第16話 冒険者登録

「また負けた」


 ……勝てない。

 あれから20戦近くやってるのに勝てないどころか、手も足も出ないんだけど。

 何で?


<それは戦い方がわかりやすいからです>


 わかりやすい? ちょっと意味がわからない。

 いや、意味はわかるな、言いたいこともわかる。

 でもどこら辺がわかりやすいというのだろう?


<動きがぎこちないですしフェイントもわかりやすいですから、簡単に次の動きを読むことができます>


 ……それって簡単に言うと戦い慣れてないってことだよね?


<はい>


 ちょっと待て。

 確かに俺は戦い慣れてない。

 逆に戦い慣れてたらおかしい。

 だって元の世界で戦いとは無縁の生活をしてたんだ、武術すら習ってないのに戦い慣れてるはずが無い。

 まあこの世界に来てから何回か戦ってはいるが…………あれを戦闘と言っていいのだろうか?

 城での模擬戦以外全部一撃だからな。


 でも何で[メーティス]がそんな俺より戦い慣れている?

 [メーティス]は俺が作ったスキルだ。

 なら俺よりも戦ったことが無いはずなのに。


<……戦闘の知識も情報に含まれますので>


 ああなるほど。

 そりゃ勝てないよ。

 でもいい訓練になるからいいけどさ。


 あれ? 何で俺[メーティス]って名前にしたんだっけ?

 あの時は何か絶対に作らないといけない気がしたんだよな?

 何でだったっけ?


 ……まあいいや。

 とりあえず[メーティス]は強い。

 これからも訓練していく予定だし当面の目標は、[メーティス]といい勝負ができるようになることだな。

 自分のスキルに勝てないとか悲しすぎるからな。


「ふぅぅぅぅ、疲れた」


 それにしても20戦はハード過ぎたな。

 ゆっくり宿で休むとしよう。


ーーー


「お帰りなさいませ、主」

「ガウ!」

「ただいま。あれ、他の皆は?」

「はい、何でも買い忘れた物があったようで買い物に行っています」


 前回は急がせちゃったから買い忘れがあったってことかな?

 それだったら悪いことをしたな。


「主の方はどうでしたか?」

「試したいことは成功したし、良かったよ」

「そうでしたか。それは良かったです。お風呂の用意はできていますがいかがなさいます?」

「ありがとう。じゃあお言葉に甘えて入ろうかな」

「かしこまりました」

「ホワイトも一緒に入る?」

「ガウ!」

「よっし! じゃあ入るか。あ、それとセバス」

「ガゥガゥ!」

「何でしょうか?」

「風呂から上がったら冒険者ギルドに行こうと思うんだけど一緒に来る?」

「お供させていただきます」

「わかった」


 ホワイトは尻尾が千切れるんじゃないかってぐらい振って、俺と一緒に風呂に向かった。

 セバスはいつものように少し微笑んでいるが、今はいつもより嬉しそうに見えた。


 この世界の風呂は檜風呂みたいな感じのものが多い。

 それは俺達より前に召喚された勇者が広めたものだからだそうだ。

 これを城で最初に聞いたときは先を越されたと思った。


 だってそうだろ? 俺達の世界のものは何だって金にすることができる。

 この世界には無いものなんだからな。

 それに一々現物を作らなくたって問題ない。

 俺達の世界にはこんなものがありました、と情報を渡してこの世界の技術で再現してもらえばいい。

 後は情報提供料として売り上げの何割かを貰えばいい。

 さらに、勇者が居た世界の物なんて言って売れば飛ぶように売れるだろうしな。


 これも異世界のテンプレだ。

 俺も生産系のスキルを手に入れたらやってやる。

 まだまだ俺達の世界にあってこの世界に無いものは山ほどあるだろうし。

 てかシャンプーもリンスーも無いからな。

 あるの石鹸だけだし。

 まあシャンプーとリンスーの作り方がわからないから別のものにするけど。 


ーーー


「ではこちらの紙に必要事項を書いてください」


 耀達は今、冒険者ギルドに来ている。

 耀が風呂から上がった後、丁度ルーチェ達が帰って来たのでルーチェ達も一緒に来ている。


 俺が冒険者ギルドに来た訳は……もちろん冒険者登録だ!

