第24話 花畑

 俺は、少女の後を追いかける形で森の中を進む。


「まだつかないの?」

「もう少しです」


 少女は嬉しそうにそう応えてきた。

 俺は、その言葉を信じることができない。

 何故ならその言葉は、既に3回も聞いているから。

 けれどそれから少しして、急に開けた場所に出た。

 

 俺はその場所を見て、言葉を失った。


「凄いでしょ! ここは、アーシャの秘密の場所なんです!」

「ああ、これは本当に凄い」


 俺はあたりの景色を見ながら、率直にそう応える。

 

 朝露と太陽の光でキラキラと宝石のように輝く、色鮮やかな花。

 それが視界一面に広がっている。

 そして正面には、先程昇り始めたばかりの太陽。

 それらは御伽噺のような、幻想的な景色。

 俺からはそう見えた。


「ふふん、よかったです」


 少女は得意げに胸を張りながら、俺に言ってくる。

 確かにこの景色は、胸を張って人に薦めることができるだろう。


「いやあ、本当に綺麗だよ。……でも秘密の場所って言ってたけど、さっき会ったばかりの俺なんかに教えてよかったの?」

「別にいいです。秘密といっても、今日見つけたばかりなだけです」


 少女は、特に考えるそぶりを見せずにそう応えてきた。

 

「そっか」


 何かあるんじゃないかと、期待した俺がバカだったよ。

 でもこんな綺麗な景色を紹介してくれたんだ、花を摘むのを手伝うぐらい、どうって事ない。


「それで、ここにある花をどれぐらい摘めばいいの?」

「摘んでほしい花は6種類です」


 少女はカゴバックの中から、色が違う、6本の花を取り出した。


「うん? 適当に摘むんじゃないの?」

「違うです。見分けるのが難しいですから、お兄さんには見本を渡しておくです」


 少女はカゴバックから出した6本の花を、俺に渡してきた。

 俺は6本の花を受け取って、首をかしげる。


「少し気になったんだけど、何でこの花を集めるの?」

「特別に教えてあげるです。実は、急遽明日お金が必要になったです。この花は高く売れるので、明日必要なお金の為に集めるです」


 そんなことを、俺なんかに教えていいのかよ!

 もう少し他人を警戒した方がいいぞ。


 でもこの花を集める理由はわかった。

 おそらくこの花が高く売れるのは、この花にしかできないことがあるってところかな?

 兎に角俺は、受け取った花を鑑定してみた。



ルブルム

 赤色の花を咲かせる。

 微量ではあるが、HPを回復することができる花。


パールス

 赤紫色の花を咲かせる。

 微量ではあるが、HPを回復することができる花。


フクシア

 桃色の花を咲かせる。

 微量ではあるが、HPを回復することができる花。


ガラノス

 青色の花を咲かせる。

 微量ではあるが、MPを回復することができる花。


ベルデマール

 青緑色の花を咲かせる。

 微量ではあるが、MPを回復することができる花。


ベルデ

 緑色の花を咲かせる。

 微量ではあるが、MPを回復することができる花。



 想像以上に凄い花だ。

 火傷や風邪などに効くぐらいを予想してたんだけど、HPとMPときましたか。

 連戦など、HPやMPを回復する為の時間がとれない場合、かなり助かるだろう。

 [回復魔法]でもHPを回復することはできるけど、MPは回復できないからな。

 

 まあでも、俺の場合使い切るのが難しいぐらいMP量があるから、あんまり関係ないけど。

 

「それじゃあお兄さん、手分けして始めるです!」

「了解」


 少女は右手を握り締めながら上に上げ、右側に歩いていった。

 俺は少女とは反対の左側に歩いていく。



 さて、視界一面花畑。

 その中から、俺の手元にある6種類の花だけを探し出して、集める。

 普通に探していたら、どれだけ時間がかかることか。

 何か簡単に見つけられる方法はないものか?

 俺のスキルには、そんなことができそうなのがないんだよな。


 ううん…………いや、待てよ。

 もしかしたらいけるかもしれないぞ。

 とりあえずやってみるか。


 ……できた。

 できちゃったよ!

 マジで便利すぎ、オリジナルスキル。


 俺が行ったことは、いたって簡単なことである。

 まず、俺の見える範囲に広がる花畑全てに対して、[完全鑑定]を発動する。

 これだけだと鑑定結果が重なって、どれが何なのか? 何て書いてあるのかすらわからない。

 そこで[メーティス]に大量の鑑定結果を処理してもらい、俺の手元にある6種類の花だけを表示してもらう。

 すると大体どこにあるのかわかるという、計画通りの結果となった。


 場所さえわかれば、後は早い。

 その場所に移動して摘む。

 それを見つけた分全てにやれば終わりだ。


 ものの1分もしないうちに、集めることができた。

 俺は新たなスキルの使い方がわかったことと、花を集めるのがすぐ終ったことで、笑顔がこぼれる。

 集めることができたのは、ルブルム・ガラノスが6本ずつ。

 パールスが5本、ベルデマールが4本、フクシア・ベルデが2本ずつという結果だった。


 俺の目に見えた範囲だけだから、俺が見ていなかった場所を探せば他にもあるだろう。

 けれどとりあえず、集めた花をあの少女に渡しに行こう。

 俺はそう考えて少女の方に向かって歩く。


「おーーい、ちびっ子」

「誰がちびっ子ですか! アーシャにはアーシャって名前がちゃんとあるです!」


 俺は親しみを込めて呼んだつもりだったんだが、かなり気に食わなかったらしい。

 しゃがんで花を探していたのに、凄い形相で俺のことを睨んできた。


「それは悪かった。じゃあこれで機嫌を直してくれ、アーシャ」


 俺は両手で抱えるように持っている花を、少しだけ上に上げて強調する。


「凄いです! もうそんなに集めたですか!?」


 しゃがんでいたアーシャは、勢いよく立ち上がりながらそう言ってきた。 


「ああ、これで機嫌を直してくれるか?」

「もちろんです! これは凄いです!」


 アーシャは満面の笑みを浮かべながら、軽くジャンプしている。

 俺もそんなアーシャを見て、笑みがこぼれる。


 けれどその時、俺は視界の端に、アーシャに向かって飛んできているがあることに気づいた。

 気づいた時、俺は考えるより先に体が動いていた。


 両手で抱えるように持っていた花は、俺の足元に落ちている。

 アーシャに向かって飛んできていた短剣は、俺が短剣の柄を右手で掴んで、アーシャに当たるのを阻止することに成功した。

 アーシャは何が起きたのかわからず、首をかしげながら俺を見ている。

 俺は短剣が飛んできた森の方を睨みつける。


 俺の目線の先に、人型の何かが居るのは、[魔力感知]でわかっている。

 その人型の何かも、場所がばれているのがわかったらしく、観念こちらに向かって歩きだした。


 そしてその人型の何かが森から出てきた姿を見て、俺は驚いてしまう。

 何故なら、どう見てもだからだ。

 全身濃紺の服で、顔も目元以外濃紺の布のようなもので覆っている。


 アーシャもその人物が森から出てきて、大体状況を理解したらしく、俺の後ろに隠れるように移動してきた。


「何者だお前」

「いやあ、まさか止められるとは思ってもいませんでしたよ。さすがはです」


 コイツは今、何て言った!?

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