第12話「新たな仲間」

 その後セリスの傷は塞がったが、意識はまだ戻らなかった。


 それを見た町長が自分の屋敷が近いからそこで治療を、と話しかけて来たのでそうする事にした。


 町長は町一番の医者を呼んでセリスを診てもらった。

「セリスは、どうですか?」

 ガイストが医者に尋ねた。

「傷は塞がっていますが、脳にかなり強い衝撃を受けたと見られます。もしかしたらこのまま目が覚めないかもしれません」


「え?」

「おい、なんとかならねえのかよ!」

 バンジョウが医者に詰め寄った。

「最善は尽くしますが……」


「なんとかしてください! 必要な物があればいくらでも用意しますから! この子は世界の希望なんですよ!」

 町長も医者に向かって叫ぶ。


 医者が黙って俯いていると

「あの~、わたしがまたあれをしますよ~」

 セイラが手をあげて言ったが

「いや、いくらセイラちゃんの力でもこれは無理だよ」

 医者はセイラと顔見知りで、彼女が回復魔法を使えるのを知っているようだ。

「わたしが~」

「あの、だからね」

「絶対にわたしがセリスくんを治します!」


「!? あ、ああ」

 セイラが急にはっきりと大きな声で叫んだので、医者は怯んで了承してしまった。

 そして

「あんなセイラちゃん初めて見た」

 医者はそう呟いた。



「さて、始めましょうか~」

 セイラはベッドで寝ているセリスの顔を覗きこんだ。

「なあセイラちゃん、何か考えでもあるのか?」

 バンジョウが尋ねると

「ええ~ありますよ~。わたしの力を直接体の中に入れたら治せます~」

「え、そんな事ができるのか!?」

 ガイストは驚いてセイラに聞いた。

「なんとなくそう思うんです~。わたしにはできるって」

「……ま、まあ。で、どうやるのそれって?」

「こうするんですよ~」

 そう言ってセイラは


 セリスに口づけした。


 するとセリスとセイラの体が光輝きだした。


「な、なんだこの光は!? なあガイスト!?」

「俺にわかるわけがないだろ」


 やがて光が収まり、セイラがセリスから離れると

「あれ、ここどこ? ボクどうしてたの?」


「あ……!」

「セリス!」

 ガイストとバンジョウがセリスに駆け寄った。

「大丈夫か!? どっか痛くないか!?」

「え? うん、どこも痛くないよ」


「そうか……よかった」

「ああ、本当によかった」

 ガイストとバンジョウは涙ぐんでいた。

「よかった~、うまくいきました~」


「セイラちゃん、本当にありがとう!」

 バンジョウがセイラの手を握って礼を言った。

「いえいえ~……あれ?」

 セイラは急にキョロキョロしだした。

「ん? どうしたんだセイラちゃん?」

「あれ? なんか変。え?」

 セイラは何かに驚いているようだった。

「ねえセイラお姉ちゃん。目が見えるようになったんじゃないの?」

 セリスがそう言うと


「ええええええええ!?」

 セイラ以外の一同はその言葉に驚いた。


「う、うん。見えてる、はっきりと……あ、あなたがセリスくんね?」

「うん、そうだよ」

 セリスは笑顔を浮かべて言った。

「……ぽ」

 セイラは顔を真っ赤にした。


「おい、どうなってんだこりゃ?」

「もしかしてさっきのあれで、セリスの力がセイラちゃんに?」

「そうかもな……っていいなあセリスは~。俺もセイラちゃんに」

 ガイストは無言で剣を抜こうとした。


「だからお前はいちいち冗談を真に受けるな!」

「冗談でも今のを茶化す事言うな!」

「あ、ああすまん。たしかにそうだな」

 バンジョウは今のは失言だったかと反省した。


 そしてセリスはセイラに任せて、というかセイラが

「わたし以外近寄んじゃねえよ」オーラを出してきたので他の者はビビりながら町長の部屋に移動した。


「本当によかったです。セリス君にもしもの事があったら」

 町長はほう、と胸を撫で下ろした。

「あの町長さん? どうしてセリスが『優者』だと知ってたんですか?」

