第25話 回れ右

 勇者。

 俺には、確かにそう聞こえた。

 けれど俺は、自身が勇者であることをあまり人に話していない。

 なのに目の前の人物は、俺が勇者であることを知っていたかのような口ぶりだ。

 本当に何者なんだ?


「いや、では今の攻撃に反応することはできませんね。やはり貴方だけが持っていたという、が関係しているということでしょうか?」

「!!」


 コイツ、一体どこまで知ってやがる!?

 口ぶりからして、スキルの内容までは知らない見たいだが。

 俺がスキルに関して話したのは、セバス達だけだ。

 だけどセバス達が他の人間に話すとは考えられない。

 ならどこから情報を手に入れた?


「ですが残念なことに、今回勇者様に用はないんです。勇者様の後ろに隠れている少女に用があるので、おとなしくしていてもらってもいいですか?」


 そう言うと見た目忍者の人物は、腰の後ろにつけていた小刀を抜いて逆手に持ち、瞬時に俺の後ろに回ってアーシャに斬りかかった。


 俺がそんなに反応できないと思っているのだろうか?

 俺は即座に後ろを向き、左手でアーシャを守るように包み込み、右手に持っている短剣で攻撃を受け止める。


「おとなしくしていてくれれば、勇者様には手を出さなかったのに」

「少しお前に聞きたいことがあってな」


 俺は、忍者みたいな奴と鍔迫り合いの状態で、不適に笑いながら応える。


「それではこうしましょう。私の任務が終ってからゆっくり話をするということで。こちらとしましても、少し勇者様に聞きたいことがありますので」

「俺は今話がしたいんだ」

「そうですか、それは残念です」


 忍者はそう言うと、バックステップで俺から距離をとる。

 俺はその隙に相手のステータスを見る。




名前 ディーン・ボーレンダー

性別 男


Lv 288

HP 4683/4683

MP 4539/4539

攻撃力 4729

防御力 4302

敏捷性 4894

魔力 4333

運 15


称号

 【覚醒者】


▼スキル

 [剣術 Lv5][短剣術 Lv5][投擲 Lv5][格闘術 Lv5]

[火魔法 Lv5][身体強化 Lv5][隠密 Lv5][気配感知 Lv4]


▼ユニークスキル

 [分身]



 エルノさん達と同じ、【覚醒者】か。

 おそらく[分身]てのが、覚醒によって手に入れたスキルだろう。

 まさに忍者ってスキルだな。

 それに他のスキルもレベルが高い。

 この世界に来てからあまり日が経っていないってのに、エルノさん達といい、この忍者といい、序盤で戦うような相手じゃないよな?

 けどそんな人達とまともに戦える俺もおかしいよな。


「勇者様がまだ、覚醒していないのはわかっているんです。勇者様に勝ち目はありませんよ」

「それはこの世界のルールなのか?」

「ええ。いくら勇者様でも、【覚醒者】との差を埋めることは出来ませんから」


 確かに普通なら無理だろうな。

 最近徐々にわかってきたことだけど、Lvが1上がることで上昇するステータス値は、5~10の間の数値だ。

 もし仮に、今のレベルでオリジナルスキルがなかった場合、俺のステータスは、370~740の間の数値しか上昇していない。

 そんな状態では、絶対に勝てないだろう。

 けれど俺は、この世界の考え方をぶっ壊せるスキルを持っている。

 

「そうか、なら試してみるか。アーシャ、少しここでじっとしてろよ」

「わかったです!」


 俺はアーシャの頭を撫でながらそういう。

 アーシャも落ち着けたのか、笑いながらそう応えてくれる。


「面白いですね。いいでしょう、実力の差を思い知らせてあげます」


 俺はアーシャの周りに[結界魔法]で、魔法と物理攻撃を防ぐ結界を張ってから、忍者の方にゆっくりと歩き出す。


「今のは[結界魔法]ですか? 報告では無かったスキルですね。それも貴方だけが持っていたという、特殊なスキルが関係してるんですね」

「さあな」


 俺のスキルに関してもある程度情報があるみたいだな。

 けれど[結界魔法]を持っているのは知らなかった。

 そうなってくると、ある程度絞れるな。

 てかもうほとんど決まりだろうけど、この忍者を倒してから答え合わせをすればいいや。


 俺はそう決めると、右手に持っていた短剣を忍者に向かって投げつける。

 それと同時に、腰に差してある2本の刀を抜き走り出す。


 忍者はくないのようなものを、俺の投げた短剣にぶつける形で投げてきた。

 それによってくないも、短剣も地面に落ちる。


 俺はそれに構わず、右手の刀で忍者の右肩目掛けて斬りかかる。

 忍者は俺の攻撃を、右手に持っている小刀で受け止める。

 俺はそれを確認してから、左手の刀で忍者の右横腹を斬りつける。


 けれど甲高い音がして、俺の攻撃は防がれてします。

 確かに忍者の横腹には当たった。

 当たったのだが、やはり忍者というべきか、鎖帷子らしきものを着込んでいたようだ。


「惜しかったですね。次はこちらから行かせていただきます。[分身]」


 忍者がそう言うと、俺の左右に全く同じ見た目の奴が現れた。

 どうやら、想像通りのスキルのようだ。


 俺の左右に現れた忍者の分身体は、同時に俺に対して斬りかかってきた。

 俺は咄嗟にバックステップで攻撃をかわす。


「よく今の攻撃をかわしましたね」

「俺に戦い方を教えてくれてる人に比べれば、まだ生ぬるいからな」

「それはどんな教え方をしているのか気になりますね」

「大丈夫だ。お前が知ったところで、真似出来ることじゃないから」

「それはますます気になります。……ですがそれを聞くことができないのは非常に残念です」


 忍者がそう言うと、突然後ろに人型の魔力を感知した。

 俺が後ろを振り返ると、俺に斬りかかってきている忍者が居た。

 いや、忍者の分身体といった方がいいだろうか。

 一体どれだけ分身体を作ることができるんだ!


 俺は左手の刀で、後ろから斬りかかってきた忍者の攻撃を受け止める。

 他の忍者も見えるように、体の向きは横で、左に1人、右に3人という構図になっている。


 しかし右の3人の内、2人が俺の前後に移動した。

 これにより俺は、四方を挟まれる形となってしまう。


「これで王手です」


 忍者はそう言うと、残りの3方向から同時に斬りかかってきた。


 確かに王手だ。

 ……けれど、じゃない!


 俺は左手に持つ刀の角度を、俺の正面に少し向ける。

 さらに両足を揃えて、右足を1歩後ろに下げる。

 そして勢い良く、右回りで180度回転する。


 この時、俺の左手の刀の刃を、忍者の持っている小刀の鍔に当てて、回転する。

 これによって、左に居た忍者を、正面に居た忍者に向かって飛ばす。

 俺は回転したことで、正面と左になった、残りの忍者の攻撃を両手の刀で受け止める。


「今、何をしたんですか!」

「学校で嫌ってほどやらされた、だよ!」

「学校? 回れ右? なんですかそれは」

「自分で考えろ」

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