第26話(最終話)「いつまでも変わらずに」

「じゃあなセリス、サキちゃん。また来るからな」

 バンジョウはもうしばらくこの世界に留まって旅をすることにした。

「バンジョウさん、元の世界に帰りたい時は言ってくださいね」

「わかったよ、その時は頼むな」

 バンジョウはエミリーが守護神としての力を封じてしまったのでどうしようかと思ったら、サキが自分なら元の世界まで送れると言ったので安心した。


「バンジョウお兄ちゃん、また来てね」

「ああセリス、またな」

「バンジョウ、また会おう」

 ガイストはバンジョウに向けて手を差し出した。

「ああガイスト、また会おうぜ」

 バンジョウはガイストの手を握ってそう言った。


 バンジョウは一人旅立っていった。

 それからしばらく後、バンジョウは元の世界に戻ったが、その後も何度かこの世界を訪れた。

 セリスとサキの力でこのタカマハラのみにだが、自分の意志で時空を超えて転移できるようになったから。


 バンジョウはその後修行を重ね、「武天流拳法」を完成させた。

 その後一人の少女を弟子にして、そして周りからロリコン野郎と呼ばれながらもその少女と結ばれ、娘が生まれその娘は長じてから一人の男性と結ばれて双子の女の子を産んだ。


 その双子の少女達の事は……それは別の物語で。



「じゃああたしお師匠様のところへ戻ってこの事を報告するわー」

 イリアは皆にそう言った。

「そうか、それでその後はどうするんだ?」

 ガイストが尋ねた。

「あたしも修行の旅に出るよ、また平和を乱す奴が現れないとも限らないしねー」

「できればそうならないよう願いたいな」

「そうだねー」


「イリアお姉ちゃん、また遊びに来てね」

「うん。また来るからねー」

「イリアさん、お気をつけて」

「ありがとサキちゃん、それじゃあね」


 イリアもその後は旅を続けながら修行を重ねた。

 そして

「あー、セイラちゃんもセリスもだめ……と思ったけどよく考えたらガイストってカッコいいじゃん」

 とか言っていたとか。

 

