Anyway the wind blows

Talk on the Wondering Wonderland―――――

涼宮:マコトが呼んでるわ。今度はあなたの番みたい。

キョン:そうか。ありがとな。

涼宮:ええ。


伊達:いやぁ、何の話をしていたか解らなくなってしまいましたね。話をやめるにはちょうど良かったかもしれません。

涼宮:何の話? ちょっと私も混ぜなさいよ。

古泉:涼宮さんのようになるには、どうすればいいのか。というような話ですよ。僕は妙な時期に転校してきたので、体に馴染むまで時間がかかってしまって。そんな所です。


涼宮:ふぅん。ねえ、続けて。私も聞きたい。

朝比奈:ええと、涼宮さんの前でそういうことをいうのは、その……

涼宮:遠慮しないで良いわよ、みくるちゃん。何を言われても部室でおとなしくするなんてことは無いから。

朝比奈:えぇと、あの……

上杉:人と人が面と向かって話し合うことは、自分たちの物語を紡ぐこと、っていう話じゃなかったかしら?

涼宮:? 何それ?

                                 ―――――to be continued


「……なあ、本当に大丈夫なのか?」

 キョンの目を真っすぐ見つめた。ここは真剣に行かないとね。


「うん、大丈夫さ。きっと良くなる。それで、君に打ち明けたいんだ。私の秘密の半分くらいをね。もう半分がどうなるかは、この先の私次第だろうね。


 君も感じていたかもしれないけど、私の周りでは、他の所に居るより人々の表情が穏やかで、どこか明るい。私には人を安心させる、不思議な力があるのかも、みたいに」

「……ああ。そう感じてる」


「それはきっと、半分正解なんだろう。ではなぜ、あの古泉君が言うように、これ以上ないほど普通の人間の私にそんな力があるのか」

「……そんな言葉は忘れちまえ」

「まあ、もう少し聞いて。少し前に、脳に関する研究で『ミラーニューロン』というものがある、ということが明らかになったみたいでね。その辺の話をきいてちょっとピンときたんだ」

「……ああ」



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上杉:ユングという人が人間関係全体のことを考えて言った言葉に、『コンステレーション』というのがあるらしいの。『コンステレーション』っていうのは、日本語にすると『星座』みたいなことらしくてね。

涼宮:へぇぇ。


上杉:星座って考えてみれば、点を線で結んだだけじゃない? それだけのことなのに人はそこから絵を描いて、その先に物語を産みだす。そして、そもそも無数にある星のなかから何故それらを結ぼうと思ったのか、意味を考えてなのか、適当になのか、どちらにしても私たちが選んだことに意味がある、そんな話だったと思うわ。

涼宮:うん、うん。


上杉:もしも、私たち一人ひとりが見る世界が、自分の心で描いている何かに依るとしたらどうなのか。色々な事実を自分の『何か』で描いているのではないか? その辺りから、『星座を描く』というような『コンステレート』という言葉も出てきたみたい。

涼宮:ほおぉ……


上杉:つまり、人間関係、家族や友達とか、無数にある人々の中から私たちが今、近くにいるっていうのは、抗えない幾つかの事態はあったにしても自分自身で選んだことじゃないか、ってね。

涼宮:うーん?

                                 ―――――to be continued



「その『ミラーニューロン』というのは、他人の動きを真似する、真似をしようとする、という働きがある、ということらしいね。詳しくは読んでないんだ。お恥ずかしい」

「……俺なんか聞いたことすらなかったよ」

「そうかい? うん。まあそれが前提の一つかな。もう一つは、私は人より見たり聞いたりの感覚がちょっとだけ鋭いんだ。他の人が気付かないことがちょっとだけ目につく感じでね」

「……ちょっとじゃないさ。すごいもんだよ。お前は」

「そうかな? ありがとう。まあ、その二つをミックスさせて考え出した仮説がこう。


 私は、人の動き、声、言葉、表情、未だ知り得ぬ何かを敏感に感じ取り、それを私の心や体で真似ようとする。

 

