第10話「もしかして」

 次の日

 ガイストとバンジョウはセリスを教会で預かってもらい、町長の屋敷に行って武闘会出場の手続きをする事にした。


 セイラに教えてもらった場所に辿り着いてみると

「えらく豪勢な屋敷だな」

 バンジョウが呟く。

 その屋敷は町のどの建物よりも大きく豪勢な作りだった。

「そうだな。っと、受付はあそこのようだぞ」

 ガイストが指差したところに「武闘会受付はこちら」という幟が立っていた。

 そしてその横にはテーブルが置かれ使用人らしき男が受付をしているようだった。

 二人は手続きを済ませた後

「開催は三日後になりますので」

 受付の男にそう言われた。


「ところで町長さんはどんな方ですか?」

 ガイストが受付の男に尋ねた。

「町長は……あ、いや」

「あの、言いにくければ無理にとは」

「いえ。あ、私が言ったというのは内緒ですよ? 町長はまあ普段は有能でいい人なんですが、時々訳のわからない事をするんですよ。この武闘会のように」

「これって娯楽の為じゃ?」

「そうかもしれませんがね、そんな金あるなら貧しい人に回せっていう意見も多くて」

「でも聞かないと」

「ええ。良くも悪くも一度決めたことは絶対にやろうとするんですよ、はあ」

 男はため息をついた。

「ありがとうございました。あ、これ」

 ガイストは男に金貨を一枚握らせようとしたが

「いえ、結構ですよ。私が勝手に言っただけなんだから」

 そう言って突き返された。


 ガイストとバンジョウは教会へ戻る途中で町の事などいろいろ聞いて回った。

 そして

「なあガイスト、町長ってよくわからん奴だな」

「そうだな、良い評判も悪い評判もあるな」


 二人が教会へ戻って

「ただいまか……え?」

 ガイストはドアを開けたまま固まった。

「おい、どうし」

 バンジョウも固まった。


「あれ、お兄ちゃん達どうしたの?」

 二人の前にはセリスがいた。


 何故か女物の服を着て。


「セ、セリス、その格好はいったい?」

 ガイストが尋ねると

「セイラお姉ちゃんに着せてもらったの」

「そうですよ~。よく似合ってるでしょ~?」

 セイラがセリスの後ろに立って言った。

「あのセイラちゃん、セリスは男の子だってわかってるよね?」

「ええわかってますよ~。でも可愛いんだからいいでしょ~」

「うむ、いい。セリス、ちょっとスカートを捲」

 ドバキイッ!

 ガイストはバンジョウの顔面に鉄拳を喰らわせた。


「ねえ、お兄ちゃん達喧嘩してるの?」

「あ、いやちょっと修行をな。さ、バンジョウ行こうか」

 ガイストはバンジョウを引きずって外へ行った。


「?」


 そしてしばらくしてから二人は帰ってきた。

 両者とも傷だらけになって。


「あ、お帰りなさ~い」

 セイラが二人を出迎えた。

「あれ、セリスは?」

「部屋で他の子達と遊んでますよ~」

「そうか、ってあの格好で?」

「いえ、もう着替えてますよ~」

「チッ」

 バンジョウが舌打ちした。

「おい、もう一戦するか?」

「やなこった。今日はもう寝る」

「そうだな……痛っ」

 ガイストは傷だらけの腕を押さえた。

「あ、怪我したんですか~。それじゃあ、えい」

 セイラが手をかざすと二人の体が輝き出した。そして

「へ?」

「あ?」

 傷が完全に回復した。

「はい、もう痛くないですよ~」

 セイラは微笑みながらそう言った。

「これって回復魔法?」

 ガイストはセイラに尋ねた。

「そうみたいですね~、でもわたしこれの事よく知らないんです~」

「え、もしかして何の修行もしないで使えたとか?」

「ええそうですよ~」


「な、なんだと、こっちじゃそんな事もあるのか!? 元の世界じゃそんな話聞いた事ないぞ!?」

 バンジョウは驚いていた。

「こっちでもそんな話は今初めて聞いた」

「な、セイラちゃんって何者だ?」

「わからん(いや、もしかしてセイラちゃんは)」




 それから三日後、武闘会開催の日がやって来た。


 ガイストとバンジョウは予選を当然の如く勝ち進み、決勝進出を果たした。

「お兄ちゃん達凄いね」

「ガイストお兄ちゃん強ーい」

「バンジョウお兄ちゃんもー」

 セリスやセイラ、教会の子供達は客席で応援していた。


「さ、いよいよ決勝トーナメントだな」

 二人は控室で話していた。

「俺とバンジョウが当たるのは決勝かもな」

「ああ、勝ち上がれよガイスト」

「お前こそな」



「フフフフフ」

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