晴章
Open your eyes, Look up to the skies and see,
佐々木が行ったあの宣戦布告の後も、俺は特段の変化を感じられなかった。最も宇宙人に未来人に超能力者と過ごす日々は、とことん変わっているという事は自覚していたが。
ある日、俺は本屋に居た。この前佐々木との会話で出てきた『エンダーのゲーム』というのが気になったので買いに来たのだ。本棚を眺めていると、あるタイトルに目が留まった。
『あしながおじさん』
「ちょうど三年前の今頃だったか…… あれは失敗だった……」
そこから俺は、海外SFコーナーへ向かった。『エンダーのゲーム』上下巻を持ってレジへ行く。そして、会計の際に言われた。
「キャンペーン中の商品ですので、お好きなしおりを一枚どうぞ」
箱の中から適当に一枚取る。アニメのキャラのようだが、俺の知らないものだった。
SIS弾のミーティングでは、数日後に迫った七夕に何をするか、ということが議題になっていた。ハルヒは今日も弾けるような笑顔で語っている。
「織姫と彦星が年に一度だけ会うってことにしたのは、一年かけて溜めたパワーを一気に開放して願いを叶える力に変えるためなのよ! つまり、その日に願えばこの世の不思議を暴き出すことができるわけ! これはやらない手は無いわ!」
「それが本当なら、七夕は世界規模での宗教儀式になっていて、願いはバンバンかなって、この世はとっくの昔に理想郷になっているはずじゃないか。なって無いってことは、違うんだろ?」
「それはつまり、一年間、邪な思いを抱かずに願い続けたものにのみ、その力を貸そうっていうことなのよ。みんな大抵途中で願ったことも忘れちゃうもんだから叶わないの。だから私たちにはパワーが宿るの!」
「その話の通りだとしてもだ、今から数日かけて願ったからって叶わないだろ?」
「だから今からやれば、来年には叶うでしょ! 数日余分にやれば、来年の七夕には未知のパワーでSIS弾に奇跡が起こるの!」
「……ふう。わかったわかった。」
「だから短冊に書く願いは、宇宙へ向けてのメッセージなの! 私は私でやってみせるから、あなたたちは安心して力を蓄えなさい。そして来年の今日、お互いの力を一気に開放して―――」
「ああ、そうだな……」
文芸部室は、いつもの通り時々脱線しながらのあれやこれやを続け、適当に遊びながらまた騒ぐ。そんな時間が流れていった。
俺は、なんだか落ち着かなかったんだ。今日は佐々木が学校を休んでいた。今日まで一日も休むことは無かったのに。それにあいつなら、休むにしても何か事情があることを伝えるだろうし…… ついに日常を飛び出して、どこか旅に出てしまったんじゃないだろうな…… あいつ自身が異世界に行ってしまうなんてことは……
そんなことを考えていたら、下校の時間になってしまった。今日はお隣も退屈だったかもしれないし、顔くらい出していこうか、なんて考えていると。
コンコン、とドアがノックされた。
「どうぞー」
ハルヒが答える。
「こんにちは。今、お邪魔しても良いかな?」
結城さんだった。
「いいわよー。何々、今度は何の勝負? 七夕関連だったら大歓迎よ!」
「俺たちもその辺を少し考えてはいたんだが、ちょっと事情が変わってしまってね。そのことを早めに伝えようと思ったんだが、邪魔しちゃ悪いと思ってこの時間まで待ってたんだ」
「別にいいのに…… それで何なの?」
「うん。実はな。うちの団長が今、病気で臥せっている。」
「「!!」」
その場の全員が驚いたようだった。だが、俺は地面が揺れたように感じて、足がふらついた。
「いつからなんだ?」
「ダウンしたのが先週の土曜日。だから今日で三日目だな」
「そんな…… 何で俺には……」
「団長に少し考えがあったらしくてな。そして、さっきメールで頼まれた。涼宮ハルヒとキョンの二人を連れてきてほしい、ってね。」
「ん??」
「病気の人間のところに大勢で押しかけるのは遠慮すべきだろうが、お前たち二人をしっかり連れて行く、って名目で乗り込むという腹積もりなんだ。そちらの都合はどうかな?」
「もちろん。行くに決まってるじゃない」
SIS弾とSAS団の面々で、佐々木の家に向かう事にした。結城さんがSIS弾の部室に来る前、上杉さんが先に佐々木の家に向かい、大勢が尋ねていく事情をご家族に説明し、段取りをつけることにしていたようだ。
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