その後、そして

 セリスとセイラが結婚してしばらくしたある日、ガイストはサキと婚約した。

 彼は猛烈に迫るサキを迷惑がっていたが、だんだんと彼女に心惹かれていき……

 そして逆に彼からプロポーズした。


 その後サキはさっさとガイストの家に移り住み、もう夫婦当然であった。

 セリスも今はセイラと新居に住んでいるが、元いた家はそのままにしてある。


 そこは皆の集合場所、と決めたから。



「ガイスト兄さん、姉さんをよろしくね」

 セリスはその家でガイストと会っていた。

「ああ。だが皆俺をロリコンだと思ってるだろうなあ」

「え、違ったの? じゃあショタコンだね。昔僕をくすぐって襲ったし」

 ガイストは無言で剣を抜いた。


「冗談だって。変態はバンジョウ兄さんだけで充分だよ」


「お前、成長して毒舌になったな」

 そこにはバンジョウもいた。


「え、そうかな?」

 セリスはわからんとばかりに首を傾げた。

「そうだよ。しっかしいいなあ二人共。俺なんか全然縁がねえぜ」

「バンジョウ兄さんは四十過ぎた頃に二回り年下の人と結婚できるよ」


「は、マジ? って事はあと十数年独身か……はあ」

「結婚出来るとわかっただけでもいいじゃないか」

 ガイストが慰めるように言う。

「ま、それもそうか。ところでセリス、それってして知ったのか?」

「うんそうだよ。てか兄さんだって」

「ああ。俺ってこの時代から見て、約三百五十年前の人間なんだよな」


 バンジョウはある時、セリスから話を聞いて自分が別の時代の者だと知った。


「俺って異世界へだけじゃなく未来へ来てたんだよな。てかこの時代と元の時代しか行き来出来ないんだよなあ」

「まあ、どこでも自由自在に行けるのはサキ姉さんだけだよ。僕だって特定の時代にしか行けないし」

「それでも充分凄いのだがな」

 ガイストは顔を引きつらせていた。


「あ、そうだ。僕は兄さんがこの先どうなるか知ってるけど」

「おっと、それ以上は言わなくていいぜ。何でもかんでも知っちまったらつまんねえからな」

 バンジョウはセリスを手で制した。

「……うん」


 セリスは以前過去の異世界でバンジョウの縁者に出会い、彼のその後を聞いていた。

 彼はこの先……できる事なら彼にそれを話し、運命を変えたいとも思った。

 いや、以前彼には内緒でサキに頼んで過去へ飛ぼうとしたのだが、どういう訳か彼女ですらその時代に辿り着けなかった。


「はは、どうやら俺の身に何か悪いことが起こるようだな」

 セリスは無言だったが、それは肯定しているようなものだった。


「だがよう、もしかするとそれを変えてしまうかもしれないぜ」

「……そうだね。もしかしたら」

「ああ。だからそうなるように祈っててくれや」

「うん、わかったよ」

「ありがとよ。優者様」


「あ、そういえばイリアはどうしてるのだろうな?」

 ガイストが話を変えた。


「イリア姉さんなら今頃恋人と異世界を旅しながらイチャイチャしてるよ」

 セリスがやや呆れながら言う。

「そうか、あいつの恋人ってどんな男だろうな」

「俺も興味あるな。あれと付き合えるって、勇者かもしれんな」

 ガイストとバンジョウがそう言った時


「ん? あれ、この気配はもしかして?」


- さすがセリスだね~、話しかける前に気づくなんて -


「だ、誰だ!?」

 ガイストとバンジョウが立ち上がって身構えるが、姿が見えない。


「兄さん達落ち着いて。この声の人は敵じゃないよ」

「え、ではいったい?」

「前に話したよね、僕やイリア姉さんが以前行った異世界の事を」


- セリス、久しぶりだね。それと初めまして、ガイストさんにバンジョウさん -


「え、俺達の事を知っているのか?」


- 知ってるよ~。あ、僕はヒトシっていうの。聞いた事あるかな? -


「あ、ああ。セリスが以前話してくれた。そうか、あなたが」


ー あ、それは置いといて。それより今日はお願いがあってテレパシーを飛ばしたんだよ -


「ん、どうしたの?」


- あのね、僕達の世界が今大ピンチなんだよ。世界中ほとんどの人が石像にされて、僕も封印されちゃったんだ -


「え!?」

「な、何だって!?」

 セリスとガイストが驚いて立ち上がる。


「おい! セリスに聞いた通りなら、その世界って俺が住んでる世界だろ!?」


- そうだよバンジョウさん、あなたから見れば未来の出来事だけど。……残念ながらあなたのご家族も石像になっちゃったよ -


「そ、そうか。今の俺からすればまだ生まれてねえ奴らだが」


「ねえ、ヒトシさんが封印されちゃうなんて、その敵ってとんでもない奴だよね」


- うん、僕にも正体が見えないんだ。セリスはどう? -


「……僕にもわからないよ」


- そうか。だけど君やガイストさん、バンジョウさんなら残った彼等を手助けしてあげられると思ってさ -


「それでテレパシーをか。よしバンジョウ、セリス」

「ああ! 早速行くか!」


「待って。そっちに行けるのはガイスト兄さんだけだよ」


- え、それはどういう事なの? -


「うん。今ちょっと見えたんだけど、その敵は多くの異世界、そして過去現在未来を破壊していってるよ」


- え、ええ!? -


「な、なんだと!?」

「そんな事が出来るって、その敵って何者だよ!?」


「だからわからないよ。でもそれに対抗できる人の一人がガイスト兄さんなのはわかるよ」


「俺が、か? セリスは?」


「僕はここに残ってサキ姉さんと一緒に時空消滅を防ぐよ。ここからなら多くの世界に力を送れるし」


「そ、そうか」


「なあ、何故俺は行っちゃダメなんだよ!? 未来とはいえ俺の世界の事なんだぜ!?」


「バンジョウ兄さんにもしもの事があったら、歴史が狂っちゃうよ」


「ぐ、だが」


「それと万が一ここに敵が攻めてきた時、バンジョウ兄さんがいてくれたら対抗できるしね」


「……ああ、わかったよ」

 バンジョウはセリスの気遣いを察し、ここに留まる事にした。


- じゃあお願いしますね。この世界への目印はつけてあるし、そこからならセリスの力ですぐに着くはずだから -



「ガイスト、俺の世界を頼むぜ」

「ああ、任せとけ」

「兄さん、無事に帰ってきてね……はあっ!」

 セリスが手をかざすと、ガイストの姿が消えた。



「行ったか……なあセリス、さっき言うなつっといてなんだが、俺ってガイストが向かった時代ではもう生きてないのか?」

「……うん。聞いた所では、あの時代の二年前に」

「そうか。よし、ちょいと相談だがこんな事出来ねえか?」


「うん、一回だけならなんとか」

「それで充分だぜ。よし、これで少しは向こうの役に立てるだろな」




「……これが本当の最後の戦いになればいいのだが。いや、必ずそうしてみせる」

 ガイストは紫色の亜空間を飛びながらそう呟いた。



 そしてこの先の事は、別の物語で。

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希望の優しき者 仁志隆生 @ryuseienbu

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