第9話「盲目の少女」

 ガイスト、セリス、バンジョウは今日もタカマハラ目指して旅をしていた。


「セリスを狙うものがいるのか。そしてそいつが黒い霧を」

 ガイストは歩きながら考え込んでいた。

「あのカマ男も姿を見たことはないって言ってたな」


「ああ、そして部下はまだたくさんいるとも」


「スースー」

 セリスはバンジョウにおんぶしてもらって寝ていた。

「やっぱ疲れてるんだな」

 ガイストはセリスの顔を見ながら言った。

「そうだな、子供に長旅はきついだろう」

「タカマハラはまだ先だな、それまでに何が来るか」

「俺がセリスには指一本触れさせん、たとえ」

 バンジョウが皆まで言おうとすると

「……バンジョウお兄ちゃん、死んじゃやだ」

「え? セリス?」

 バンジョウはセリスに話しかけたが

「スースー」

 セリスは寝たままだった。

「ね、寝言か」

「バンジョウ、お前が死んだらセリスが悲しむぞ」

「ああ。お前も死ぬなよ」

「だが、どうしてもと言う時は」

「そうならないようにしようぜ、相棒」

 バンジョウは顔に笑みを浮かべながら言った。

「そうだな」




 そして一行は大きな町に辿り着いた。

 そこは商業が盛んで人々が行き交っているようだった。

「ここも賑やかだな」

「そうだな、自警団もいるようだし魔物が襲ってくる心配がないからか」

 一行が町の中を見て回っていると

「お腹すいたー」

 セリスはお腹を押さえて言った。

「今日泊まる所を見つけたらごはんにするから、それまで我慢して」

「うん、わかったよ」


 しかし宿はどこも満員だった。

「あの、いつもこんな調子なんですか?」

 ガイストは最後に立ち寄った宿の主人に尋ねた。

「いえ、いつもはこれほどではないのですが。と、お客様はあの事をご存知ないのようですね」


「何の事ですか?」

「いえね、この町の町長さんが強者を募っているんですよ、そして武闘会みたいなのを開くんだそうです」

「なんでまた?」

「町の人に娯楽をって言ってましたけどねえ。ああ、優勝者には賞金を出すそうですよ」

「面白そうだな。なあ、それも出るにはどうすればいいんだ?」

 バンジョウが主人に尋ねた。

「町長さんの所へ行って手続きすればいいみたいですよ」


「おいバンジョウ、お前出る気か?」

 ガイストが言うと

「いいだろ、路銀の足しにもなるしな」

「優勝するとは限らんだろうが」

「そんな強い相手がいるなら、そいつと戦うのも修行だよ」

「なるほど。じゃあ俺も出ようかな」


「ねえお兄ちゃん達、ボクお腹すいたんだけど」

 セリスは少し怒りながら言った。

「あ、そうだった。食事はどっかの食堂でとしても、寝るとこ探さないと」


「こんばんは~」

 そこに金色の髪で目がぱっちりして可愛らしい顔。

 服装は着古した修道服の少女がやって来た。

 歳はセリスより少し上くらいに見える。


「ああいらっしゃい、待ってたよ」

「はい、今日もお薬持ってきましたよ~」

 少女が手にしていた袋を主人に差し出す。

「いつもありがとうね。セイラちゃんが煎じた薬は気分が悪くなったお客様に好評なんだよ」

 そう言って主人は少女、セイラに薬の代金を渡した。


「そうですか~お役に立てて嬉しいです~。あら? こちらの方達は」

 セイラはガイスト達の方を向いて言った。


「ああ、俺達は泊まる所を探してたんだけどね、どこも満室で」

 ガイストがそう答えると

「そうですか~、それならうちに泊まりますか~?」

「え? いいの?」

「いいですよ~。お兄さん達悪い人って感じしませんし~」


「セイラちゃんが言うならいいが、あんたら襲うなよ」

 宿屋の主人が言うと

「俺はそんな事しませんよ」

「う、ああ、そうだとも、俺も」

「バンジョウ、お前はやばいからどっかで野宿しろ、いや、野垂れ死ね変態」

「なんだとゴラ!」

 二人が睨み合っていると

「ねえお姉ちゃん」

 セリスがセイラに話しかけた。

「な~に?」

「お姉ちゃん目が見えないんでしょ? よくボク達がわかるね」

「「え!?」」