 そして誰かの痛みを自分の体や心で感じ取り、どうすればそれを取り除けるか、癒せるかを体や心を動かしながら、感じ続け、考え続ける。

 

 ある程度その方法が判ったら、その人の前で、気付かれない程僅かに体を動かし、心地良いと思う言葉を会話の中に紛れ込ませる。

 

 苦しんでいる誰かは、私のその動きや言葉を真似て自分自身で気分を良くする。

                                      どうかな?」

「そんな……!」



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上杉:私たちは未来を想像することができる。夢物語であっても『こうであったらいいのに』みたいに楽しい事を想像するのは止められない。そういう理想を描いていると、自分でも気づかない体の動きや言葉の端々にそういうものは現れる。それは良いことでしょうね。でも逆に、暗いイメージを描いた場合は、それも色々な所に現れてしまう。

涼宮:そうかなぁ?


上杉:まあ、もしかしたら、くらいに聞いてね。世界中に根を張り巡らせた情報網であらゆる事が一瞬で伝わる。自分がまだ知らない土地へ行ったような気分になれる。知らないことを貪欲に求めるのはいい事だと思う。だけどね、溢れる情報のうち正しいものっていうのは、どんなものなのかしらね?

涼宮:私が正しいと思うものでしょ?


上杉:その通り。私たちは自分が学び取った知識で判断できる。でもね、人間の記憶ほど曖昧なものは無いの。仮に過去の記録が全部書き換えられて、ちょっとおかしいと思ったとしても、繰り返し言われ続ければ、人は信じてしまうものなのよ。

涼宮:ふぅむ。

                                 ―――――to be continued



「正しいかどうかなんて解らないよ。でも、今はこれがきっと正解に近いって思えるんだ。もちろん正解だったとしても、私はそんなことを意識したことは無いから、ほとんど無意識にやっているんだと思う」

「……でも、しかし……」


「もう少しだけ聞いてほしいんだ。長くてごめんね。だからきっと、私に起こる心身の不調みたいなのは、私が原因なのは実はとても少なくて、ほとんどが周りの人の何かからなんじゃないかって思うんだ。


 人のせいにしているわけじゃないよ。そうだとしたら、私がどこかで力を抜き過ぎてるってことだと思うからね。きっと今のこの体調不良も世界の誰かの苦しみを半分くらい引き受けているんじゃないかな。


 まあ、それが正しくても間違っていてもね、この世界に起こっている一つの重大なことが見えたんだ。


 コンピュータの発達と共に、色々な作業が機械化されて自動化されていった。そしてネットワークでつながってさらに進化を続ける。そんな中で新しい犯罪が見い出されるようになった。サラミ法っていうものさ。


 ほんの少しずつサラミをスライスして切り取っていけば、ソーセージ一本分奪い取られることが発覚しづらい。僅かずつ奪い取られていることに人は気付かない。たくさんの人の銀行口座から1円ずつ引き出して自分の口座に振り込ませる、とかね」




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上杉:もしも、この世界が絶望に溢れている、なんて言葉を繰り返し与え続けられたら、そして周りの人々も同じように考えていたなら、みんなそれが真実だって思ってしまう。ちょっと大げさだけど、私から見れば、今の大人たちの世界は、ほとんどこんなもののように見えるわ。かつて恐れられていた情報統制のディストピアはとっくの昔にこの世に現れていた、って思うくらいにね。

涼宮:まあ、私の不満が溜まる一方だったのは認めるけどね。


上杉:そして、生命の神秘がまた一つ見える。人間はどんな状況にあっても、そこに適応し、気分を楽にしたり、楽しもう、笑おうっていう力が出てくる。その結果として『平均的な人』というところから大きく外れることになったりね。この偉大な力は、人間みんなに平等に与えられている。辛い状況をどうにか生き延びることができる。例えば、ある民族を絶滅させようとした収容所でも、きっと。

