第18話 約束

「こちらが冒険者カードでございます」


 あの後闘技場でルーチェ、静香、マリーの順に模擬戦を行った。

 結果はもちろんルーチェ達の圧勝。

 相手が構えた瞬間に攻撃して一撃で終る。

 とてもスピーディーな模擬戦だった。

 やられた相手はトラウマものだろうけど。


 それはさておき、俺は今貰った冒険者カードを見る。

 場所は闘技場ではなく最初の受付の場所だ。


 冒険者カードは手のひらにおさまるぐらいの大きさで、左上に大きくAと書かれている。

 後書かれているのは登録のときに書いた名前や戦闘スタイル、スキルだけだ。


「左上に書かれているのが現在の冒険者ランクになります」


 やっぱりそうか。

 ってことはAランクスタート!

 いきなりAってかなり短縮できたんじゃない!

 正直Cとかでも良かったけど、この際何でも良いや。


 で他の皆は何ランクなんだろ?

 チラッと皆のを見てみる。

 あれ? 俺だけAランク?

 戦いてきには俺とセバス以外が圧倒的だったから、俺達より上だと思ったんだけど、そんなことは無いらしい。

 セバス達は皆Bランクのようだ。

 何の違いでランクが違うんだろう?


「冒険者カードを失くされますと再発行するのにお金がかかりますのでご注意ください。因みにAランク以上の方は無料で再発行することができますので」

「わかりました」

「では最後に、ギルドマスターからお話があるそうなので2階の奥の部屋に行っていただけますか?」


 ギルマスから話?

 嫌な予感がするのは気のせいだろうか?

 でもどんな人なのか気になるし行くんだけどね。


 2階に上がって歩いていると、奥のほうに両開きの扉が見えてきた。

 おそらくあれがギルマスの部屋なんだろう。

 2階に上がってきてから両開きの扉は無かったから。


コンコンコン


「開いているから入ってこい」


 俺が扉に近づいて3回ノックしてみると中からそんな返事が返ってきた。

 うん? どっかで聞いた事のある声のような気がするが気のせいだよな?

 そう思いながら扉を開けた。


「……あ」

「よっ、さっきぶりだな」

「ギルマスだったんですか……ヘルゲンさん」


 部屋の中にはソファーでヘルゲンさんが寛いでいた。


「ヘルゲンでいい。それよりも座ったらどうだ、ゆっくり話したいしな」

「わかりました。ではお言葉に甘えて」


 俺はヘルゲンが座って居るソファーの机を挟んだ向かいにあるソファーに座った。

 セバス達は俺が座ったソファーの後ろに立っている。

 ホワイトだけ俺の足元まで来て丸くなっている。


 最近思うんだけどホワイトってホントに静香と契約したの?

 俺の方が懐かれてるくない?

 気のせいだろうか?


「ふん、やはりお前が主人で他の奴等が従者って感じか」

「否定はしませんね、皆にはかなりお世話になっていますから。ですが従者というより仲間と思っています」

「なるほど、あくまで対等な存在であると……やっぱり面白いなお前」

「それはどうも。それで話というのは?」

「そうだったな、そろそろ本題に入るか」


 ヘルゲンはそう言って今まで楽しそうに笑っていた顔を真剣な顔に変えた。


「お前…………最近召還されたって言うだろ」


 それは不意打ちにもほどがあった。

 俺は驚きを隠すことができず顔に出てしまったのがわかった。

 それを見ていたヘルゲンは不敵な笑みを浮かべている。


「やっぱりな」

「……何故わかったんですか?」

「いや、確信を持てたのは今だ」

「なるほど、鎌をかけられたということですか」

「悪いがそう言うことだ」

「では俺がかも知れないと思ったのは何故ですか?」

「最初は少し興味があっただけだ。魔法剣士なんて戦闘スタイルの奴は珍しいからな」

「珍しい? 何故ですか、普通に強いと思うんですけど?」

「魔法剣士ってのは簡単に言うと一人で完成された戦い方だ。本来魔法使いは、誰かに守ってもらわないと戦うことができない。魔法を発動する為の呪文を唱えているときは隙だらけだからな。その隙を自分自身で補い、近距離、遠距離どちらでも対処できる。お前の言う通り最強だ」

