オエステア大陸編

第22話 別れと出会い

「本当に申し訳ありません、主」


 セバスは頭を下げたまま、本当に申し訳なさそうな声音で言ってきた。


「いいって、今生の別れじゃあるまいし。それに……念話もあるんだよ? 会おうと思えばいつでも会えるよ」


 俺は今、嘘をついた。

 いや、嘘ではない。

 真実ではあるけれど、俺が本当に言おうとしたことではない。

 本当は、『それに一人は慣れてるから大丈夫だよ』、そう言おうとした。

 けれど、寸前で思いとどまった。

 その言葉は解釈の仕方によって、今この場では相応しくないからだ。


 確かに俺は一人になれている。

 3年もの間、一人ボッチだったら誰でも慣れてくるだろう。

 でも今は違う。

 今の俺には、セバス達が居る。

 そして、セバス達は俺の為に強くなろうとしてくれている。

 なら俺は、セバス達が何の心配もなく、強くなれるよう後押ししてやらなくてはならない。


「それもそう、ですね。……では主、そろそろ私達は行きます」

「ガゥゥ」


 セバスは頭を上げながらそう言った。

 その時のセバスの顔は、いつもの微笑んでいる表情なのに、どこか寂しそうに見えた。

 

「ああ」


 俺がそう応えると、セバス達はゆっくりとした足取りで部屋を出て行った。

 俺は一人になった部屋を見渡す。

 

「一人で使うには広すぎるな」 


 暫しの別れ。

 次ぎ会う時は、互いに今よりも強くなっているだろう。

 もしかしたら、俺よりも強くなって帰ってくるかもしれない。

 その時俺は、どんな表情でセバス達を迎えるのだろう。


 俺は自問自答をしながら、ベッドに横になった。



ーーー


 俺はいつもの癖なのか、朝日が昇る前に目が覚めた。

 どうやら昨日は、ベッドで横になりながら考え事をしていてそのまま寝てしまったようだ。


 俺はこの世界に来てから、早寝早起きが習慣づいた。

 元の世界では、遅寝遅起きが当たり前だった事を考えると見違える変化だ。

 まあ、[メーティス]との訓練に人を巻き込まない為に朝早くが一番いいとか。その訓練で、疲れて早く寝てしまうとか、いろいろ理由はある。

 けれど一番の理由は……娯楽が無いことだ。


 この世界に、テレビなんてあるわけが無い。

 何もしなかったら、すぐ眠たくなってくる。

 起きていても、何かしなくちゃいけない事があるわけでもない。

 なら寝るしかないだろ。

 その結果、早寝早起き。

 変に起きようとしない限り、誰でも習慣づくだろう。

 やることが無いんだもん。


 俺の健康的な習慣はさておき、今日も今日とて訓練に向かいますか。



ーーー


 俺はいつも訓練に使っている平原に来た。

 平原にクレータなどは無い。

 何故なら、訓練が終ってから毎回元通りに直しているからだ。

 騒ぎになって、訓練ができなくなっては困るからね。


 さて、まずは何時も通り1体人形を作って。


 [メーティス]、いける?


<大丈夫です>


 じゃあ、始めようか。


 俺は腰に差している刀を1本、人形に向かって投げた。

 人形が刀をキャッチしたのを確認してから、俺は腰に差してある刀を抜いて人形に斬りかかる。

 人形は、刀の鞘の部分を左手で流れるような動作で受け止めながら、右手で刀の柄を持ち、流れのままに刀を抜きながら俺の刀を受け止めた。

 丁度、十字のような形での鍔迫り合い。

 けれど人形は右手だけ。

 それに対して俺は両手。

 どちらが押し勝つかは、明白。


 だけど俺は一度人形から距離をとる。

 そして先程まで俺が居た場所を見れば、丁度俺の右横腹辺りだった場所に、バチバチと音を立てながら青白く光っている、刀の鞘があった。

 もしあの刀の鞘が当たっていたら、一瞬だけ力が入らなくなって、そのまま戦闘不能に持っていかれていただろう。 

 

 人形は攻撃がよけられたのを確認して、左手に持っていた鞘を腰につけた。

 人形は刀を両手で持ち、それに呼応するように刀がバチバチと音を立て、青白く光りだした。


 あれは俺が最初にスライムを倒した時に使った、雷バージョンだ。

 そんなものを刀で受け止めたらどうなる?

