第16話「そういう事だったのか」

「ふう、いい気持ちー」

 イリアは女湯でゆっくり湯に浸かっていた。

「ほんとですね~」

 セイラも一緒に湯に浸かっていた。

「あー……」

 イリアはセイラをじーっと見ていた。

「……セイラちゃんってなんちゅういい胸してんのよ」

 セイラはさすがにイリアには負けるが、十一歳の割にはでかかった。

「え~、でも重たくて邪魔で~」

「セイラちゃん、それ人前で言っちゃダメよ。刺されるかもしれないから」

「は~い」

 セイラはよくわかってないが、とりあえず返事をした。

「イリアさん、他の人入ってきませんね~」

 今女湯にはイリアとセイラだけしかいなかった。

「そうねえ。はっ?」

 イリアは何かに気づいた。

「そうよ、今なら邪魔は……よし、セイラちゃん」

「はい?」

「あたしと胸触りっこしない? はあはあはあはあ」

 イリアがヨダレ垂らしながらそう言うと


 ガラッ

「ねえ、ボクも一緒に入っていい?」

 セリスが女湯に入ってきた。

 前も隠さないで。


「キャアアアーーー!?」

 イリアは飛び上がって驚いた。

「お姉ちゃんどうしたの?」

 セリスはキョトンとしていた。

「ちょ、あんた男なんだから女湯に入ってきちゃダメでしょ!」

「え~いいでしょ~? セイラちゃんと背中流しっこしたいし~」

「わたしもセリスくんと洗いっこしたいです~……ふふふ」

 セイラがヨダレを垂らしながら言う。


「ダメよ! あんた早く戻んなさい! さもなくば」

「えーい」

 セリスはイリアに向けて手をかざした。

 すると

「な、何これ? 体が動かない?」

「金縛りの術だよ」

 セリスはニコニコしながら言った。


「え? な、なんであんたそんなの使えるのよ!?」

「わかんない。でも何か使えると思ったんだ」


「嘘、これが優者の力?」


「さ、セイラちゃん」

「はい~」

「ダメーー! やめろーーーー!」

 イリアは動けないまま叫んだ。

 するとセリスはイリアの方を見て


「……邪魔しないでよ」

 普段からは考えられないような冷たい目をして言った。

 いや、そう見えただけかもしれないが。


「ひっ……」

 イリアは全身が凍りつくような寒気を感じた。



 ガチガチガチガチ……。

「これは夢なんだ、きっとそうなんだ」

「そ、そうだな、これは悪夢なんだ」

 ガイストとバンジョウは騒ぎ声を聞いて悪いとは思いつつも仕切り壁の上から女湯を覗いた。

 そして二人はセリスを見た後で壁から滑り落ち、膝を抱えて震えていた。



 その後、宿に戻ってから

「セリスが、セリスが」

 イリアはまだ震えていた。

「近くだと一層怖かっただろうなあれは、よしよし」

 バンジョウはイリアの頭を撫でて慰めた。

「ん? あんたら覗いてた?」

 イリアは二人に尋ねた。

「許せ、只事ではないと思ったのでな」

 ガイストは素直に謝った。

「いいよ。でもそれならセリスを止めてくれたらよかったのに」

「できると思うか?」

 ガイストは真っ青な顔で震えていた。


「……ごめん」

 イリアは無茶な事を言ってしまったと反省した。

「どんな魔物よりも恐ろしかった」

 バンジョウも震えていた。


 そのセリスはセイラと二人仲良く寝息を立てていた。

 寝顔は無邪気で可愛らしかった。


「さっきのは夢だったんだ。と思える顔だな」

 ガイストはセリスを見て言った。

「なあ、ふと思ったんだけどよ。もしかしてセリスの力って善悪関係ないんじゃ?」

 バンジョウはそんな事を言った。

「どういう事だ?」

「いやな、セリスの力はさ、なんつーか心の中の思いに応じて効果が変わる、って感じか?」

「とすればだ。たとえ無意識でも心のどこかに思いがあればそれが、か?」


「ねえ、もしそうだとするとセリスが本当に悪い子になっちゃったら」

 イリアは身震いしていた。

「そうだな。もし……え、ああっ!?」

 ガイストは突然叫んだ。

「ど、どうした!?」

「そ、そうか! セリスの力を利用するってそういう事だったのか!」

「え? あっ、そうか!」

 バンジョウはガイストが思った事に気づいた。

「ちょ、ちょっとどういう事なのよ?」

 イリアは訳がわからずに二人に尋ねた。


「ああすまん、イリアにはまだ言ってなかったな」

 ガイストはイリアにセリスを狙う者がその力を利用しようとしているという事を話した。


「という訳だ。俺達もどう利用するかまでは知らなかったが、今やっとわかった」

「セリスに悪の心を植え付け、う」

 バンジョウは血の気が引く感じがした。


「ねえ、そいつって何者なのよ?」


「わからん、あのカマ男もよくは知らなかったらしいが」


「なあ、またもしかするとだけどな、セリスの姉ちゃんはセリスを狙う者が誰か知ってたんじゃないのか?」

「だからセリスを女装させていた、そいつに見つからないようにするためか?」

「へー。セリスって女装してたんだー、ってそれはいいとしてさ、もしセリスのお姉ちゃんがそいつを知ってたらどうするのよ?」

「どうするかはサキさんに会って話を聞いてから考えよう。それでいいかバンジョウ、イリア」

「ああ」

「うん、いいわ」

「よし、じゃあ今日はもう寝るか、順調に行けば明日の夕方にはタカマハラに着くだろう」

 そして三人はベッドに入って横になった。




「……私のセリス、どこ行ったの?」

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