 ガイストが町長に尋ねた。

「ああ、それはある御方に聞いたんですよ」

「ある御方? 誰ですかそれは?」

「私ですよ~」

「え?」

 声がした方を見るとそこにいたのは

「あ、あなたはあの時の?」

 セリスの家の場所を教えた銀髪の女性占い師だった。

「ええ、お久しぶりですね~」

「どうしてここに?」

「え~、私って実は旅の占い師って事にしてるんですよ~。だからあちこち回ってるんです~」


「この方はよく当たると評判で。それを聞いて占ってもらった際にあなた達やあの男のことを聞いたんです」

 町長がそう言った。

「あなたどう考えても俺達より後で旅に出ましたよね? 何で俺達より先にここにいるんですか?」

「それは言えませ~ん、禁則事項です~」

「はいはい……」

 ガイストは脱力した。

「おいガイスト、この綺麗なおねーちゃんが前に言ってた?」

「そうですよ~、バンジョウさん」

 女性はバンジョウの方を向いて言った。

「お、俺まだ名乗ってないのに!? これ占いってレベルじゃねえぞ、おい!」

「そうだろ……」


「ところでセリスさんが無事でよかったです~。……あれは私にも見えませんでしたから」

 女性は俯きがちに言った。

「え、そうだったんですか?」

「はい。でもセイラちゃんがいてくれてよかったです~」

「ええ、そうですね。あの」

 

「わかってますよ~。セイラちゃんの事ですよね~」

「ええ、もしかして彼女は」

「私も近くに来てわかりました~。あの子はセリスさんを守護する者、あなた達の仲間の一人ですよ~」

「やっぱり」

 ガイストは彼女ももしや、と思っていた。

「え? セイラちゃんもそうなのか? じゃあ」


「だがバンジョウ、彼女を連れて行ったらマザーや子供達はどうなる?」

「あ、そうか」


「あの、それはどういう事ですか?」

 町長が話に入ってきた。

「ええ、それは」

 ガイストは事情を話した。


「そうでしたか。なら私がそのマザーや子供達の面倒を見ましょう」

 町長はそう言った。

「え、いいんですか?」

「ええ。たとえ彼女に旅立つ気がなかったとしてもそうします。今まで孤児を放っておいた罪滅ぼしのつもりです」

「ありがとうございます。さて、セイラちゃんにどう言おうか?」


「あの~」

 部屋のドアの前にセイラがいた。

「あ、セイラちゃん? いつからそこに?」

「さっきからです~。話は聞いてました~」

「そうなのか。それでセイラちゃんはどうする?」


「絶対に一緒に行きます!」

 セイラは怖いくらい真剣な目をして言った。


「そ、それはよかった」

 ガイストはセイラから物凄い気迫を感じて怯んだ。

「よし、セイラちゃん、これからよろしくな」

「ええ~、よろしくです~」

 バンジョウはセイラと握手した。


「……あ」


「ん? どうした?」


「いや、お前気づいてないのか?」

「何に?」

「いや、占い師のねえちゃんってセイラちゃんと似てただろ? 顔もだけど喋り方や雰囲気がさ」

「あ!」


「なあ、もしかしてねえちゃんはセイラちゃんの縁者かも?」

「そうかもな、あの……あれ?」

 部屋の中を見ると女性はいなかった。

「あれ、あの人いつの間に出て行ったんだ?」

「私も気づきませんでした、いったい?」



「あの子もそうだったのね。……元気でね」




 そして

「セイラ、気をつけて行っておいで」

「は~い」


「皆さん、セイラをよろしくお願いします」


「はい、わかりました」


「姉ちゃん、絶対に帰ってきてね」

「うん、帰ってくるよ~」


「セリス、また遊びに来てくれよな」

「うん、またね」


「それじゃあ行ってきま~す」

「いってらっしゃい」

 マザーや子供達、町長に見送られて、セイラを加えた一行は再びタカマハラへと旅立っていった。

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