蛇は倒せない。


 大蛇は火だ。

 火は水で消すことができる。

 けど変に水をかけて、水蒸気爆発なんて起こったら洒落になんないしな。


 火を消す方法は他にもあるけど、できるかわかんないんだよな。

 でも、とりあえずやってみるしかないか。


「何なんですか貴方は! 本当にまだ覚醒してないんですか!?」

「だからまだだって言ってんだろ」


 俺はそう言いってから、左手を大きく右から左に振り、息を止める。

 するとあたりに強烈な風が横合いに吹いた。

 その風に当たった大蛇達は、風に流されるかのように消える。


「あっ、あっ」


 忍者もそんな言葉にならない声を上げて倒れる。

 倒れた忍者は、スキルが解除されたようで一人だ。


 俺は周囲に張っていた結界を解除してから、もう一度風を吹かせる。


「すう、はあ」


 風が吹き終わってから、ようやく俺は息をする。

 そして倒れている忍者の、両手両足を氷で拘束してから、


 フフフフフフ。

 オリジナルスキルってのは、チート以上にチートなんだな。


「お兄さあーーーーーん、大丈夫ですか?」


 俺が嬉しさのあまり自分の世界に入っていると、大きな声が聞こえた。

 俺はその声で我に返り、忍者を肩に担いで声のした方に向かう。


「もちろん。全然平気だよ」


 俺はそう言いながら、最初に張った結界を解除する。

 すると結界の中に居た少女……アーシャは俺の方に走ってきた。


「凄いです、お兄さん! アーシャには何をしてるのか全然わからなかったです! 特に最後の大きな蛇が消えたところなんて、何が起きたのか理解できないです」

「まあ勝ったんだから、何でもいいじゃん」


 最後の攻撃? はおそらく、科学の発展していなであろうこの世界の人には理解することができないだろう。


 俺が最後に吹かせた風は、高濃度の二酸化炭素の風だ。

 火は酸素がなければ燃えることはできない。

 さらに、高濃度の二酸化炭素は人体に悪影響を与える。

 忍者には一応、時に[回復魔法]をかけて直してやったから、ある程度すれば目を覚ますだろう。

 俺自身まさかできるとは思ってなかったからな、どっちもできたら儲けものぐらいの感覚でやったしな。

 さすがLv9とオリジナルスキルだ。


「それとアーシャ、少しついてきてほしい場所があるんだけどいい?」

「大丈夫です。けどどこに行くですか?」

「うん? 冒険者ギルド」

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