第18話「何者?」
「お待たせしました」
サキが皆の前にカップを置いた。
「これはまた変わった形だな」
ガイストはお茶を入れたカップを手にとって呟いた。
「このカップは湯呑み茶碗っていうんだ、そして中身は緑茶。そうだろ?」
バンジョウがサキに尋ねた。
「はい、そうですよ。さ、どうぞ」
「……うん、美味しいわよこれ」
「ほんとですね~」
イリアとセイラは緑茶を一口飲んで言った。
「よかった」
「あの、サキ、ちゃんでいい?」
ガイストが遠慮がちに尋ねた。
「いいですよ。何ですか?」
「あの、この家って誰が建てたの?」
「お父さんだって聞いてます」
「そうか。あの、サキちゃんはここ以外の所に行ったことあるの?」
「ええありますよ。たまに町に買い物に行ってますよ」
「セリスは俺と出会うまで、サキちゃん以外の人と会ったことないって言ってたよな?」
「うん。サキお姉ちゃんがどっか行ってる時はいつもお留守番してたんだよ」
「そうか、偉いなセリスは」
ガイストはセリスの頭を撫でてあげた。
「えへへ」
「なあ。それなら他の所にはさ、この家にあるようなもんは無いって気づいてるかい?」
バンジョウが尋ねた。
「ええわかってますよ。だってここにあるものは違う世界のものばかりですから」
「「「!?」」」
ガイスト、イリア、バンジョウはその言葉に驚いた。
「……サキちゃん。君は、いや君達はいったい?」
「えーと。皆さんわかってるんですよね。セリスが『優者』だって」
サキはどうやら優者の事を知っているようだった。
「ああ。俺達四人はセリスを守護する者だそうだが」
「やっぱり。そうかなあと思いました」
「あのさー、あんた達ってもしかして違う世界から来たとか?」
「はい。私達が赤ちゃんの時にここへ来たとお父さんとお母さんに言われました」
「そうか。親父さんとおふくろさんからは、何のためにここへ来たかって聞いてるのか?」
「はい。この世界にはいずれセリスの力が必要になる、それがいつかはわからないがって言ってました」
「そうだったのか。遠い世界からこの世界の為に。そして幼い我が子を残して逝ったのか」
ガイストはセリスとサキの両親に心の中で祈った。
少し涙ぐみながら。
「ええ。今もどこかで旅してるはずですよ、全然帰ってきませんけど」
サキは少々呆れながら言った。
「え? あの、亡くなったんじゃないの?」
「いいえ、たまに手紙やお土産送って来ますよ。そのお茶は昨日お父さんが送ってきたんです」
「……おいこら両親、幼い子供達置いて何しとんじゃ」
ガイストはさっきの涙返せと心の中で呪った。
「なあサキちゃん。俺は見てないんだがセリスに女物の服着るように言ってたのは何でだ?」
バンジョウがサキに尋ねる。
「それはですね。ここにセリスを狙うやつが来た時の為ですよ」
「それってもしかして、いざって時はサキちゃんが身代わりになるためかい?」
「はい。私達双子ですから、同じ格好しておけば見分けつきませんし」
「ならサキちゃんが男装するって手もあっただろ?」
「一度男装して町に行ったら変な目をしてヨダレ垂らしたお姉さん達がウジャウジャ寄ってきて……怖かったからもうしたくないんです」
サキは身震いしながら言った。
「……サキちゃんが無事で本当によかった。ああ、俺が後でその腐れ女子共を斬ってくるからどこにいるか教えてくれ」
ガイストは剣を持ちながら言った。
「いいですよ、もう……だし」
「ん? 何?」
「あ、いえ何も」
「あのさー、サキちゃんはこの世界で黒い霧を出してる、セリスを狙ってる奴の事知ってる?」
今度はイリアがサキに尋ねた。
「おそらく妖魔だと」
「妖魔? 何それ?」
「私もよく知りませんが、遥か昔にうちのご先祖様がやっつけた悪い奴だってお父さんが言ってました」
「ん? やっつけたのに何でいるの?」
「妖魔は一度やっつけてもいつかまた蘇るって」
「なんちゅう厄介な奴よ。それ」
「だからご先祖様はいつか妖魔が蘇った時に子孫の誰かに力が出るようにしてほしい、って亡くなる前にお地蔵様に頼んだんだと聞きました」
「はあ? お地蔵様って誰?」
「マジかよ、お地蔵さんもいるのかよ、そっちの世界って」
「バンジョウ、あんた知ってるの?」
「ああ、まあわかりやすく言うとこの世の守り神のようなもんだよ」
「え、セリスとサキちゃんのご先祖様って何者なのよ? そんな凄いもんにお願いができるなんて」
「ねえお姉ちゃん、ボクお腹すいた」
セリスはお腹を押さえながら言った。
「はいはい、もうすぐごはんにするからね。あ、皆さんのも作りますからね」
「あ、あたし手伝うわ。サキちゃんだけにさせたら悪いし」
「わたしも手伝います~」
イリアとセイラが手を上げた。
「じゃあお願いします」
そう言って女性陣は台所の方へと向かった。
「なあセリス」
「何? ガイストお兄ちゃん」
「さっきサキちゃんが言ってたご先祖様の名前って知ってるかい?」
「えーと、そこに置いてあるイハイに書いてあるって。でも難しくて読めない字だからわかんない」
そう言ってセリスが指さした場所は、土壁をくり抜いて作った祭壇のようなものだった。
「どこまで似てんだよ、これ仏壇だろ」
バンジョウの顔には縦線が走っていた。
「まあ、これは聞かなくても雰囲気でわかるな、どれどれ……バンジョウ、これ読めるか?」
「ん? すまん、ちと読めん」
「そうか。だがそっちの文字に似てるんだろ?」
「今の文字はうちもこっちとも同じだよ。でも古代文字はなんかこんな感じだったような?」
二人が見ているのは戒名である。
本名は裏に書かれていた。
まあ、どっちにしてもそこにいる誰も漢字読めないが。
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