Nothing really matters, Anyone can see,

 俺たちは佐々木の部屋に通され、入って行った。

「こんな姿でごめんね。来てくれてありがとう」

 ベッドに入ったまま、佐々木が挨拶した。その姿を見た途端、俺は足元から崩れ落ちそうな感覚に襲われ、どうにか踏みとどまろうとして力を込める。歯を食いしばって俯いていた。


「キョン、そんな苦しそうな顔をしないで。君のせいじゃないんだから」

 お前はいつもそうだ。絶対に人の、……俺のせいにはしない。それが正しくても間違っていても、俺は胸のあたりを掻きむしりたくなってしまうんだ。俺がだらしなくなっても、真面目になってもお前は変わらなかった。なら、俺はどうすればいいんだ?

「……でも、俺は……」

「まあ、その辺はもう少し後でね……」

 佐々木は全員と少しずつ話した後、ハルヒと二人で話したい、他の者は何処かで待っていてほしい、と言い、ハルヒもそれに応じた。



Talk on the Never Neverland―――――

キョン:なあ、みんな。何か話していてくれないか。黙って座ってると、気分がますます落ち込みそうだ。頼むよ。

結城:うちの団長の姿が相当衝撃だったかな? まあ、俺よりもはるかに付き合いは長いようだし。


キョン:まあ、その通り、ですよ……

結城:そうだな、何にしてもこの数か月は、俺の人生で最も充実していたことは事実だ。本来の目的をおろそかにしない限り、この状況を楽しむのもスパイの仕事の内だろう。いっそのこと独立してMI6団でも立ち上げるか。

古泉:ちなみに、それは何の略なのですか?

結城:M:みんなで  I:一緒に  6:ロックンロールする 団 かな。


キョン:ハルヒと発想がたいして変わらないじゃないですか……

結城:まあ、似たようなものかな。名前も重要だが、生き方の方が重要ってことじゃないか?

キョン:……そう、ですかね……


長門:私は何をすればいい?

キョン:何って?

長門:私は涼宮ハルヒを監視するためだけに生み出された。彼女に怪しまれないように、彼女の邪魔にならないように振る舞うことが必要。あなたの諜報活動と類似が見いだされる。自然に振る舞う、とはどういうことなのか。

キョン:……っ! そんなもんっ……


伊達:長門さん。それは人が陥りやすい罠の一つですよ。

長門:罠?

伊達:私も、この体になる前に対人関係で悩んでいたことがありましてね。『他人に妙な目で見られたくない』という思いの下、『自然に振る舞おう』と考え続けて日々を送っておりました。そして、そう考えれば考えるほど、体の動きがギクシャクしてきて余計に不自然になってしまう。いったいどうすればいいのか? そんな堂々巡りの日々でしたな。

キョン:……


伊達:心や体に関する本を読み漁ったりしておりました。そんな時に、ある小説を読みましてね、フランケンシュタインの技術が一般に広まっていたら歴史はどうなっていたか、というのを描いたものでした。

キョン:……

伊達:まあ、内容はそれぞれで読んでもらうとして、私が惹かれたのは、人工の魂を死体に埋め込んで動かしても、どうにも妙に見えてしまうという所。そしてそのことを『不気味の谷』という言葉で表していましたな。

                                ―――――to be continued


 ハルヒと二人で話し合う。本当は話したくないことだけど、これもきっと前に進むためなんだよね。

「何で私を?」

「私の秘密の一部を打ち明けようと思ってさ。本当の仲間になるために」

「本当の仲間?」

「うん。まあ、ちょっと聞いて。その前に一つだけ聞かせて欲しい。ハルヒはジョン・スミスっていう名前についてどう思う?」

「ジョン・スミス? 英語圏の男性のよくある名前、くらいしかないけど……」

「そう、なんだ。やっぱり…… そうかもしれないって思っていたんだ」

「どういうことなの?」

「うまく言えないんだけど、お互いにアンフェアだったってことかな」

「全然わからないわ」

「ちょうど三年前の今頃の話でさ、私はそのジョン・スミスに大切なものを貰ったんだよ」

「大切なもの?」



Play More―――――

伊達:『不気味の谷』とはCGの技術の向上と共に現れてきたもので、技術が高まれば高まるほど自然との差が強調されて見えてしまう、と言う現象のことのようです。それと『死体が動く』という現象を重ね合わせた表現だったのでしょう。ただ、私には自分の現実での動きづらさとマッチした表現に思えたのです。