「ですよね、そんなに強いのに珍しい意味がわかりません」

「こんなに強いんだぞ? 並大抵の努力で魔法剣士っていう戦闘スタイルを体得できると思うのか? そりゃあほとんどの奴等が一度は目指したことがあるだろうよ。だがな、難しすぎるんだよ。命のやり取りをしている戦いで魔法を発動する隙を自分で補う。どうやって補うって言うんだ? 剣術でか? それなら剣士で十分だ。つまりそういうことだ」

「……そうですね。そうですよね」


 確かにそうだ。

 剣術で魔法を使えるほどの隙が作れるのなら、その隙に相手を切る方が有効かも知れない。

 逆に隙を作ることができないのなら仲間に守ってもらって魔法に集中する方が良いだろう。

 つまりは仲間が居るなら危険を冒してまで魔法剣士をやる必要性を感じないってことか。


 でも俺は普通じゃないんだよな。

 [無詠唱]があるから隙を作らずに一瞬で魔法を発動できる。

 要は魔法使いと剣士両方のいいところだけを使うことができるって訳だ。

 俺はこの世界の考え方をぶっ壊すスキルを多く持っている気がする。


「そういうこった。で、どんな風に補っているのか気になって戦ってみたらあのざまだ。魔法どころか剣術すら使わせることができずに負けた」

「その節はすみません」

「いやいい、気にするな。俺が弱かっただけだからな。まあそれだけなら強い新入りで終ってたよ。怪しいと思ったのはお前の後ろに居るだよ。この国じゃ有名人だからな。知らない奴は居ないさ」

「マリーでしたか。すっかり忘れていましたよ」

「耀様、申し訳ございません」


 マリーが泣きそうな顔で俺に謝ってくる。

 深く頭を下げて本当に申し訳なさそうな感じだ。


「いや気にしてないから大丈夫だよ。それにマリーが悪いわけじゃないし、俺が勇者であることは特に隠してないから気にしないで」


 俺がそう言うとマリーは渋々頭を上げてくれた。

 正直できるだけ俺が勇者であることは隠しておきたい。

 勇者なんだから無償で人助けをしてくれると思われたくないからだ。

 状況にもよるが、命をかけるのに称賛しかもらえないってのは意味がわからないからな。

 俺は正義の味方じゃないからね。

 

「本当に姫さんも仲間だったのか!?」

「ええ、そうですけど?」

「俺はてっきり姫さんの護衛だと思っていたぞ!」

「いやいやいや、最初に俺が主人で他が従者みたいなこといってませんでしたか?」

「確かに言ったが、冗談のつもりだったんだ」

「はあ、まあ良いですよ。正直マリーはもう俺達の仲間なんで、守るのは当然ですから護衛と言っても間違いは無いかもしれませんから」

「とんでもない奴だな、お前! 一国の姫なんだから他国から狙われるかもしれないんだぞ? それを仲間ってだけで守るってか?」

「仲間を守るのにそれ以上の理由っているんですか?」

「フフフフフ……ガハハハハハハハハ、お前本当に面白い奴だな! 俺はお前のことがさらに気に入ったぞヨウ!」


 ヘルゲンは頭を抱えて笑いながらそんなことを言ってきた。


「それはどうも」

「お前何か目的があって冒険者ギルドに登録したんだろ? 俺のできる範囲で叶えてやるよ!」

「それは助かります! 実はS+ランクになりたいんです!」

「S+か……S+になる為には、昇格戦でSランク冒険者を3人相手して勝つことが条件になるんだ。Sランク冒険者を3人も集めるとなると少し時間がかかるが大丈夫か?」

「その辺は大丈夫です」

「わかった、準備しよう。ただ俺がAランクなんだが、SランクはAランクと比べ物にならないぐらい強いから、勝てるかは保証できないぞ?」

「もちろんわかってますよ」

「ならいい、7日後また来い。昇格戦の準備をしといてやるから」

「ありがとうございます!」


 7日後が楽しみだ。

 これでS+ランクになれる。

 それに強い奴と戦えるってのは自分の実力を測ることもできるから、大歓迎だ!

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