第13話「最後の一人」

 新たにセイラが加わった一行はタカマハラ目指して旅をしていた。

 その途中である町の食堂に入った一行は、その土地の名物料理を食べていた。


「はむはむ、これ美味しいね」

「わたしこんな美味しいもの食べたの初めてです~」

 セリスとセイラは美味しそうにその料理を食べていた。

「王宮でもこれほどのものはなかったな。本当に美味い」

「俺のいた世界にもこれはあったけど、こっちのが何倍も美味いな」

 ガイストもバンジョウもそれを美味そうに食べていた。


「どうですかお客様、当店自慢の羊肉の料理は?」

 食堂の主人が話しかけてきた。

「本当に美味しいですよこれ。旅が終わったら仲間達にこの店の事を宣伝しときますね」

 ガイストはそう言った。

「それはどうもありがとうございます。よろしくお願いします」




「セイラお姉ちゃん、あれ美味しかったね」

「ええ、世の中にはあんな美味しいものあったんですね~」

 セリスとセイラは手を繋いで歩きながら話していた。


「しかし仲がいいな、あの二人」

 ガイストは笑みを浮かべながら二人を見ている。

「そうだな。やっぱ歳が近いもん同士の方がいいのかな」

 バンジョウもその言葉に同意するが


「いや、それだけじゃないかもしれんぞ。見てみろ」

「え?」


「ねえセイラお姉ちゃん」

「わたしの事はセイラって呼んでくださいよ~」

「え~、じゃあセイラちゃんでいい?」

「ん~それでいいですよ~、で、何ですかセリスくん?」

「えーと、なんでもないよ」

 そう言ったセリスの顔は少し赤かった。

「そうですか~」

 セイラの顔も少し赤くなっていた。


「なあ、あれもしかして」

 バンジョウはセリスとセイラを指さしながらガイストに尋ねた。

「ああ、たぶんそうだろ」

「やっぱそうか、なんか微笑ましいもんだな」

「そうだな、本当に純真な」


「ふふふ~。セリスくん、後でいい事しましょうね~」

「え、いい事って何?」

「それはね~、ジュル……後のお楽しみ~」

 セイラは口を拭いながらそう言った。

「うん、わかったよ」



「ガイスト、あれも純真なのか?」

「万が一の時は腕ずくで止めるぞ、いいな」

「あ、ああ」




 そして夕方

 宿屋に着いて部屋をとろうとすると

「え、一部屋しか空いてないんですか?」

「すみません、そうなんですよ」

 宿屋の主人はそう言った。

「そうですか。では他を当たります」

 ガイストが去ろうとすると

「この町は人がよく来るので、今からだとおそらくどこも満室だと思いますよ」

「そうですか。それは弱ったな」

「別に全員一緒でいいじゃないですか~」

「そうだよお兄ちゃん」

 セイラとセリスがそう言った。

「まあ、二人がそう言うなら。おいバンジョウ、襲うなよ」

「あのな、俺だって本気で襲ったりせんわ」

「む、まあたしかにな。本気ならセリスはとっくに」

「せいぜいセリスとセイラちゃんの……を」


 ガイストは無言で剣を抜こうとした。


「だから冗談を真に受けるな!」

「冗談にも程があるわ!」

「やるか?」

「ああ!」

 ガイストとバンジョウはどつき合いを始めた。


「断ればよかったかもしれないが、子供達を放り出すわけにもいかないしなあ」

 宿屋の主人は呆れながら呟いた。


「へー、あの子がそうなのねー、しかし可愛いわねー」

 物陰から一行を見ている者がいた。




 部屋にて

「おい、気づいてるか?」

 バンジョウは小声でガイストに話しかけた。

「ん? ああ。誰かが俺達をつけていたな」

 ガイストも小声で答えた。

「だが殺気は感じなかったな。あ、もしかして最後の一人?」

「そうかも知れんな。以前のお前みたいに様子を見てるのかもな」

「そうだといいが、お?」

「どうした? ……ああ」

 バンジョウとガイストは何かに気づいた。 

「どうする?」

「害は無さそうだし、とりあえす部屋に入ってもらうとするか」

 そう言ってガイストは気配を消してからドアを開けると、倒れ込むように人が入ってきた。

  

「ちょ、なんでいきなりドアが?」

 それは灰色の短い髪、魔導師のマントを着た女性だった。


「おいあんた、なぜ俺達をつけていた?」

 バンジョウがその女性に尋ねる。

「あ、バレてたのね」

「ああ。あんたは気の消し方が下手なようだからな」

「そうねー、あたしまだ見習いだしー」

 そう言って女性は立ち上がった。

 よく見ると顔はやや日焼けした感じでマントの下は白っぽいブラウスと短い黒のスカートを履いていた。

 ちなみにやたらお胸がでかかった。


「それで何が目的だ?」

 今度はガイストが女性に尋ねた。

「んーとね、あたし『優者』を探してたのよ」

「何故?」

「いや、あたしもたぶんあんた達と同じでね、あの子を守る者らしいからさー」

 そう言って女性はセリスを指さした。

 ちなみにセリスとセイラはもう寝ていた。同じベッドで。


「どうしてセリスがそうだとわかったんだ?」

「んーとね、出会えたらわかるってあたしのお師匠様に言われてたのよね。それで町で彼、セリスくんを見た時に何かうまく言えないけど、そうだと感じたのよ」

「わかった。それでどうするんだ? 俺達と一緒に来るのか?」

「うん。いいでしょ?」

「ああ。ではこれからよろしく。えと、名前は?」

「あ、ゴメンね。あたしの名前はイリア。一応魔法使いよ」

 その女性、イリアが名乗る。

「俺はガイスト、こっちはバンジョウ、そしてセリスの隣で寝ているのがセイラちゃんだ。彼女も守護者だよ」

「あの子もなのね。うん、わかったよー」


(おのれいくら……だからってべったりくっつきやがって)

 イリアはセリスとセイラを見ながらそう思った。

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