キョン:……


伊達:そして、頭の中に稲妻が走った! ……あ、そんな気がした、という話ですよ。それまで読み漁っていた中に、ユングという人の心理療法を書いたものがあったのです。

キョン:ああ。


伊達:ユングという人の治療は、最終段階へ向かう事を『個性化の過程』という言葉を使って表していましたね。結局どういうことなのか今でも私には解っていないのですが、その場にいる時に、気分を楽にして、体を動かすことが何も考えないで出来る。まあ、そのためにはその場にいて安心できる、『自分だけの支え』のようなものがあればいい。そんなところではないでしょうか。

                                 ―――――to be continued



「詳しく話すと長くなるから、今は話さないでおくけどさ、私、中学校に入るちょっと前からすごく危機的な状況でね。入ってからはなおさら大変で。それでも誰にも何も話せなかった。どこにも吐き出せない気持ちをどうにかしたいと思って、紙に書いてある場所に埋めておいたんだよ」

「……うん」

「そういうのを続けていくうちに、ある時、見慣れないものがその場所にあった。だれかが私の書いたものに答えたメッセージだったんだ」

「……へえ」

「それを見た瞬間、顔から火が出そうだったよ。いままでの私が書いたもの全部見られちゃった。恥ずかしいなんてレベルじゃなくて、そのまま燃え尽きて灰になりそうな勢いだったよ」

「……ほぉ」

「でもさ、そこに書いてあることがなんだか面白くって、良く解らないまま惹かれていってさ。最後には『俺に向かってなんでも吐き出せ!』みたいなことが書いてあったんだ。だから、また読んでみたいって思って、何かを書いてみようって思った。それまでは絶対にそんなことを考えなかったのにね」

「……はぁぁ」

「その差出人の名前がジョン・スミスだったんだよ」

「……ふぅん」



Play More―――――

伊達:それで、その『自分だけの支え』を手にするためにはどうすればいいのか。それがどこを読んでも見つからない。そりゃそうですよね。誰かに教えてもらえるわけないですから。

キョン:……そうだな。


伊達:私が、たどり着いたのは『自分にとって大切なものは何か』ということを自分で見つけること、だと思いましたね。なにをやるにしても、まずはそこからってことじゃないでしょうか?

キョン:……そうさ。


伊達:『不気味の谷』の反対の何か。それはきっと『個性化の山』とでも呼べるものがあるように思えたのですよ。

                                 ―――――to be continued



「何度も手紙のやり取りをしているうちに、私の気持ちが楽になっていってさ。それである時、その場所で張り込んだんだ。ジョン・スミスの正体を見ようって」

「うん、うん」

「今思えばルール違反だよね。自分から会いに行けないのに、隠れて覗こうなんて」

「ふぅむ」

「それで、ある時にその人を見ることが出来た。私の同級生だった。同じクラスのね。そして今ハルヒがとても良く知ってる人さ」

「………? …………?? ………んなっ!」

「まあ、そういうことなんだ。そしてはっきり言える。今の私がここに居て、感じられること、想いの全て、そのジョン・スミスのおかげなんだって。そのサンタクロースから貰った、最高の贈り物だって」

「……え、ええ」

「だから、ハルヒにもそれを持っていて欲しいんだ。そうすればきっと、もっと良くなるって思う。私たち自身も、世界にも、ジョン・スミスにも。これは、私が誰かのサンタクロースになるための必要なステップなんだよ。きっとね」

「……うぅん?」

「話したかったのは、これだけ。元気になったら、もっと面白い事をやろう」

 私はそこで話を終えた。そして、ハルヒにキョンを呼んでほしいと頼み、キョンに向けての覚悟を決めた。


Play More―――――

伊達:即ち! わが魂の和製ハイエンド・ゲームを楽しみ尽くすためには、自らの趣味嗜好を突き詰め、己を高め、クリエイターと共に『個性化の山』を登り切ってこそ―――

涼宮:キョン

キョン:!

                                  ―――――Interruption

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