第3回
「はい、オッケーです」
我々は1、2ヶ月前までは高校生であったパーソナリティの川野流に彼の右耳に装着されているイヤホンを介してそう伝えると休憩を挟まずに『川野流の停波放送』の収録準備を開始した。
例によって流と今回の放送が想像以上に短くなってしまうなんて予想もしていなかったと収録中にブースの外でそんな言葉を漏らしていた構成作家の真矢咲がマイクを挟んで着席した。
「あの、停波放送の収録ですよね?」
流がついそう聞いてしまうのも仕方が無い。停波放送の収録をしようとしているまさに今、この瞬間に本来ブースにはいることのない二人が流と咲の隣に一人ずつ座っているのだ。
「今回は緊急会議という事でこのような形を取らせて頂きました。ちなみにもう収録は開始されているのでこの会議の内容は第3回の停波放送として更新します」
スタッフの一人でありながら収録中のブース内という神域に足を踏み入れた私は咲の隣に座らせて頂いた。
「咲、無名のパーソナリティにメール頼りのラジオを任せるのはやはり無茶だったようだな」
皆が心の中で思っていたことをあえて言葉として発したのは私が出会うよりもずっと昔から咲との付き合いがある我が『和水ラジオステーション』の社長である和水英明だった。
「薄々感じてはいましたが、今回で嫌という位に気付かされました」
「今回の事はこうなることは最初から分かった上でアドバイスもせずに放送許可を出した私にも非がある。せめてもの詫びに私から一つ提案をさせてもらおう」
社長はそう言うと流の方を向いた。
「川野君、君は一人で喋るよりも誰かと会話をする方が得意なはずだ。事実、3回の放送中1人で収録した回ではスタッフと話をしていたね?」
「はい、仕事とはいえ1人ではやはり限界があるので」
「やはりね。では、アシスタントを加えてみるのはどうだろう? 私の知り合いにラジオ経験のある二人組が居てね。咲は一度会った事があるね?」
「あの二人ですね」
ラジオ経験のある二人組が一体何者を指し示しているのか私やブースの外にいるスタッフには全く分からなかったが、今後の『川野流の中波放送』はその二人組がアシスタントとなる方向で話が進んでいた。
「確かこの後は第4回の収録をする予定だったね?」
「はい」
社長に聞かれて私は咄嗟にそう答えた。実際にこの後は第4回の収録が予定されている。
「流石にすぐに呼び出すことは出来ないが、第5回の収録に間に合うように話をつけておく。一度進んでしまった以上戻ることは許されない。和水ラジオステーションの一番組としてこれからも誰も見たことのない新たな道を開拓して行って欲しい」
社長のその言葉を受けて我々スタッフ一同、構成作家の真矢咲そして、パーソナリティの川野流は『川野流の中波放送』の新たなステージに上る為、新たな一歩を踏み出した。
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