第8話「セリスの力」

 ガイストとバンジョウが振り向くとそこにいたのは


「フフフフフフ、おとなしくその子を差し出しなさいな」

 全身タイツでデブで何かカマっぽい男。

 タイツはピチピチで体のラインが出ていて気色悪かった。


 ……


 それを見たガイストとバンジョウは硬直した。

「早くしなさいな、さもなくば全員殺すわよ」

 タイツデブカマ男が急かして来た。


「おい、バンジョウ」

「なんだ?」

「俺はセリスを守るからお前があいつを」

「何を言うか。お前は俺より強い、だからお前があいつを」

「お前こそ何を。お前の方が俺よりも力があるし強い。だから頼む」

「……なあ、じゃんけんで決めようぜ」

「……いいだろう、恨みっこなしでな」

 そう二人が揉めている間に、セリスがトコトコとタイツデブカマ男に近づいていった。

「うわあああー!? セリス、そいつを見るな近づくなーー!」

 二人は必死に叫んだ。


「ねえ、おじさん」

「美しいお姉様とお言い」

 タイツデブカマ男がそう言うと

「「誰が美しいだお姉様だーーー!」」

 二人がハモって突っ込んだ。

「うるさいわねえ。で、何セリスくん?」

「おじさん、ボクがおじさんについて行けばいいの?」

「おじさんじゃないって。まあそうよ、アタシについて来たらいいのよ」

「それ、何でなの?」

「あの方の御命令だからよ」

「誰だあの方ってのは!?」

 ガイストが叫ぶとタイツデブカマ男が振り向き

「ん? あなた達はもしかして、世界を覆う黒い霧が自然に沸いて出たとでも思ってるのかしら?」

 怪しい笑みを浮かべながら答えた。

「な、もしかして魔王みたいな奴でもいるのか? そいつが黒い霧を?」


「魔王とは違うわね。まああの方、アタシ達の主が黒い霧を出したのよ」

「そしてお前らにとってセリスは邪魔な存在」

「そうね。でもあの方は別にセリスくんを殺そうとしているわけじゃないのよ」

「何?」

「セリスくんの力を逆に利用したいのよ。そうすれば黒い霧はこの世界だけじゃなくて全次元世界をも覆う事ができるのよ」

「何だその『全次元世界』とは? 逆に利用とはどういう事だ?」

「そんな事あなたが知る必要はないわ。さ、セリスくん。行きましょ」

「させるかよ!」

 バンジョウがタイツデブカマ男に蹴りかかった。

「フフフフフフ……はっ!」

 

 タイツデブカマ男はバンジョウの蹴りを手で受け止めた。

「な!?」

「この程度でアタシを倒せるとでも? それっ!」

 タイツデブカマ男はバンジョウの足を持って壁に目掛けて投げつけた。

「ぐ、この野郎」

 

「くそっ!」

 ガイストは剣を振りかざしてタイツデブカマ男に斬りかかった。


「はっ!」

「ぐおっ!?」

 タイツデブカマ男はガイストの腹に掌打を喰らわせた。


「な、見た目のわりに素早い、そして強い?」

「フフフフフフ。さあ、死んでもらおうかしら」


「ねえ、おじさん」

 セリスが後ろから声をかけてきた。

「だからおじさんじゃないって、え?」

 タイツデブカマ男がセリスの方を見ると


「お兄ちゃん達をいじめないでよ」

 セリスの体が光輝いていた。


「え、この光って何?」

「ねえ」

 光はさらに大きく輝き

「キャアアアアア!?」

 タイツデブカマ男はその光を浴びて倒れた。


「あれ? おじさんどうしたの?」

 セリスはタイツデブカマ男をつついた。


「な、なんだ今のは? 知ってるか?」

 バンジョウがガイストに尋ねるが

「俺も知らんが、あれも優者の力かもしれん」


 そう言った時、タイツデブカマ男が起き上がった。

「!?」

 ガイストとバンジョウが身構えると

「あれ? アタシ、今までどうしていたのかしら?」

 タイツデブカマ男は辺りを見渡した。

「おじさんはお兄ちゃん達をいじめたり、村の人達を困らせていたりしてたんだよ」

 セリスがそう言うと

「え、アタシそんな事を?」

「もしかして覚えてないのか?」

 ガイストが尋ねた。

「……いえ、思い出して来ましたわ。アタシは何て事を、うう」

 タイツデブカマ男は顔を手で覆って泣き出した。

「どうやらこいつも黒い霧出してる奴に操られてただけのようだな」

 バンジョウが(正直気色悪いが今それ言ったら流石に可哀想か)と思いながらそう言った時、物陰から見ていた老神父や村人達が出てきた。


「神父様、皆さん……どうぞ煮るなり焼くなりご存分にしてください」

 タイツデブカマ男は土下座して言った。

「……ではあなたが壊した家や教会を私達と一緒に直してください。それで許しましょう」

 老神父がそう言った。

「え? それでいいのですか?」

 タイツデブカマ男が顔を上げて神父に尋ねた。

「ええ、あなたが操られていたのはわかりましたから。それにあなたをいじめたりしたらセリスくんに怒られます」

「うう、ありがとうございます」


「……俺達って必要なのか?」

「バンジョウ、いつもうまく行くとは限らんぞ。万が一の時は俺達が」

「ああ、そうだなってあれ、セリスは?」

「え? あれ、どこ行った? まさか別のやつに」


 スースー


「へ?」

 セリスはベッドの上で寝ていた。

「いつの間に寝てたんだよ」

「まあ、普通子供は寝る時間だもんな」



 翌朝

「どうもありがとうございました、そしてご無礼の数々をどうかお許しを」

 老神父は頭を下げて謝罪した。

「いいんですよ。それよりこれから大変でしょうけど」

「アタシが一生懸命働きます」

 タイツデブカマ男が笑みを浮かべて言う。


「おじさん、頑張ってね」

「ええ、頑張るわ」

 セリスはタイツデブカマ男と握手した。



「さ、行くかセリス、ガイスト」

「ああ」

「うん」


 三人は村を後にした。


「優者セリス様と守護者様達に神のご加護があらん事を」

 老神父はその場に跪き、三人の姿が見えなくなるまで祈り続けた。

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