涼宮:……

上杉:だからね、楽しい事をより楽しくしようと思えば、私たちに出来ないことなんて無いのよ。あなたがやっていることは、正しいわ。

涼宮:……ふん。

                                 ―――――to be continued



「『モモ』って話知ってるかな?」

「ああ、知ってる」

「時間を奪う『灰色の男たち』と少女が闘う物語だけどね。あの話、感動的ではあるけど、どこか怖いよね。私たちの世界がその物語では無い、なんて誰に言えるのか。そんな声が聞こえるようだよ」

「……そうだな」


「ある時、私は気付いた。この世界の『何処かの誰か』が行っているサラミ法に。それはお金を奪う事より、はるかに恐ろしく罪深い。


 毎日少しずつ、人々から喜びや感動の種を奪い、それと同じだけの不安や恐怖の種を蒔く。そうすることで人々は容易く悲しみのどん底に落ちていってしまう。なぜ自分が悲しみ、苦しんでいるかわからない人々は、同じ思いを持つ仲間をすこしでも増やそうとする。自分のことを話せて、頷いてくれる人が欲しいから。


 巨大な罠にはまっていることに気付かずに、自分たちの行動は良い事だって思ってる。そして、何かちょっと違う事、面白い事をしたいって思っている人がいると、それは悪い事だって決めてしまう。こんなひどい話は無いよ。


 たとえどんなにくだらない事だって、それが私にとって大切なことなら、世界にとって重要じゃないなんて誰に言えるの? 私がそれを望んで、そのために必死になって、命を燃やし尽くして何がいけない?


 歴史の解釈が目まぐるしく変わっていく中で、何が正しいか間違っているか、未来がどうか、過去がどうか、なんて考えてどうなるっていうの?


 ある時点でそれが間違っていたとしたって、私が必死にやれば誰かの目には映る。それが誰かの認識で『間違っている』ってことだとしても、そうなれば、その誰かから『何か』が生まれる。それで世界が動けばそれでいいじゃない。そう思わない?」

「思うさ」


「あの宣戦布告は、その『何処かの誰か』に向けたメッセージだったんだよ。隠れてないで出て来い。私はここにいる。すべてをさらけ出して語り合おうって。


 すべては私の直感さ。だれも答えは教えてくれない。でも求めることはできる。私が私の幸せを願うことはできる。そして、奇跡が起きた。返事が来たんだ」

「返事?」


「ちょうど三年前の今頃だったかな。君と手紙で語り合っていたのは」

「……それは、まあ、そうだったかな……」

「少し前に本とかDVDとかゲームとかを、ほとんど手放してしまってね。あるとき本屋で久々にあの本を目にして買ってしまったよ。『あしながおじさん』をね。キャンペーン中の商品みたいで、レジでしおりを一枚貰えた。その裏に書いてあった。


 三年前の七月七日 東中学 涼宮ハルヒとジョン・スミス

                       お前の願いは、その先に


 少し前なら、疑う気持ちの方が強かっただろう。でも今は全部信じられる。君が三年前のハルヒに私と同じものを与えてくれる。それがきっと私の望みなんだよ。


 だから、これは私からのお願いさ。三年前の涼宮ハルヒに会って欲しい。そこから先は、私には分からない。聞いてくれるかな」

「やるさ。もちろん」

「ありがとう」



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上杉:石板とか竹とか紙の時代に残された歴史が100%正しいなんてことは、誰にも言えない。私たちは自分が受け取りやすい形の『物語』というもので胸の中に閉まっている。だからね、自分の領域を逸脱しなければ、どんな形に解釈したり、書き換えたって、それはきっと―――

キョン:ハルヒ

涼宮:……!

                                  ―――――Interruption


「話は終わった。今日はもう帰ろう」

「ええ、そうね……」

 帰り支度を始めながら、俺は朝比奈さんを目で追っていた。そして、胸に空気と何かをため込んで、話す決意を固める。あとは、タイミングか……

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