 ガイストとバンジョウはその言葉を聞いて驚いた。

「ぼ、ぼうや、それがわかるのかい!?」

 主人も驚いてセリスに尋ねた。

「え? 見たらわかるでしょ?」

 セリスは首を傾げる。

「いや、普通はわからないよ。私だって最初はわからなかったんだし」

「そうよ~。わたし目は見えてないけど、心の目は開いてるの。だからわかるのよ~」

 セイラがそう言った。

「そうなんだ、お姉ちゃん凄いね」

「凄くないわよ~。さ、お家に案内しますね~」




 一行がセイラに案内されて来たところは古びた教会だった。

「ここですよ~さ、どうぞ~」

「あ、ああ、お邪魔します」


「ただいま~」

 扉を明けてセイラがそう言うと、中から幼い少年少女が駆け寄ってきた。

「皆いい子にしてた~?」

「うん、してたよ!」


「ねえお姉ちゃん、この人達誰?」

 少年の一人がガイスト達を見ながら尋ねる。

「お客様よ~。今日は泊まってもらうの」


「へーそうなんだ」

「このお兄ちゃん剣士様だ! カッコイイ!」

「こっちのお兄ちゃん強そう!」

 子供達はガイストとバンジョウの側に来て口々に言った。


「ははは、俺も捨てたもんじゃないな。よっと」

 バンジョウは子供達を次々とたかいたかいしてあげた。

「ねえ君なんて名前? 一緒に遊ぼ」

「うん!」

 セリスは別の子供達と奥に走って行った。

「あ、セリス……あのセイラちゃん、ここには大人はいないの?」

 ガイストがセイラに尋ねる。

「マザーがいますよ~。奥の部屋にいますから案内しますね~」

 ガイストはセイラの後について行った。


 そして部屋の前まで来てドアをノックし

「マザー、ただいま帰りました~」

「お帰りセイラ」

 そこにいたのは痩せた感じの老女だった。

 その老女、マザーはベッドの上で座ったままドアの方を向いた。

「あら? そちらの方は?」

「あ、すみません。俺は」

 ガイストは事情を話した。

「そうですか。何のおもてなしもできませんがどうぞゆっくり……ゴホゴホ」

 マザーは口を押さえて咳き込んだ。

「すみません、お加減が悪いのに」

「いえいえ、お気になさらずに」


「あの、失礼ですがここにいる子供達は」

「皆孤児で私が引き取って育てていたのですが、このとおり病にかかってしまって」


「なのでわたしが代わりしてるんですよ~」

 セイラはそう言った。

「セイラ、お客様の寝室を準備してあげて。私はもう少しこの人とお話したいの」

「は~い」

 セイラは部屋から出て行ったのを見計らってマザーが話しだした。


「えっと、ガイストさんでしたね。あの子の目の事はお気づきですか?」

「ええ。最初に気づいたのは俺の仲間ですが」

「そうですか。実はあの子も孤児でして、ここに来た時はもう目が見えてなかったんです。でもまるで見えているかのように振る舞っていたので、私もしばらくは気づきませんでした」

「そうでしたか」

「あのようなことができるあの子には、何か特別な使命があるのではと思っています。だからいつまでもここにいてはと。せめてもう少しお金があればセイラを広い世界に旅立たせれるのに。そこでもしかすると、目が見えるようになるかも」


 ガイストは黙ったままだった。

「ごめんなさいねガイストさん、誰かに話を聞いてもらいたかったもので」

 マザーは頭を下げた。

「いいですよ。俺でよければいくらでも」


 そしてガイストは戻ってきたセイラに寝室に案内された。

 そこにはもうバンジョウがいた。

「あれ? セリスは?」

「今日はここの子供達と一緒に寝るってさ」

「そうか。ところでバンジョウ」



「なるほどな、それならちょうどいいのがあるだろ」

「ああ、武闘会がな。優勝してその賞金を」

「俺はついでに町長をシメあげたいがな。孤児をほったらかしにして何やってんだと」

「それは俺もだがな。まあ我慢しろ」


 そして二人は明日に備えて眠りについた。



「ゴホゴホ・・・・・・セイラ、あなたはおそらく」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る