 答えは簡単。

 ……戦闘不能コースですね。


 俺はすかさず刀を氷で覆う。

 さらに、[氷装]を発動して自身の体を氷で覆う。

 氷の厚さは選択可能なので、できるだけ戦闘の邪魔にならない程度にしておく。

 邪魔には絶対になるけど、こうしておかないと一瞬で戦闘不能になってしまう。


 スキルの発動が終るのとほぼ同時に、首目掛けて右から斬撃が飛んできた。

 俺はこのままでは刀で受け止めるにも、攻撃をよけるにも間に合わないと判断して、自身の両肩にたいして、後ろ下に強く押す風を当てた。

 それにより俺の上半身は勢い良く後ろに倒れ、首元に飛んできていた斬撃をかわすことができた。

 さらにそこから、バク転の要領で人形と距離をとる。


 俺は着地と同時に、前方に対して[土魔法]で5メートルほどの壁を作った。

 すると、壁に対して10個ほどのファイアーボールが当たった。

 ファイアーボールが当たった部分は、少しだけ色が変わっているものの、ほぼ無傷といっていいものだ。


 俺はその壁を無数の土の塊に変えて、人形の方へ[風魔法]で加速させ、飛ばした。

 人形は姿勢を低くして、一気に加速して俺との距離をつめて、俺の攻撃をかわしてきた。

 おそらく[脚力強化]を使ったのだろう。


 人形は距離をつめた勢いそのままに、下から上に斬りつけてきた。

 俺も[脚力強化]を使って、バックステップでその攻撃をかわす。

 

 最近ではできるだけ逃げに徹することで、ある程度実戦訓練になり始めてきた。

 最初の頃なんて、ただ俺がボコられるだけのものだったから、見違える変化だ。


 バックステップで距離をとった俺が、氷の剣を作って人形に向かって飛ばそうとした時、俺達に接近してきているがあるのを感じとった。

 最近ようやく[魔力感知]で、ある程度そのものが何なのか、できるようになってきた。

 その結果、俺はただちに今の訓練の影響でできた穴などを直していく。


 直し終わってから数秒後に、接近していたが目視できた。


「子供?」


 人間だった時の為に地形を元通りにしておいて正解だった。

 その存在が人型の生き物であることはわかっていた。

 けれど人間か、人型の魔物なのかは判別できなかったのだ。

 これはレベルが上がれば、より正確にできるようになってくるので、仕方の無いことだ。


 そして俺に近づいてきている存在は、明らかに子供だ。

 身長は130cm程度だろうか? 髪の色は茶色、手にはカゴバックのようなものをさげている。

 違うとは思うが、魔物だった場合困るのでとりあえず鑑定してみる。




名前 アーシャ・バーネット

性別 女


Lv 8

HP 73/73

MP 63/63

攻撃力 79

防御力 69

敏捷性 74

魔力 64

運 10


▼スキル

 [格闘術 Lv1][土魔法 Lv2][回復魔法 Lv3]


▼固有スキル

 [咆哮]



 魔物だった場合種族が表示される。

 種族が表示されないってことは、人間ってことでいいのかな?

 でも[咆哮]を持ってる人間って居るのか?

 わからん。


「あのですね……」


 考えることに集中していて彼女? が声をかけてくるまで、俺の目の前に来ていることに気づかなかった。

 近くで見ても、人間にしか見えない。

 とりあえず話だけしてみるか。


「どうかした?」

「実はですね、お花を摘んでいたら大きな音が聞こえたので来てみたです」


 確かに彼女の持っているカゴバックの中には、色とりどりの花が入っている。

 けれど、俺は近くにの反応が無いのを確認してから訓練を始めた。

 ということは、魔力を感知できる範囲の外から、音だけを聞いてここまで来たってことだ。

 この子の聴力が異常なのか、俺の訓練の音がバカでかかったのかはわからないけどな。

 兎も角何故、こんな朝早くから小さな女の子が一人で行動しているのか?

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