第23話「救ってくれ……」

「な、何だ!?」

「う、何よこれ!?」

 剣が突然強い光を放ち、その光が気を失ったままのセリスを照らした。


 そして

「え、あ」

 ガイストは突然意識が遠くなった。




「あれ、ここは?」

 そこは真っ白で何もない空間だった。

 ガイストは辺りを見渡した、すると

「あ、セリス……とあれは誰だ?」


 寝ているセリスの側にいたのは、黒い上着に灰色のズボンのようなもの(バンジョウがいれば『それ羽織袴だろ!』って言ったであろう)を着ていて髪を後ろで結っている男だった。

 見た目はガイストより少し年上くらいのようだった。


 おお、ガイスト殿。よく参られた。

 

 男はガイストに語りかけてきた。

「え、なぜ俺の名前を? あなたはいったい?」


 そうだった。今のお主は知らなかったのだな。

 拙者はこのセリスとサキの先祖で石見彦右衛門いわみひこえもんと申す。

 お主達の事はずっと見ていたぞ。


「え? あ、あのご先祖様、いえイワミヒコエモン様」


 拙者の事は彦右衛門と呼んでくれればいい。


「では彦右衛門様、ここはいったい?」


 ここはセリスの心の中だ。


「セリスの?」


 ああ、セリスは妖魔の力でかなり深く眠らされている。

 なので拙者が起こそうとしたのだが……すまぬガイスト殿、手を貸してくれぬか。


「手を貸すといってもどうすれば?」


 その剣でセリスに纏わりついている妖魔の力を斬ってくれ。

 そうすればセリスは目覚めるはずだ。


「え……あ?」

 よく見るとセリスの体の上に黒い霧のようなものが浮いていた。


「これを斬ればって、斬れるんですかこれ?」


 ああ、その剣はその昔拙者が使っていたものでな、ひょんな事からお地蔵様に妖魔の類を斬れるようにしてもらったのだ。

 だが、その剣でもサキは斬れん。


「彼女は、セリスを独占したいが為に妖魔を?」


 サキは父母も亡くしセリスと二人だけになってしまったその寂しさ辛さ、そしていつかセリスまで失ったらという恐怖。

 それらの心が妖魔を取り込んだがためにあんな形になってしまったのであろう。

 

「あれ? 彼女は両親は死んでないと言ってましたが?」


 それはセリスを悲しませないようにする為の方便だ。

 彼らは旅の空で別の妖魔と戦い相打ちになったのだ。


 彼らは最後の力でサキだけにその事を教えたが、しっかりしているとはいえサキもまだ子供だという事を忘れていた。


 それなのにどの面下げて出て行けばいいかわからないと二人共泣いていた。


「そうでしたか」


 まあ、それは後にしてガイスト殿、さあ。


「はい!」

 ガイストは剣を構えた、そして

「はあっ!」

 黒い霧目掛けて勢い良く振り下ろした。


 グアアァーー!


 黒い霧は消え去った。そして


「セリスが……光り輝いている」


 さあ、目覚めるんだ。そして……サキを救ってくれ、頼む


「わかりました。必ず、う」

 ガイストは再び意識が遠くなった。




「はっ!?」

 ガイストが気がつくとさっきと同じ体勢で立っていた。

 剣はもう光っていなかったが


 セリスの体が眩いほど光輝いていた。

 そして……セリスが目を覚まして立ち上がった。


「な、何で目が覚めるの?」

 サキはセリスを見て驚いていた。


 さあセリス、皆をお主の力で。


「うん! わかったよご先祖様!」

 セリスが手をかざすとその手から光が放たれた。



「ん? あ、あれ? あたしいったい?」

 イリアが



「え? 俺はたしかに?」

 バンジョウが



「あれ~? わたし」

 セイラが



「え、まさか神である私を蘇らせるなんて……セリスさんは?」

 守護神エミリーが生き返った。

 そして


「あ、俺の体が?」

 ガイストの傷が完全回復した。



「な?」

 サキは驚愕の表情になっていた。

 そしてセリスはサキに近づくと

「お姉ちゃん、もうやめようよ。ボクどこにも行かないよ」

 優しい表情でそう言った。



「ねえお姉ちゃん」

「う……いや、今はそう言ってくれても大人になったら」

「サキ、ちゃん。君はセリスが信じられないのかい?」

 ガイストがサキに語りかけた。


「あ……そうよ、私はセリスを」

 サキは優しい表情になった。


 だが


「う? あ、あああアアアーーーーーッ!?」

 サキは突然頭を抱えながら叫びだした。

 すると……


 サキの体が変化していった。

 わずかに残って体を覆っていた服は全て塵と化し

 まるで成人女性のような体格となり

 胸と腰の辺りを黒い毛で覆われ

 背中には黒い翼が生え

 歯が牙のようになり、目が赤く光っていた。



「な、いったい何が!?」

 ガイストが叫んだ。



「フフフ、全て滅ぼしてやる、この体を使ってな」

 サキの声色が変わった。

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