 あと彼女は一時期別世界に行ってたが、その話はいずれまた。



「では私達はセイラがお世話になったマザーのところへ行きますね~」

 エミリーはセイラと一緒にあの町で暮らすことにした。

「お母さ~ん、せめて町に帰ってから力を封じてくれたらよかったのに~」

「ごめんなさいね~気が急いてたわ~」

「(そうは見えんが)では俺があの町まで送って行きましょうか。どうせ帰り道ですから」

「そうですか~、ではお願いしますね~」


「セイラちゃん、ボクまた遊びに行くからね」

「ええ、待ってますよ~。じゃあ」

「うん、またね」


 セイラとエミリーは町に戻った後、町長の図らいで教会の近くにある家に住むことになった。

 そして二人で診療所を開き人々の為に働いた。


「さて、俺は二人を送った後王宮へ戻るよ」

「うん、ガイストお兄ちゃん、いろいろありがとうね」

「それはこっちの台詞だ、ありがとうセリス」

「うん」


「ガイストさんお元気で、また来てくださいね」

「ああ。サキちゃんも元気でね」




 そして王宮に戻ったガイストは旅の事を王に報告した。

「やはりそうだったか。勇者、いや優者セリスとガイスト達で黒い霧を」

「はい王様。全てセリスや皆のおかげですよ」

「そうか。ところでガイストよ、どうせなら皆をここへ連れてきてくれたらよかったのに。世界を救った英雄達に直接礼が言いたかったぞ」

 王はガッカリした表情で言った。

「すみません、そこまで気が回りませんでした」

「いや、いずれ儂が出向くとするか。聖地タカマハラをこの目で見てみたいしな。それに話を聞く限りだと、う~んそうじゃなあ、六年後かな?」

「何がですか?」

 ガイストは首を傾げながら王に尋ねた。

「ん? 何がって……をな」

「……それまでに気が変わってなければいいですけどね」

「まあその時はその時じゃ。さてガイスト。今はせめてお前だけにでも褒美を授けよう」

 そう言って王はガイストの側まで来て

「戦士ガイスト、お前に公爵の位を授ける」

 ガイストを見つめながらそう言った。

「え、えええ!? 俺が公爵って!?」

 この国では公爵位を授けられるというのは家臣にとって最高の栄誉であった。

「なんじゃ不服か?」

「とんでもない! ですが俺そこまでの事してませんよ!」

「何を言うか、お前が最初に優者セリスと出会い守らなければ、世界はどうなっていたか。これでも足りんと思うとるくらいじゃぞ。素直に受けとれい」

「……はい、わかりました」


 そしてガイストは公爵となった。

 だが彼は決してそれに奢ることがなかった。

 それからも人々の為に時には体を張って対処していたので、彼は多くの人から慕われた。




 そして六年後。

「久しぶりだな、ガイスト」

「ああバンジョウ、元気だったか?」

 ガイストとバンジョウは王宮の一室で再会を喜びあっていた。

「ああ。……いよいよ今日か。連絡受けた時はびっくりしたが、まあ考えてみたら当然か」

「うちの王の思いつきでこうなったんだ。まったく」

 ガイストは頭を抱えていた。

「まあ、皆見たいだろうしいいんじゃね?」


「あ、ガイスト、バンジョウ久しぶりー」

 ドアが開いたかと思うとイリアが部屋に入ってきた。

「お、イリアか。なんか大人っぽくなったなお前」

 バンジョウはイリアを見て驚きながら言った。

「えーそうかな? でもガイストやバンジョウだって何か貫禄出てるって感じだよー」

「そうかい、それはありがとうよ」

「ああ、ありがとう」


「ねえ、ガイストはまだ独身?」

 イリアはガイストにそう聞いた。

「いきなり何だ? まあそうだが?」

「彼女とかもいないの?」

「ああ」

「えっと、可愛い少年好きじゃないよね?」


 ガイストは無言で剣を抜いた。

「落ち着け! 普通に否定しろ!」

 バンジョウがガイストを羽交い絞めにして止めた。

「あ、ああすまん。そう言われる事が多くてつい」

 ガイストはどうやら相当そう言われてるようだ。言ってる方は本気でそうは思ってないだろうけど。

「ま、まあいいわ。ねえガイスト。それならあた」


 ガチャ

「皆さんお久しぶりですね」


 ガイスト、バンジョウ、イリアは部屋に入ってきた人物を見て絶句した。


「あの、どうかされましたか?」

「い、いや。随分成長したなあと思って言葉が出てこなかったんだ」

「そうだよ。二年ほど前に会った時より更に、なあ」

「つーかさ、本当に十五歳なの、サキちゃんって?」

「ええ、私はセリスと同じ十五歳ですよ」


 その人物とはサキだった。

 黒い髪は腰まで伸びていて、顔は絶世の美女のように美しく

 背も160くらいまで伸び、見事なプロポーションになっていた。


 ガイストはその美しさに見惚れていた。

 すると

「あ、そうだガイストさん」

「何、サキちゃん?」

「私をガイストさんのお嫁さんにしてください」


 ズコオッ!

