ルール1:SOS団の秘密は誰にも話すな

 佐々木の家から全員が帰路につく中、俺は朝比奈さんの後を追い、声をかけた。

「朝比奈さん」

「はい?」

 俺は声に力を込めて話した。どこか震えているのをごまかすように。

「俺と時間遡行して欲しいんです。三年前の七月七日。お願いします。」

「ええっ!?」

 朝比奈さんは1cmくらい宙に浮いたように見えた。それくらい驚いて気が動転しているようだ。

「ええっと……、あの、それ、だめです。時間遡行するためには、申請を出して、いろいろな人の許可を貰わないと……」

「頼んでいるのが俺だから、ですよね」

「は、はい。そうです……」

「その申請、今すぐ出して貰えませんか? たぶん、何かの返事が来ると思います。俺が何かをすれば、許可を貰えるかもしれないんです」

「は、はい……」

 後ろを向いて手元で何か操作しているようだ。俺に見られるとまずいのだろう。

「……え? 本のしおり? ……は、はい」

 朝比奈さんは振り返って、俺に聞いてきた。

「あの、キョン君。今、なにか本を持ってますか?」

「ええ、持ってますよ。」

「ちょっと見せてもらっていい?」

「はい」

 俺はカバンから文庫本を取り出した。いつか佐々木の話で気になっていた『エンダーのゲーム』。今持っているのはその下巻だ。朝比奈さんはページをめくりながら、しおり取り出した。それを裏返した時、彼女の体が強張ったように見えた。

「そんな…… どうして……?」

「どうしたんですか?」

 朝比奈さんは、しおりの裏に書かれた妙なものを指さしていた。文字なのか絵なのか良く解らない。

「これが、時間遡行が許可されたサインなんです。でもこんな形で来ることなんて今まで無くて…… いったい何がどうなっているのか……」

 何かに背中を押されたような気がした。そして、俺は、朝比奈さんの目を真っすぐ覗き込んで言う。

「……朝比奈さん。俺は今、何が起こっても、それは俺が前に進むためにあるんだ、ってことを信じられるんです。このあたりの話は、俺のやるべきことが一段落したらきっちり話します。だから今は何も聞かずに時間遡行してください。お願いします」


「……わかりました。行きましょう。」

「ありがとうございます。それで俺はどうすれば?」

「手を出して、目を閉じてください」

「はい」

 俺は手を出し目を閉じる。朝比奈さんの手が俺の手に重なった。次の瞬間、俺の意識は闇に落ちていった。


―――――


あいつの言っていることが本当だとしたら……

もしも、俺の何かをずっと引き受けてきたとしたら……

今、あいつが苦しんでいるのは、俺のせいなのか……

俺は一体、何をしてきた?

何をしてこなかった?

これから、どうすればいい……


答えはいつも、私の胸に……


―――――


「ん」

 俺は目を覚ました。公園のベンチで一人で横になっていたようだ。

「ああ、そうか……。本当に来れたのか? あれ?」

 俺は右手に何かを握っているのに気付いた。手を広げてみると折りたたまれた紙で、それを広げると文字が書いてあった。手紙だ。


キョン君へ


 一人にしてごめんなさい。

 実は時間遡行の後、もう一つ指令が来たんです。

 キョン君をベンチに寝かせて、ある場所に向かうように指示されました。そしてそれには最優先コードが書かれていました。わたしは逆らう事はできません。

 でも、その指示にはキョン君が目的を遂げて、元の時間平面に帰るための準備のことも書かれていたんです。すべてが終わったら詳しく話してくれると信じて、もう一枚の紙に記す場所であなたを待っています。幸運を!

                                朝比奈みくる


 もう一枚の紙には、地図が書かれていた。

「ありがとう。朝比奈さん。……よし」

 俺は顔を叩いて、歩き出した。向かう先は涼宮ハルヒが通っていた、そして今、通っている中学。そこに何かがあると信じて。

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