第15話「うえ~ん!」

 イリアが加わったことで、ついにセリスを守護する者が全員揃った。


 戦士ガイスト

 武闘家バンジョウ

 僧侶セイラ

 魔法使いイリア


 この四人が希望の優しき者、優者セリスを守る。

 

 そしてタカマハラまであとほんの少し。




 一行はのどかな風景が見える道を歩いていた。

「ねえセリスー、もうちょっとセイラちゃんから離れて歩こうねー」

 イリアはもうセリスを呼び捨てにしていた。

「えー? なんで?」

「嫌ですよ~。セリスくんと離れたくないですよ~」

 セリスとセイラは腕を組んで歩いていた。

「いいから離れて。これ以上くっついてるとあたし、この手で」

 イリアはうつろな目でセリスの首に自分の手を当てた。


 ズパアーン!

「イリア! お前何するつもりだった!?」

 ガイストはハリセンでイリアの頭を叩いた。


「てか、どっから出したんだよそのハリセン」

 バンジョウは呆れながらツッコんだ。


「うう、セリスばっかセイラちゃんにくっついて~、うえ~ん!」

 イリアは子供みたいに泣きだした。

「セイラちゃん、イリアと手を繋いであげてくれ」

 哀れに思ったガイストはセイラに頼んだ。


「いいですよ~、じゃあこっちの手で」

 セイラは右手をイリアに差し出した。

「う、うん」

 イリアが照れながら手を繋ごうとした時


「ギャーッハハハハ、優者を渡せやー!」

 何か頭悪そうで如何にもやられ役っぽい魔物が現れた。


「おいガイスト、今度の奴はえらい雑魚っぽいな」

「油断するな、あのタイツデブカマ男みたいに強いかもしれんぞ」

「そうだな。あ、セリスとセイラちゃんは後ろへ下がっててくれ」

「はい~、さ、セリスくん行きましょ~」

 セイラはセリスの手を引いて岩陰に隠れた。


「あ、セイラちゃん……てめえ~!」

 イリアは怒りの形相で魔物を睨みつけた。

「ん? なんだ。やるってのかこのアマ、へっへっへ。とっ捕まえてそのええ乳を」


「せっかくのチャンスだったのに……コノヤローーー!」


 チュドオーーン!


 魔物はイリアの魔法で跡形も無く吹き飛んだ……のだが。


「おいイリア」

「何よ?」

「なんだこれは?」

「爆発魔法よ」

「いや、そういう事ではない、何でこうなるんだ?」

「あたしまだ見習いだからさ、魔法力うまくコントロールできないのよ」

「それでこっちにも余波が来たのか?」

「でも皆無事でしょ?」

「まあ、だがな」


 イリアの魔法の威力で辺り一面も吹き飛んでいた。

 そして一行はコントのように真っ黒になっていた。


「おい危ねえだろが! 俺達はいいがセリスとセイラちゃんに何かあったらどうすんだよ!?」

 バンジョウはセリスとセイラの無事……まあ二人も真っ黒だったがとにかく無事なのを確認してからイリアに怒鳴った。


「え? あ、しまった! ついでにセリスを」

 ゴツン!


「お前セリスを守る気あるのか!?」

 ガイストはイリアの頭をどついた。

「セイラちゃんにくっつかなければ、それさえなければセリスって凄くいい子なのに~! うえ~ん!」

 イリアはまた泣きだした。

 


「……まあ、とりあえずどっかで体を洗うか」

「そうだな」

 ガイストとバンジョウは泣きやまずにいるイリアを引きずりながら歩き出した。


 その後一行は近くの村にたどり着いた。

 ここには温泉が沸いてるという話を聞き、宿に着いた後早速入る事にした。


「ふう、ここって俺の生まれ故郷に似てるなあ」

 バンジョウは湯に浸かりながら言った。

「ん? そうなのか?」

 ガイストは体を洗いながら答えた。

「ああ、こう山や緑が多い感じがな。あと風呂もこんな感じだし」

 バンジョウが浸かっているのは大きな檜風呂だった。

 この宿の温泉は大浴場みたいな感じになっていて、こうやって大きい湯船に湯を入れて男湯と女湯に分かれていた。

「そうか。なら落ち着くだろ?」

「ああ。……それで思い出したんだがよ」

「ん、何をだ?」

「タカマハラなんだけどな、俺のいた世界にもタカマハラっていう伝説の聖地の話があるんだよ」

「そうなのか?」

「ああ、本当にあるのかわからんがな。だけどな」

「うん?」


「もしかするとそれって、この世界のタカマハラの事かって思った。まあ、ただの偶然かもしれんけどな」

「案外本当にそうかもしれんぞ」


「まあ、行ってみればわかるかな。ここからだとあと一日くらいだろ?」

「そうだな、やっと家に帰れるなセリス、あれ?」

 ガイストは辺りを見渡した。

「どうした?」

「いや、セリスは?」

「え? あれ、そういえばさっきまでいたのに?」

「……まさか」

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