第17話 煩悩
『おおおおぉぉぉぉ』
「何だあの新人!」
「え! アイツ新人だったの!?」
「新人の動きが見えなかったなんて……」
「言うな。全員見えてなくて気にしてるんだ」
観客席がまた騒がしい。
それにしても簡単に決まったな。
[メーティス]にやられたのを見よう見まねでやってみたんだけど。
俺もやられた時は避けられなかったな。
当たった! と思って油断したら、投げられてるって感じだったな。
俺は今投げ飛ばしたヘルゲンを見ながらそんなことを思っていた。
俺に投げられたヘルゲンの周りにはギルドの職員が3人集まってきている。
その3人はヘンゲルの肩を揺すったり声をかけても反応が無いのを確認すると、2人がかりで持ち上げて闘技場から出て行った。
「試験は以上です。お疲れ様でした。今の試験内容で適性と思われるランクのギルドカードを発行いたしますのでついて来て頂けますか?」
声がしたので振り返ってみると、ここまで案内してくれた受付の女性が立っていた。
「すみません。仲間の戦いを見たいのでそれが終ってからでもいいですか?」
「構いませんよ。やっぱりお仲間の戦いは気になりますからね」
「ありがとうございます」
うん、確実に勝つだろうけどやっぱり気になるんだよな。
俺は受付の女性と一緒に観客席の仲間が居るところまで行く。
「お疲れ様です、主(ご主人様)(耀君)(耀様)」
「ガウ!」
「ありがと、次は誰が行くか決めた?」
セバス達は、セバス、ルーチェ、静香、マリーの順に座っていた。
俺はセバスの右隣に座って、俺の隣に受付の女性が座った。
その時ルーチェ達から「あぁ」と聞こえたような気がしたが気のせいだろう。
ホワイトは俺が来るまで静香の足元に丸くなっていたが、俺が座ると俺の足元まで来て丸くなった。
何てカワイイ奴なんだ!
「はい、私が行きます。主」
「了解、心配してないけで頑張ってきてセバス」
「かしこまりました」
セバスはそう言うと俺に会釈をしてから闘技場の中央に向かって行った。
セバスが居なくなったことによって俺の隣は空席になったのだが、一瞬で埋まった。
ルーチェがセバスが立ったとほぼ同時に席をつめて来たのだ。
俺も健全な男子高校生だ。
女性の隣に座って何も感じない訳ではない。
だからわざとセバスの隣に座ったのだが……意味が無かった。
まあ受付の女性が隣に座ってきた時点で計画は意味をなしていなかったが。
それよりもこの町につくまでの間も思っていたが、ルーチェ達はやたら距離が近い。
このように隣に座ったとしたら、体が当たるか当たらないかぐらいまで近づいてくる。
ルーチェ達3人は俗に言われる、美少女と呼ばれる子達なのだからもう少し自覚を持って欲しい。
そんなことをされていたら好きになってしまう。
自分で言うのもなんだが、俺はかなり単純な男なんだ。
年齢=彼女いない歴な男だし。
勘違いとわかっていても好きになってしまうんだ。
だからホントにやめて欲しい。
告白して断られてみろ。
一緒に旅してるときどれだけ空気が悪くなることか。
俺は絶対に耐えられない自信があるね!
だから好きになってはダメなんだ!
お願いだからもう少し離れて!
ダメだダメだ、こんな事を考えるからいけないんだ。
一旦落ち着いて深呼吸だ。
「スー、ハー。スー、ハー」
よっし、落ち着いた。
とりあえず無心でセバスの戦いに集中しよう。
たとえ左腕にやわらかい感触が当たろうと何も考えない!
そう空気だ! 俺の左腕に空気が当たっているだけだ!
だから普通のこと普通のこと。
やっとセバスの相手が入ってきた!
何してたんだよ!
もっと急げよ!
入ってきた人物は腰に剣を差している。
長剣って言うほど長くは無い、が短くも無い。
大体1メートルぐらいだろうか?
その男はセバスの前まで歩いていき会釈をした。
セバスも同じように会釈をしている。
二人は少しだけ何か話しているみたいだけど、ここからでは聞き取れない。
そして男が腰に差していた剣を両手で構える。
セバスはリラックスした自然体で特に構えなども取っていない。
それがなめられていると見えたのかわからないが、剣を持っている男はセバスを物凄く睨んでいる。
セバスはそれを意に介さず微笑んでいるけどな。
だけどその反応に腹が立ったように、男はいきなりセバスに切りかかった。
セバスは表情を変えずに最小限の動きでその攻撃をかわした。
案の定と言うべきかその行動は男をさらに怒らせるには十分だった。
ってあれ?
何かこれとよく似た戦いを見たことがあるような気がする。
……思い出した!
俺が城で行った模擬戦だ!
状況って言うか、空気って言うか、兎に角似ている。
「真面目に戦え!!!!」
俺がそんなことを考えていたら剣を持っている男が急に叫んだ。
何? あの人情緒不安定なんですか?
まあ冗談はさておき、真面目に戦ったら一撃で勝負はついてしまう。
だからセバスも攻撃をかわすのに徹していたのだろうし。
一撃で終らせることはメリットがある反面デメリットもある。
それは経験を積むことができないということだ。
自分と同等、あるいは自分より強い相手と戦う時に戦闘経験は生きてくる。
だが俺達は強すぎるが為に、その戦闘経験を積むことができない。
ならどうするか?
盗めばいい。
戦いの中で相手が培ってきた戦闘経験による戦い方を目で見て吸収し、自分なりに使いやすいよう昇華すればいい。
俺も同じことを考えていたからな。
でも今は[メーティス]が居るから必要なくなった。
そこら辺にいる奴ら100人と戦うより、[メーティス]と1回戦う方が学べることは多いからな。
セバスは渋々といった感じて右手を握り、拳を作って男の居る方に突きを放った。
ボウゥゥゥゥゥ
ほら言わんこっちゃ無い。
セバスの拳は男に当たっては居ない。
けれどセバスの突きによる風圧で男は壁まで飛ばされていた。
セバスは男を少しの間見て、動かないのを確認したら残念そうに俺達の居る方に歩いてきた。
「お疲れ」
「ありがとうございます、主」
「それにしても残念だったね」
「そうですね、もう少し見たかったのですが……」
「これは試験なんだからアイツより強い奴にはまた会えるよ。その時決闘するか教えを乞うかはわからないけどね」
「確かに主の言う通りですね。その時が来るのを楽しみに待っていることにいたします」
「それがいいね。それでセバスの次は誰が行くの?」
「私が行ってきます。ご主人様!」
「ルーチェか。ルーチェも心配してないけど頑張ってきて」
「はい!」
ルーチェはそう言うと嬉しそうに笑いながら闘技場の中央に向かって行った。
そしてまたルーチェが立ったとほぼ同時に、今度は静香が俺の隣につめてきた。
俺そろそろ悟り開けたりしないかな?
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