第2回



「二人ともお疲れ様」


 『川野流の中波放送』第2回のラジオ収録終了直後、構成作家の真矢咲はラジオのパーソナリティーである川野流と第2回ゲストとして登場したデスティニー田中のいる収録ブースの中に入った。


「はい、これはウチからの差し入れ」


 咲は前回の停波放送で流に渡したものと同じ百十円の缶コーヒーを二人に差し入れた。


「ありがとうございます」


「いただきます」


 とは言ったものの、デスティニーはコーヒーを口にはせずにこちらが事前に用意していたペットボトルに入ったミネラルウォーターを飲んだ。


「すいません、Dはコーヒーが苦手で」


「コーヒー味のラーメンだったら食べられると思いますけど」


「そうだったの? Dクンに悪いことしたね」


「大丈夫。気にしない、気にしない」


 少なくとも目上の人なのだが、デスティニーはそんな事は全く気にせずタメ口でそう言った。我々も先ほどの収録でよく知ることとなったが、デスティニー田中という男はそのような性格らしい。


「咲さん、本当に気にしないでください。Dはこういう男なので」


「まともなときはまともだぞ」


 ほとんど初対面の我々がパーソナリティーにこのような事を言ってしまうと今後の関係に大きな亀裂が入ってしまいそうだがあえて言わせてもらうと、まともなのは四年に一度くらいではないだろうか?


「まぁ、四年に一度だが」


 やはりそうらしい。


「こんな事を話している内に一分経ちましたよ。スタッフさんに聞いたら停波放送は二分枠らしいですけど」


「じゃあ、次回のラジオの流れを決めようか。次回の収録からはメールが届いているはずだからそれを基に『ふつおた(スタッフ注釈 普通のお便りのこと)』と『ゲストを作り出せ!』で。あと、番組のテーマ曲に関する話題も少しお願いするかも」


 テーマ曲に関してだが、これは上層部の判断により第13回放送つまり番組が二年目に入る放送を目処に作り上げて欲しいとのことだ。我々としてはそこまで続くのか不安があるが、これは次回の放送で番組テーマ曲の歌詞を募集するコーナーを検討している。


「ちなみにテーマ曲って歌手の方にお願いするのでしょうか?」


「そこは流が歌う所だろ」


 我々も当初はその予定で話を進めていたのだが、この後の流の一声で予定を少し変更することになった。


「自分のラジオだからお願いされたらもちろん引き受けるけど、Dも参加してもらうからな」


「いやいや、それはちょっと無理だ」


 現在その方向で企画が進行中です。


「その方向で企画を進めさせてもらうね」


「ちょっと待って」


 デスティニーの叫びは見事に無視されて咲は続けた。


「時間らしいからそれぞれ今日の感想をどうぞ」




「まず、私の方から。テーマ曲を歌う事になった場合、Dと共に皆様に親しまれる歌を歌いたいと思っております。これは中波放送で言った事と重複しますが『川野流の中波放送』へのメッセージや各種コーナーの参加をお待ちしています」


「俺からは、この番組のスタッフ一度に向けて一言。ラーメン二杯じゃ俺の心は動かないぞ!」


「三杯目からは大荒れの海のように心が動くと思います」


 流とデスティニーの掛け合いを楽しんだところで我々は咲に『締めて』と乱雑に書いたフリップを提示した。


「カンペが出たので締めますよ。『川野流の停波放送』お相手は構成作家の真矢咲と」


「パーソナリティーのはずなのに構成作家の咲さんにパーソナリティーの座を取られてしまっている川野流と」


「次回は第12回でお会いしましょう。ゲストのデスティニー田中でした」





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