 ガイストは盛大にコケた。


「ちょ、いきなり何言うのよ!?」

 イリアは大声で叫んだ。

「いきなりじゃないですよ、前からアピールしてたんですけど、全然気づかないからもうはっきり言おうかと」

 サキはどうやら以前からガイストに気があったようだ。

「ガイストはロリコンじゃないわよ! それにこれからあたしが言おうとしてたのにー!」

「年増は引っ込んでて。ガイストさんは若い方がいいでしょうし」

「誰が年増だー! あたしまだ二十三よー!」

「……引っ込まないなら」

 サキは冷たい気を出した。


「以前ならそれで震えていたけどね、あたしも修行して魔法力UPしてんのよ」

 イリアは両手に電撃の魔法力を集めだした。


「おいガイスト、お前取り合いされてるぞ」

 バンジョウがそう言うが、ガイストは呆然としていた。


 するとドアが開き、そこに誰か入ってきた。

「あの皆様、準備が整ったそうですよ」


「「「「……」」」」

 全員はその人物を見て絶句した。


「あの、どうかしましたか?」

 その人物は首を傾げた。


「なあ、あんた」

 バンジョウがその人物に話しかけた。

「はい、なんですか?」

「何でその格好なんだ?」

「これがアタシの正装なんですけど」

「そうかよ……オエ」


 その人物とはあのタイツデブカマ男だった。

 今日も全身ピチピチタイツで現れた。


「すまん、頼むからせめてその上に何か着てくれ」

 ガイストは目を逸らしながら頼んだ。

「そうですか。ではドレスでも着ましょうか」

「イリア、サキちゃん。こいつ燃やしてくれ」

 バンジョウが二人にそう言った。

「いいよ」

「はい」

 イリアとサキは身構えた。

「二人共やめろ。バンジョウも煽るな」

「あの、早く行かないと始まりますよ」

 タイツデブカマ男がそう言うと

「あ、そうだった。皆行こう」

「そうだな」

「うん、行こうかー」

「はい。……ちょっと寂しいけど喜ばなきゃね」



「セイラ……あの人にも見せたかったわ、うう」

「お母さん……」

 セイラは美しい女性に成長していた。

 そしてその身を包んでいるのは純白のウェディングドレスだった。


「あ、セリス」

「まあ、セリスさん」

 セリスの顔は幼き日の面影が残るものの、背はガイストに追い付くほど伸びていて、体つきも逞しく成長していた。

 そして白いタキシードを着ていた。


「セリスさん。セイラをよろしくお願いしますね」

「はい、お義母さん。セイラ、行こうか」

「ええ」

 セリスはセイラの手を握って一緒に部屋を出た。


 そしてこの日の為に作られた大聖堂に向かった。

 そう、今日は二人の結婚式だった。


 式が始まり、そして

「それでは誓いの口づけを」 

 セリスとセイラはそこで口づけをし、大聖堂内は拍手と歓声に包まれた。


「……うう、このような大役を私などに」

 彼はセリスをタイツデブカマ男に引き渡そうとした老神父。

 セリスたっての希望で、彼が選ばれた。



「ねーちゃんおめでとー!」

 セイラが面倒を見ていた孤児達が手を振り

「おめでとう。セイラ……」

 マザーは幾分か回復していたが、もう高齢なのもあり……この五年後に亡くなった。


 そして大聖堂の前に集まった多くの人達にお披露目をした。

 集まった者の中にはセリス達が旅の途中で出会ったものたちが全て来ていた。

 皆二人の門出を見たくて。


「兄貴。俺、もう感無量でやすよ」

「ああ……あの小僧がいなかったら、俺達はずっと暗い道を歩いてたなあ……」

 あのチンピラ達も涙を流しながら言う。

 彼らはその後、真っ当な職について一生懸命働いていた。

 そしてセリス達より先に、それぞれ家庭を持った。


「うむうむ……ガイストはただの思いつきでと思っているだろうが」

「ご先祖様からの宿願ですものね」

 王と王妃が笑みを浮かべて言う。

「そうだ、ガイストはおろかセリスもまだ知らぬそうだが、かつて異世界からこの世界に来た初代の優者は、セリスの先祖だそうだからな」

「でも優者様は元の世界に戻られ、そこで結婚式をされた……時の王達は自分達も祝いたかったと悔しがった」

「ああ。だから今度こそはと思うたのじゃ」


「その企みに乗せてもらった事感謝するぞ、ダイハーン王」

 そこには他国の王達と王妃達もいた。

「だが優者一行がダイハーン王国内だけしか旅をしていないのはなあ」

「なあ、今度うちの国にも来てくれるよう言ってくれ」


「既にそのつもりらしいぞ。新婚旅行は世界一周の旅だそうだからな」

「おお!」 


「あなた、いずれはガイストも盛大にお祝いしましょうね」

「そうだな、彼の先祖は建国の大恩人。これも先程知った事だが」

「イリアさんのご先祖様もある意味そうですよ。この大陸を衰退させた王国を滅ぼしたのですから」

「ああ……」




  セリスには勿体無いくらいいいお嬢さんだな

  本当にいいお嬢さんでよかったわ。ありがとうございます。


  いえ、彼ならセイラを幸せに出来るでしょう……ああ、花嫁の父を生きてやりたかった。




 よかったな、二人共。


 ねえあなた、あの二人私達の時より豪勢ですね


 そりゃセリスは英雄だからなあ


 あなただって英雄でしょ。それに今は神様だし

 

 お主も神だろうが。まあそれはいいとしてゆっくり見よう









 とある一軒の家。


 その家のある部屋に一枚の写真が飾られていた。

 

 彼らが世界を救った日の姿が、色褪せることなくそこにあった。


 いつまでも変わらずに。




 希望の優しき者   完

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