第19話 Sランク冒険者
コンコンコン
「開いているぞ」
俺はその声で扉を開ける。
「やっと来たか。待ってたぞ、ヨウ」
「すみません」
ヘルゲンとの約束から7日後。
俺はギルマスであるヘルゲンの部屋に来ていた。
部屋の中にはヘルゲンとギルドの職員さん、後知らない人が3人居る。
おそらくこの3人がSランク冒険者なんだろう。
「まあいい。とりあえず紹介しておく。右側の金髪で背が高い男がケネスで、その隣の茶髪でローブを着ている女がセリア。最後の左の背が低くて青髪の少年がエルノだ」
「僕は少年じゃない! これでも21歳だ! 新人に間違った情報を教えるのはやめてくれ」
失礼ながらその言葉に俺は驚いてしまった。
エルノと呼ばれる人は小学生ぐらいしか身長が無いのだ。
だけど今回は顔に出していない。
前回ヘルゲンに鎌をかけられてから顔に出ないように意識しているからな。
失敗から俺は学べる男なのだ。
「悪い悪いエルノ、ついな」
「ついじゃない! ホントにもう。で、その子がそうなのか?」
「ああ。今回S+の昇格戦を受けるヨウだ」
「ふ~ん。ヨウ君、やめるなら今しかないよ? 僕達はSランクの冒険者だ。君はまだAランクの冒険者なんだ、今回の戦いでいい勝負ができればSランクに上がることはできる。けれど僕達は手加減なんてしないよ。もし手加減して君が勝ってしまったら、僕達ですらなっていないS+ランクの冒険者に君がなってしまうからね。悪いけどそれだけは阻止させてもらう。だから君に怪我をさせないように戦うなんて甘いこと言ってられないんだよ」
「大丈夫です。それも承知の上で来てますので」
「……わかった。じゃあ闘技場に行こうか」
「はい」
ーーー
俺は闘技場の中央でSランクの3人と向かい合っている。
間にはヘルゲンが立って俺達を交互に見ている。
セバス達は用意されていた観客席で俺のことを見守ってくれている。
ここまで来る時に3人のステータスを見るか迷ったが見ないことにした。
ここで見てしまうとスキルからある程度対策ができてしまう。
相手がどんなことをしてくるからわからない方が訓練になるからやめておいた。
闘技場の観客席は満席だ。
俺が最初に模擬戦をやった時も人は結構居たが満席ではなかった。
だけど今回は満席。
それほどSランク冒険者の戦いが気になるのだろう。
もしくは俺の……魔法剣士としての戦い方が気になるのかもしれない。
俺の戦い方は見ても対策はできないから別に良い。
手の内を知られるのは痛いがこれは仕方ない。
俺のロマンの為だ!
「ルールは何でもありだ。ただし相手を殺すことは禁止する。勝利条件は相手が戦闘不能になるか降参することとする。質問は無いか?」
ヘルゲンは俺達が頷いているのを確認すると銅貨を1枚取り出した。
「今からこの銅貨を投げる。試合開始の合図はこの銅貨が地面に落ちたらだ。それじゃあ行くぞ!」
ヘルゲンはそう言って銅貨をいきよいよく上に投げこの場から離れて行った。
俺は2本の刀を抜き構える。
ケネスは1メートル以上はあるだろう槍を、セリアは先端に紅い手のひらサイズの玉がついた50センチメートルほどの杖を、エルノは右手に剣、左手に丸い盾を、それぞれ構えている。
「ヨウ君は二刀流なんだ。魔法剣士もそうだけど二刀流もかなり珍しいよ」
「そうなんですか?」
「ああ、僕が二刀流を見たのは君を含めてまだ2人目だからね」
「そんなに少ないんですか?」
「うん。……じゃあ手加減無しで行くよ!」
「よろしくお願いします」
その後直ぐに銅貨は地面に落ちた。
まず動いたのはエルノとケネスだ。
エルノは俺の左肩を切り裂くように剣を振り、ケネスは右足を突き刺すように攻撃を仕掛ける。
俺はエルノの攻撃を左手の刀で受け止め、ケネスの攻撃は槍の先端に右手の刀を当てて軌道を逸らした。
ケネスの攻撃がいなされたのを確認したエルノは俺への攻撃をやめて距離をとる。
その瞬間、俺に向かってファイアーボールが飛んでくる。
飛んでくるファイアーボールを、少し右に移動してかわす。
そこに後ろからケネスが左足に突きを放ってくる。
仕方なく上にジャンプしてケネスの突きをかわした。
しかしジャンプした場所に[風魔法]で作られた刃が飛んできた。
その刃を刀で受け止めるが、空中のため踏ん張ることができずにそのまま飛ばされていく。
俺は刀を傾けて風の刃の軌道を逸らすことによってどうにか地面に着地した。
だが着地した俺を炎の柱が覆った。
炎の竜巻を発生させたのはセリアだ。
今回セリアは火と風の複合魔法を使った。
複合魔法は練習すれば使えるようになる。
元々存在する魔法を掛け合わせて一つの魔法にする。
それが複合魔法だ。
[無詠唱]のように無から新たな魔法を生み出すことはできない。
俺は固有スキルの[氷装]を発動し、炎の柱の中に囚われながら考える。
正直この3人はかなり強い、1人1人の実力も同じぐらいだろうから、連携も異常なほど良い。
それこそセバスやルーチェと良い勝負するだろう。
いや、経験の差でセバス達が負けると思う。
それほどに強い。
今の一連の動きもセバスとルーチェがやっと目で追えるってぐらいの速さだったと思うし。
やっぱり俺より強い人は居るんだろう。
現にセバス達より強い人達は目の前に居る。
元の世界ではどれだけ正しいことをしようと、力が無ければ意味が無かった。
そして俺は力が無かった。
思い出したくも無いような事だっていろいろあった。
だから俺を知ってる人の居ない高校に進学した。
もしこの世界も強者が正義であり、弱者が悪だと言うのなら、俺は強者であり続ける。
何者にも縛られず、自分の思いを貫くために。
そしてこんな俺のことを慕ってくれる人たちを守るために。
だからこそ俺はどんな戦いであろうと負けるわけにはいかない。
こんなところで苦戦してるようじゃ、強者にはなりえないだろう。
連携によって戦いづらいなら、圧倒的力で乗り越えればいいだけのことだ。
俺は考えをまとめると行動に移した。
ボウウウウウウ
音と共に凄まじい風が闘技場全体に吹き渡る。
風がおさまると、観客達は驚愕した。
先程まであった炎の柱がなくなっていた事にたいしてではない。
Sランク冒険者3人が地面に倒れている事にたいしてである。
模擬戦の戦いもエルノ達が押しているように見えていた。
けれども最後に立っていたのは耀だった。
この結果は耀の仲間を除いて、誰も予想していなかった。
それはこの戦いを準備したギルドマスターのヘルゲンもである。
耀は強いがまだ覚醒していないと見ていたヘルゲンは、混乱で正確に状況を理解することができていないようだ。
俺が3人を気絶させた方法はいたって簡単である。
まず自分の周りにあった炎を[風魔法]で強引に消し去る。
そして1人1人の懐に入って刀の柄で殴り気絶させた。
俺からすればそれだけのこと。
だが他の人間からすると、普通の[風魔法]では複合魔法を打ち消すことは不可能である。
これができるのは異常なまでのステータスを持った俺だけである。
何故最初からステータスにものいわせた戦い方をしなかったかというと、気になってしまったのだ。
俺自身が[メーティス]の訓練でどれだけ成長しているか。
結果まだまだであることがわかった。
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