第4話「最初から悪い人なんていないよ」

 ガイストとセリスは次の町への道を歩いていた。


「セリス、疲れてないかい?」

 ガイストは心配そうに声をかける。

「大丈夫だよ」

 セリスはそう言うが、少々ペースが落ちているのがわかる。


「そうか。もうじき町に着くから、あとひと踏ん張りしような」

「うん、お兄ちゃん」

 

 ガイストはその気になればセリスをおんぶして早く歩く事も出来る。

 だがセリスが自分で歩きたいようだったので、なるべく彼の思うとおりにさせようと思っていた。



 やがて二人は町に着いた。

 その町は何百年も前からの建物があり、長い歴史を感じる町であった。

「さてと、まずは宿を確保するか」

「ねえお兄ちゃん。あれ何?」

「ん? どれだい……お」

 そこには旅の大道芸人一座がいて、見世物をしていた。


「あれは芸をして皆を楽しましてるんだよ」

「そうなんだ~。面白そうだね~」

 セリスの目はキラキラ輝いているようだった。


「ふふ。セリス、ちょっと見ていくか?」

「うん!」

 

 それから二人は大道芸を見て楽しんだ。


 ジャグリングや手品、遠い国を思わせる音楽。


 そして一座の座長が次の演目に移ろうとした時


「おうおうてめえら、誰に断ってここで見世物してんだ、あ?」

 いかにも「俺たちゃチンピラです」という奴らがやって来た。

「え、いやあの」

 座長がしどろもどろになっていると


「兄貴、やっちまいますかい?」

 子分が尋ねる。

「そうだな、よし」



「典型的な奴らだな。さてと」

 ガイストが前に出ようとすると

「ねえ、おじさん達」

「あ、セリス!?」

 セリスがチンピラの兄貴分に近づいて行った。


「あ? なんだこのボウス」

「邪魔しちゃダメだよ。皆楽しみにしてるんだから」

 セリスはちょっと叱るような感じで言った。

「は、何言ってんだおめえ?」

「ねえ、皆で一緒に芸を見ようよ」

 セリスはじっと兄貴分の目を見た。


「う、なんだ? この目を見ていると、何か」

「ねえ?」

 セリスはさらにじっと目を見た。

「……わかったよボウス。見るよ。皆で一緒にな」

 兄貴分はセリスの目線に合わせるように屈み、口元を緩めた。

「あ、兄貴、何でこいつなんかのいう事、え?」

 子分もセリスを見た途端、何故かおとなしくなった。


 そして兄貴分が団長に近づき

「悪かったな。さ、続きをやってくれや」

「は、はい」

 団長はまだ少し怯えながらも、営業スマイルで返事をした。


 そして大道芸が再開された。




「これで全て終了です。皆さんありがとうございました!」

 辺り一面大きな拍手が起こった。


「おい、あんたらの芸なかなかよかったぞ。これからも頑張ってくれや」

 兄貴分が座長に向かって言う。

「あ、ありがとうございます!」

 座長はやや大袈裟に頭を下げた。


 そして兄貴分はセリスの元にやって来た。

「ボウス、ありがとうな」

「ん、なんで?」

 セリスは首を傾げた。

「いや、何か上手く言えねえけどさ、ボウスのお陰で何か悪いもんがとれた気がするんだよ」

「俺もでさあ。その子見てたら、何かここがぽかぽかとしてきやした」

 子分も後に続き、胸に手を当てながら言った。


 だがセリスはよくわからない、とまた首を傾げる。

「まあ、とにかくありがとうな。それじゃあまたな」

 チンピラ達は優しい笑みを浮かべ、セリスの頭を撫でて去っていった。

「うん、またね〜」

 セリスは手を振りながら彼等を見送っていた。


「……セリスって凄いな」

 ガイストは驚きのあまり何も言えずにいたが、やっと口を開けた。


「ん、そう?」

「ああ。あいつらは悪い奴だったんだぞ。それを」

「最初から悪い人なんて一人もいないよ」

 セリスがガイストを見上げて言った。

「え?」

「皆どこかで何か悪いものがついちゃっただけ。本当に悪い人はいないよ」

 ガイストはまた何も言えずにいた。

 

「そうだよね、お兄ちゃん」

「……ああ、そうだな」


 グー

「ねえお兄ちゃん、お腹すいた」

 セリスがお腹を押さえてそう言った。

「そうか。じゃあご飯にするか」

「うん!」


(これも「優者」の力なのか?)

 ガイストはセリスと手をつないで歩きながら思った。




 長身の武闘家のような男が物陰からセリスを見ていた。

「あの子につき従い、守ればいいのか」

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