 俺の目標の一つ、最速で冒険者の最上ランクになるのを果たすためにな。 

 ついでということで、ホワイト以外も冒険者登録するみたいだ。


 渡された紙には


名前

戦闘スタイル

スキル


 と書かれていた。


「このスキルって全部書かないといけないんですか?」

「いえ、最低1つ書いていただければ結構です」

「わかりました」


 とりあえず俺は


名前 ヨウ

戦闘スタイル 魔法剣士

スキル 風魔法


 と書いてギルドの職員さんに渡した。 


「……確認しました。それでは冒険者の適性があるか試験をしますので少々お待ちください」

「試験? 何ですかそれ?」

「? 説明は要らないとのことでしたので、知っていると思っていたのですが?」

「すみません。話を一度だけ聞いたことがあったんですけど、どうやらあまり詳しく聞いてなかったみたいで。良かったら説明してもらってもいいですか?」

「大丈夫ですよ。試験はギルドに所属している冒険者、あるいはギルド職員が行います。内容は模擬戦になっていまして、これは別に勝たなくても大丈夫です。ギルドに入ろうとしている人の実力を見るためですので」

「なるほど。弱すぎるとギルドに入っても役に立たないから入れないと」

「言い方は悪いですがそういうことです。でも、この模擬戦でかなりの実力を見せると、上のランクからスタートすることができます」

「わかりました。試験は模擬戦だけですか?」

「はい。頑張ってくださいね」

「ありがとうございます」


 上のランクからのスタート……

 かなりの実力ってどれぐらい見せればいいだろ!

 Cぐらいからスタートできると嬉しいな!

 昇格戦で戦えるってのは戦闘経験になるからな!

 主に[メーティス]の知識的な意味で。

 楽しみだ!


 そんなことを考えながらセバス達と待つこと3分ほど。

 俺達のところに受付で話していた女の人が歩いてきた。


「準備ができたのでついて来てください」

「わかりました」


ーーー


 俺達はギルドの奥にある闘技場のようなところに連れてこられた。


 こんなのが建物の中にあるって……異世界は広いな。

 何か観客みたいなのが居るのは気のせいかなこれ?


「試験は1人ずつ行いますので順番を決めてください」


 そう言われて皆の方を見てみる。

 すると皆一様に頷いた。


 これって俺が先に行っていいってことだよね?


「まず俺からでお願いします」

「わかりました。では中央まで行って少しお待ちください。他の方はあちらの観客席でお待ちください」


 やっぱり観客席だったんだ。

 既に何人も人が居るんだけど何で?

 新人の強さを見てパーティーに引き抜く為とかかな?

 後は新人潰しの為、とかしか思いつかないんだよな。

 どっちにしたってどこのパーティーにも入るつもりはないし、潰しにきたら返り討ちに出来るだろうし、問題ないんだよな。


『うぉぉぉぉぉぉぉ』


 何だ一体!?

 観客席に居たギャラリー達が一斉に叫びだしたぞ!


 叫んでる奴等の視線を追えばかなり筋肉質でガタイのいい男が俺の方に歩いてきていた。


 アイドルか何かですか? あの人は?

 俺には筋肉にしか見えませんけど!


 その男は俺の目の前まで歩いてくると、丸太のように太い右腕を俺の方に伸ばしてきた。


「よろしくな新入り。これから戦うヘルゲンだ」


 どうやら握手を求めているらしい。

 俺はそれに答えるように握手をする。


「こちらこそよろしくお願いします。俺はヨウって言います」

「それじゃあ始めようか?」

「はい」


 俺がそう言うとヘルゲンはバックステップで俺から距離を取る。


「俺は肉体戦が得意だからな。のお前にはあの距離じゃ不利だろう?」

「お気遣いありがとうございます。ですが今は諸事情で刀が使えないので、今回は俺も肉体戦で挑ませていただきます」


 耀が刀を使えないのは[メーティス]との訓練で2本とも刃こぼれが激しい為だ。

 魔法は使えるがおそらく詠唱の隙を与えて貰えないと判断し使わないことにした。

 [無詠唱]なんて強力なスキルを見せる訳にはいかないからである。


「ガハハハハ、面白いなお前! 気に入った。本気で相手してやる!」

「ありがとうございます」


 俺とヘルゲンは距離をとりながら互いに笑っていた。

 観客達は中々始まらない試合に文句を言い出すものがちらほら出てきていた。

 だが一瞬で俺とヘルゲン、互いに真剣な表情をしたかと思うと、ヘルゲンが俺に向かって殴りかかっているところだった。

 俺とヘルゲンの間には5メートルほどの距離があったのだが、ヘルゲンは一瞬でその距離をつめたのだ。

 俺は迫り来る拳を冷静に見て思う。


 この世界に来てから戦った人の中で一番強い。

 だけどやっぱり、[メーティス]と比べると雲泥の差があると。


 目前まで拳が迫った時に俺は動き出した。

 左足をすり足で右足の後ろにもって行き、体の向きを左に向ける。

 そして目前まで迫っていた拳が目の前を通る時に、相手の殴りかかってきていた右腕を両手で掴み、背負い投げの要領で飛ばしてやる。

 ヘルゲンは驚きの顔を浮かべながらも為す術がなく飛ばされていく。

 そのまま壁にぶつかって気を失った。

 俺自身はあまり力を入れていない。

 入れたら入れたで気を失う程度では済んでないからだ。

 これは完璧に決まったカウンターである。

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